オマケ 1. 日野彩人の受難
よろしくお願いします。
「彩人、ご飯は食べた。ちゃんとどんぶり二杯以上は食べたんでしょうね」
「ちゃんと、食べたよ。母さん」
小林先生が関西まで来てくれてから俺は朝はご飯になった。前はパンだけか学校についてからパン屋で菓子パンを買ったりしてたがそれはなかった。母さんの知り合いに栄養士の人がいてメニューを教えてもらったりしていつもご飯は作ってくれるようになった。昼も弁当を用意してくれるようになったけっこう大きいタッパーにご飯とおかずを入れる。それは自分でしている。母さんとの約束だった。母さんはわたしがすると言ってくれたがそこは俺がやると言い切った。トレーニングは欠かせないようにして体重は4kg増えた。かといって脂肪にはなっていない。
「忘れ物のはない?」
「大丈夫だよ」
今日は入学式だ。海坂商高に今日から世話になる。武庫シニアの同級生はもう練習に参加している。家から通うヤツ、寮にはいったヤツ色々だ。寮の学校にいったヤツは『今日から懲役3年の御勤めに行ってくる』なんてVシネマの見過ぎみたいなことも言っているけど学校が陸の孤島なんて呼ばれているところにあったりするのであながち冗談ではない。俺が私学に行けなかった理由は特待免除でお金が入らないって言っているけどそんなのウソだ。父母会からの寄付の催促、土日の遠征参加、差し入れだって馬鹿にできない。母さんにそんな負担を強いるわけには行かないからだ。幸い母さんには小林先生のつてで給与や休暇が安定して取れる仕事を紹介してもらったから比較的父母会のことにも参加しやすくなった。母さんのことも配慮してくれるらしい。だから俺はがんばらなくてはいけない。
「今日は結衣ちゃん、ティファちゃんと一緒に行くんでしょ。遅れないようにね。母さんは結衣ちゃんのお母さんと待ち合わせしているから」
「…わかった」
そうだった。本当は小池達と一緒に行きたかったがこの間の掬星台高校との試合を見に行った帰り、偶然、堀結衣と加賀ティファニー麻実子と会い。一緒に行く約束をしてしまった。俺は昔を思い出していた。小4の頃よく家が近所だったから三人でいつも一緒に行っていた。途中で井口優佳の家の前を通るから前で待っている彼女と合流して最後に高宮理恵と合流して昼寝と高宮が口げんかをおっぱじめてそれをティファが止めてその間に俺と井口がしゃべっていてそれを見た三人が急に俺に怒り出してって…。なんか嫌な予感がするなあ。
そのとき家の玄関から予鈴が鳴った。
「誰かしら。彩人、ちょっと出てくれる」
母さんに言われて玄関を開けた。
「おはようございまーす。彩人くん」
「おはよう。彩人」
昼寝とティファだった。そして…。
「彩人、おはよう」
スッキリとしたショートヘアーに赤のフレームの眼鏡で身長が150cmくらいの小柄な女の子が昼寝とティファの間から出てきた。
「優佳ちんも一緒にきちゃいました」
昼寝がハハって感じで苦笑いを浮かべた。
「あらあら、井口さんも来てくれたのね」
母さんが出てきた。すでに着替えて用意ができている感じだった。
「「「おばさん、おはようございます。お久しぶりです」」」
「おはようございます。彩人、待たしちゃだめだから、もう行きなさい」
「わ…わかった。行ってくる」
俺はあわててエナメルのバッグを持って自転車に乗り家を出た。
3人も自転車なので一緒に向かった。待ち合わせの約束をしていたのに何で家まで来たのだろう?
「少し急ぎましょう!」
昼寝が急にあわてた口調になり自転車のスピードを速めた。
「おいおい、そんなに急がなくてもいいだろ。このまま行ったら誰も来ていない時間に着いちゃうぞ」
「急がなくてはいけないのです!何か気配を感じますので!」
(昼寝?いつからそんなエスパーじみたことになってんだ。それにティファや井口までなんで早く自転車漕いでいるんだ?)
