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よろしくお願いします。
先発ラインナップ
1番センター丸川、2番ショート西、3番セカンド三浦、4番キャッチャー並川、5番ピッチャー川谷、6番サード神林晃太、7番ライト川崎、8番レフト及川、9番ファースト高井
前日、ジュンと考えたオーダーである。秋季大会とはかなり変わったらしい。これは5試合おこなった紅白戦の結果だ。丸川の起用はジュンの推薦だった。外野守備に関してはキャッチャー練習と平行しておこなっていたのもあるがミスをしない事、選球眼と当てる技術がよく三浦と同じで右打ちから転向して左打ちでなく初めて野球をしてからずっと左打ちである。足も三浦の次に速い。そりゃあ他の指導者がキャッチャー以外で起用したいと思うわけだ。それになんでもできる西を2番に置けるのがいい。相手投手から点を取る可能性があるのは1番から4番まででと考える。確かに基礎体力、バットを振る力は上がっているがこちらは今夏を基準に計画していて、細かいシートバッテングとか決め事までやっていない。相手の失投を期待するしかない。
今回、県高野連に依頼して審判を派遣してもらった。今の県高野連会長は校長と同期の関係と掬星台と試合をするとの事でスムーズに依頼が通った。
こちらのグランド整備が終わり準備が整った。観客も父兄と桜木会とOBはもちろん、波崎の中学関係者の話を聞いて今春高校、中学に入る子、少年野球の子と関係者やファンで埋まっている。スタンドを見ると峰岸先生、葉川、谷本さんも来ていた。また、私がプロ入りを悩んでいた時、熱心に誘って下さったシーガルズの真庭さんの部下だった松本さんも来ていた。多分、成瀬投手を見に来たのが目的だろう。本来なら恵理がダグアウトにいてほしかったが場内アナウンスとセンターの電光スコアボードの管理を控え選手と一緒にしなければならないのでスコアブックをつけるのは控え選手に頼んでいる。
「集合してくれ」
「「「はいッ!」」」
ダグアウト前に選手が集まった。みんなワクワクした野球がしたくてたまらない顔をしている。いい緊張感が出ている。入れ込みすぎていない。前日のミーティングでやることはもうすでに言っていて練習前の集合時にも確認はできている。今は必要最低限でいい。監督の仕事は試合前の前日で9割方終わっている。試合では勇気を持たせて背中を押してあげる事。采配をふるうことなんてそんなにない。いかに準備をして選手達をいかにいい状態でグランドに出せるかである。後は扇動者となって戦いきらせるかだ。
「みんないい顔しているな。もう一度自分がこの試合ですることを確認しよう」
「「「はいッ!」」」
「どうせやるなら勝って帰るぞ!さあ、行こう!」
「「「はいッ!」」」
「よし、出るぞ」
並川が声を掛けるとベンチに入っていた選手が一斉にダグアウト前に出てきた。
選手だけで円陣を組んだ。
「よし、みんな相手がどうだろうと勝つぞ!」
「おう!」
選手が一斉に押し競饅頭のよう固まり右手を人差し指だけ挙げて掲げた。
「お―‐―‐―‐―‐ッ」
叫ぶように鯨波を上げる。
選手はダグアウト前に一列に並んだ。掬星台の選手達も一斉に並んだ
審判の合図でダグアウトから両校の選手が勢いよく飛び出し整列した。
「よろしくお願いしまーす!」
選手達が一礼すると私も相手ベンチに一礼する。橘と久川もこちらに一礼した。何か変な心境になった。
掬星台の選手達が守備位置に散った。成瀬投手がウオーミングアップを始める。横から見ても角度のある球を投げていた。トップバッターの丸川を始め選手全員が成瀬投手に合わせてタイミングを取っていた。
攻撃時の選手への指示は2つ。ファーストストライクを狙う。2ストライクを取られたら粘る。これだけだ。高さがあるから目付けを低くする。高めのボールに手を出さないなど長身の本格派対策はあるが今の選手達には厳しい。なにせ体感したことがないことをやれと指示をしてもできるわけがない。まして公式戦ではないからだ。ただ、丸川と西には事前に個別で指示はしている。
ウオーミングアップが終わり、丸川が左打席にはいった。審判が試合開始の合図を出した。
成瀬が1球目を投げた。まっすぐが高めに外れてボール。2、3球目もボール。そして4球目も微妙に低く外れてボールでフォアボール。秋季大会、東帝大戦のデータ通り、9戦中初回失点が4試合ありそれも先頭打者にフォアボールを出している。
2番打者西と丸川にサインを出した。私の読み通りなら―――――――――
