幕間 (2) 人々は集まるⅡ
よろしくお願いします。
「スゲエ、引き分けると思わなかったわ」
小池敦士が驚きながら引き分けが決まった瞬間答えた。俺と小池は高宮と別れた後、球場の内野スタンドからこの試合を見ていた。去年、甲子園に出た掬星台高相手に4対4の引き分けとは試合内容を含めて予想がつかなかった。小池としゃべっているとつい関西弁になってしまう。
「最終回の、3番の人、三浦さんだっけ。あの人成瀬さんのストレートを左中間の遠くまで持っていくなんて。さすがにアレは読めんわ」
「せやけど、日野、俺あの人相手にレギュラーは奪う(とる)のん厳しいわあ」
小池はゲンナリした表情でいった。
「並川さんか?あの人キャプテンやろ。あんな鬼肩、俺も盗塁できる自信ないわ」
「正直、オマエや俺以上に上手い人おらんかったらどないしようと思っとったわ」
いいセンパイがいなかったら3年間どうしようと思っていたのは事実だ。
「三浦さん、見てたら小林先生の現役時代によう似てたわ」
「せやな」
俺も小池もわかったことがある。
「三浦さんは本物や」
「せやな」
二人とも海坂商で頑張ろうと思った。
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「何とか引き分けに持ち込んだぁ。よかった」
試合終了直後、亜佐美ちゃんは満面の笑顔で喜んでいた。わたしもタクマが活躍してくれて嬉しかった。まさかホームラン打つなんて東京に行く前に見れてよかった。
「でも、アマリアセンパイ、三浦クンがホームラン打った時、飛び跳ねてましたねぇ」
タクマがホームランを打った時、思わず我を忘れて喜んでしまった。ホントに余計な事は覚えているんだから…。
「川谷クンもなんとか抑えていたじゃない。点は取られたけどそんなに打たれたわけじゃないし」
「ウン、そうなんですよ。頑張って練習してましたからね。でもぉ、三浦クンもよく練習しているって諒も言ってましたよぉ」
話を変えようとしてもなんかひっかかるわね。このコ。
「わたしとしては気になるんですよねぇ。海坂商一美人って言われてたアマリアセンパイに高校生活三年間浮いた噂もなかったし。しかも近所に今、海坂商男子人気No1の三浦クンの幼馴染ポジでいるって普通なにかあるって思うわけじゃあないですか?」
はやく帰りたい…。
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「本部長、成瀬君からホームランを打ったセカンドの子、それから途中からピッチャーに替わったキャッチャーの子。そんなところですかね」
部下である村田が海坂商の選手の名前を挙げた。試合は引き分けに終わった。成瀬君は村田の話ではいつもと変わらなかったそうだ。立ち上がりは悪いのはいつものことだが3回以降ホームランを打たれる前までバントヒット1本のみ。常時140km前後で完投。MAXは144km。終盤も球がお辞儀することもなかった徒のことだった。冬は順調に過ごすことができていたのだろう。
確かにセカンドの子は成瀬君から三塁打と本塁打の二本。いずれも真っ直ぐを芯で捕らえている。身長も180cmくらいで身体もできてくるだろう。足も速く3塁打のときも塁間スピードが速かった。
キャッチャーは何よりあの強肩だ。タイムが1.76とは怖れいった。スタンドに峰岸さんと一緒にコンダの谷本課長が来ていたな。おそらく小林君のことでコンダの意向を汲んでいるのだろう。二人に関しての調査は終えているとみなしていいだろう。ただし、志望届を出せるようにもって行くのもこちらの腕次第だ。
「村田、今回のことで何か言う事はないか」
私はこの部下に最後のチャンスをやった。返答次第では今後のことは考えなければならない。
「確かにコンダとウチのことに関しては知っていましたがすぐにピンと来なかったことは反省しています」
まあ、素直に人のせいにせず自分のミスを率直に認めたことはみてやろう。ただし次はない。
「海坂商の二人の調査を始めてくれ。大日ハムや芸州、関西の編成も来ている。成瀬君を含めてマークしてくれ」
「わかりました」
彼にはもう少しチャンスをやることにした。私も真庭さんに怒られながらこの稼業をしてきたからな。