急いで自転車を走らせ、他の入学式に行くであろう生徒達を抜かしながらスピードを出したが丁度、曲がり角を曲がって一本道のところで髪の長い小柄な女の子がこっちを見ながらこちらを待ち受けているように立っていた。しかも制服が海坂商のものでなく違う制服を着ていた。横を見ると昼寝がガックリとうなだれていた。近くまで来るとそれが純心女子高のものだとわかった。そう、高宮理恵がそこにいた。
「ああ、見つかっちゃいましたか」
昼寝ががっかりした感じで話した。
「昼寝!アンタやっぱり油断も隙もないわね!そんなことだろうと思って先回りしといて正解だったわ!」
高宮が仁王立ちで怒っていた。なんでアイツ怒ってんだ?
「ティファ、これどういうことなんだ?」
思わずティファにどういうことか聞いた。訳がわからない。
「昼寝ちゃん、理恵さんから入学式、彩人と一緒に行くか何度も聞かれたみたいで…」
ティファも眉をハの字にして困った顔笑いを浮かべている。
「ティファも優佳も一緒に行動してんじゃないわよ!」
高宮は今度は二人にも噛み付いた。思い出した。小学校の時、登校時いつもそうだった…。
「理恵さん、せっかく彩人が帰ってきたんだからそんなに怒らなくても…」
高宮と昼寝がお互い睨みあいをしてティファが困った顔をしている。
ふと誰かが袖を引っ張ったので振り向くと井口が袖を掴んでいた。
「彩人、ホントに帰ってきてくれてうれしい…」
井口がはみかむような笑顔でいった。普段は無口だが時々話すとこういう表情も見せる。変わらないな。
「「「彩人、何そこでコソコソしゃべってんのよ!」」」
三人が一斉にこちらに振り向いて怒り出した。なんでそこだけ気が合うんだよ~。
「あなたたち、そこで何騒いでいるの!ご近所の迷惑になるからやめなさい!」
凛とした通る女の人の声で注意され振り向いたら、海坂商の制服を着たたぶん上級生らしき人が間に入ってきた。確か野球部女子マネの中田恵理先輩…。
「あなたが日野君ね。ったく小林先生から母親思いの優しい少年って聞いていたのに。どっかの本みたいなお約束みたいなことを…。そんなんじゃろくな死に方しないよ」
(それ、すっごく誤解のある言い方なんですけど…)
もちらん言葉には出さない。
「あのっ、野球部のマネジャーの中田先輩ですよね」
昼寝がいきなり中田先輩に話しかけた。
「わたし、野球部の女子マネとして入部希望をしたいんですぅ!」
おいっ…、そんなこと聞いてないぞ。
「わたしも、お…お願いします」
ティファも顔を真っ赤にして言った。
高宮は何か言いたそうにしているみようだけど黙って俯いていた。井口は興味なさげな表情をしていた。
「日野君、確かあなた達、入学式の後、先生のところに行くこと言ってなかった?」
そういえば、小池と終わったら行く予定にしてたけど。何で知っているんだろ?
「はい、小池と一緒に行くつもりでした」
「じゃ、その子たちも一緒に連れて行ってあげてね。それから遅れないようにね」
中田先輩は自転車でそのまま去っていった。
「俺たちも行こう」
声をかけると四人とも自転車に乗った。
「高宮、また、連絡するから」
「わ…わかったわ。そ…その変わり絶対連絡するのよ。いいわね」
高宮は顔を赤らめながら、俺たちとは違う方向へ急いでその場を離れるように立ち去った。
「彩人くん、なんでそう言うこというのかなぁ」
自転車に乗りながら昼寝は頬を膨らませながら言った。なんでそんな顔をするんだ?
「ところで二人ともなんでマネジャーになろうと思ったんだ」
二人とも野球に興味があるなんて知らないんだけど。
「えっと…。前から見ててき…興味があったから」
昼寝があわてたように答えた。
「ひ…昼寝ちゃんと同じです」
ティファも顔をそむけながら答える。なんかよくわからん。
「そうか。そう言えば、井口は部活はどうするんだ」
「ん、書道部」
そう言えば井口の家は書家で有名だったし、井口自身もよくどっかの賞をよく取ってたな。
その後、俺たちは取りとめのない話をしながら学校へ向かった。後日、このことが中田先輩以外の他の部員見ていたらしく小池やリカルドを始め他の一年生からも『ラノベ野郎』とか『リア充氏ね』とか訳のわからないことを三年間言われ続けるのであった。
気分転換に書いてみました。