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「リカルド、やっぱ三浦センパイすげえな」
「ああ」
今日、海坂商が去年甲子園に出た。掬星台高校と試合が波崎であると聞いて見にきていた。海坂商にもなんとか合格できた。勉強しないと母さんと姉ちゃんがうるさいから必死に勉強して合格した。小林先生が父さんの就職を紹介してくれたおかげで高校に行くことができた。姉ちゃんも仕事(まさか芸能人になるとは思わなかったけど)が決まった。今日は同じ中学のチームメイトで一緒に海坂商に行く中村光輝と見に来ていた。
「でも、正直、バッテリーとセンターと三浦センパイ以外下手だな」
「でも、ショートの人もまあまあだったぜ」
でも俺のほうが上手い。センパイはショートの人にだいぶ気を使っていた。俺と組んでいたら余計な気を使わずにすむのに。だけどバッティングは数段上手くなっていた。ホームランもあんな速い球をあそこまで飛ばすなんて。
「海坂三中の田中と中村だな」
振り向くと練習試合で何度か対戦した顔見知りがいた。
「お前、たしか波崎西中の椚?」
「そうだ、お前らも海坂商に行くのか」
「ああ」
「俺もだ。あと3~4人波崎から来る予定だ」
前にコーチに聞いたことがあるけどたしか椚は西海大五の推薦内定を取り消されたって聞いた。
「まあ一緒のチームになるからよろしくな」
「ああ」
なんかぎこちなかったが悪いヤツじゃなさそうだ。
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小池と家の方角が違う俺は自宅に向かって自転車で海坂市内を走っていた。行きは高宮に会ったがアイツはもう家にかえっているだろうな。ボブカットで黒髪の子と金髪の髪の長い子とすれ違った。二人とも美人だが何より胸が大きいのにビックリした。思わず五度見しそうになった。よく母さんから怒られたけど…。
「お願い止まってぇー!」
女の子の声で呼び止められた。振り向いたらあの二人だった。そんな知り合いいないけど…。
「ひょっとして彩人くんですよね?日野彩人くんですよね?」
二人がこっちに駆け寄ってきた。黒髪の子が俺の名前を連呼する。金髪の子も満面の笑顔だ。金髪で思い出した。それに黒髪のボブの子も…。
「ひょっとして『昼寝』と『ティファ』?」
「そうですよ。小4以来だよね。久しぶり」
ニックネームで呼んでしまったが黒髪の子は堀結衣、金髪の子は加賀ティファニー麻実子。ニックネームは堀はよく昼寝をするから、加賀はティファニーからだ。堀は定食屋で加賀は洋菓子店を親がしている。ちなみに加賀のお母さんはフランスの人だった記憶がある。この二人も小1から小4まで同じクラスだった。二人には高宮と同じように急な引越しで挨拶できなかったことを謝り、関西に引っ越してから今年になって帰ってきたこと。や海坂商に進学することも話した。
「えーっ。彩人も海坂商に進学するんだ。じゃあわたしたちと一緒ね。ちなみに井口さんも一緒だよ」
ティファが満面の笑みを浮かべた。小学生のころから思ってたけど相変わらず綺麗だな。横を見ると昼寝が機嫌が悪そうな顔をしてこちらをみている。
思い出した。たしか名前は井口優佳。この子はいつも図書室で本を読んでいる子でよく話す男子は俺くらいだった。小1からいつもこの4人で一緒にいた。この4人、いつも一人が俺と話をすると他の三人の機嫌が悪くなるのだ。
「ところで彩人くんは今日はどこかに行ってたんですか」
昼寝から聞かれ、入部する予定の海坂商野球部の試合を見に行ったこと。その途中で高宮にあったことを伝えた。
「ソウデスカ、私たちより先に理恵さんに会っていたんですね」
一瞬、空気が固まった気がした。二人ともそこでなんで不機嫌になるんだ?
「そうだ。彩人くん。連絡先を教えてもらえない?」
昼寝から言われポケットからスマホを取り出し二人と交換した。
「そういえば高宮の連絡先も教えて欲しいんだけど?」
何気に言ったその瞬間、背中から悪寒がして二人を見ると笑顔ではあるが目が笑っていなかった。気まずい雰囲気が流れ、なんとか教えてもらったが入学式の待ち合わせの約束をさせられた。正直、女子と行くのは気恥ずかしかったが怖くて断れず渋々了承したのだった。
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