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ブルペンでは調子がよかったのにいつもの悪い癖がでたな。成瀬は1,2回で調子が上がらないことが多い。やはり一汗かかないとエンジンが暖まってこないか。1回から大人気ないが相手が体験していないことをさせてもらう。大輔も監督になってから半年もたっていないしおそらく基礎体力、技術を中心にしたものしかできないはずだ。たとえこちらが序盤に失点が多いとは言えやれることはやらせてもらう。
キャッチャーの品谷にサインを出した。品谷から全員にサインを送る。
成瀬がセットポジションを取り、一塁をけん制する。ランナーは手から戻った。バッターはバントの構えをしている。定石どおりだ。ピッチャーが一球目を投げピッチドアウトする。一塁、三塁から一斉にバッターへ向けて走る。セカンドは一塁へショートは二塁へベースカバーへ走る。サイン通り『ブルドッグ』。
しかし予想に反し相手バッターはバットを引きバスターに出て打ち叩き付けた。
打球がワンバウンドしてサード後方へ飛んだ。サードがあわてて下がるが間に合わずレフトへ転々と転がる。一塁ランナーはゴロGOで走っているの二塁を回って一気に三塁へ到達した。
(大輔、やってくれるじゃないか。クソッ)
私は内心で毒ついた。おそらく大輔はこれを読んでいた。打順でいえば一番器用にできる子を2番に選んでいたのだろう。相手を舐めるなって言った私が一番舐めていた。
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橘、オマエ、練習試合で何熱くなってんだ。高校の時からわかっていたがそこだけは変わらんな。オマエの方が高校野球監督経験豊富だが私も社会人、国際試合で海千山千経験させてもらっている。まあ、今日会ったときに普通し接してきたらやめとこうと思ったが予想通りだったので仕掛けさせてもらった。ウチの3番4番には策なしでフリーで打たすからな。ここで点が入らなければ掬星台の勝ちだが点が入ればこの試合もつれると思っておいてくれ。
私は次のバッターボックスに入る三浦を見た。いい顔をしている。イケメンが不敵な面構えをしているのはちょっと癪だがウチで成瀬君を打つ可能性が一番高いのは彼だ。ましてや初回の今の状態なら十分チャンスがある。
「三浦!思い切って行け!」
声を掛けると彼は大きく頷いた。
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先生から声を掛けてもらった。バッターボックスに入る前に二度素振りをする。股関節の緊張をほぐすように両足を大きく広げ屈む。いつもの儀式。左バッターボックスに入る。相手の投手に正対する。ストレート狙い、ファーストストライク甘いところは絶対振る。相手はまだ変化球を投げていない。
ピッチャーがセットする。一球目を投げてきた。
(来た!逃さない!)
バットを振る。芯を喰った。打球が右中間方向へ飛んだ。いい角度だ。外野が背走するが真ん中を抜いた。2塁打はもらった。一塁を回った時点で三塁コーチャーを見る回している打球方向を見るとまだ処理していない。
(3塁打行くぞ!)
サードベース目がけて左足からスライディングをする。ボールはベースに滑り込んで遅くサードに返ってきた。ゆうゆうセーフだった。右手を軽く握る。ダグアウトを見るとみんなすごく喜んでいる。先生もサムアップしてくれている。よし!まずは貢献できた!
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「山本、成瀬には腕を振れとみんなには一つずつアウトを確実に取るように伝えろ」
「はい」
控え選手に声を掛けた。アンパイアに一礼しマウンドへ上がる。
「タイム1回目です」
アンパイアから告げられた。試合前の申し合わせて公式戦通りのルールにしてもらっている。
普段練習試合で伝令を走らせるとこはあまりしない。だが内野陣が一呼吸掛けるのを忘れ、ピッチャーも相手の3番バッターに不用意で球威のな棒球を投げてしまい打たれるべくして打たれた。自分たちで考えて欲しかったがウチもまだまだだな。しかし成瀬の球をあそこまで持っていくとは正直驚いた。
次の4番の子も注意しなければ。たしかもうコンダが目をつけていると聞いている。
私は成瀬の方を見た。気合が入った顔だった。横っ面を張り飛ばされてようやく目が覚めたそんなところだろう。
(ようやく落ち着いたか)
ただ、この先、長くなるなと感じた。
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三浦が打った打球はすごかった。最近、練習するたびに上手くなってきている。よく練習しているからな。先生の方を見ると大きく頷き打つ仕草をしている。でも相手も一呼吸置いてきた。いらないことは考えずしっかりと振ろう。一球目は変化球、スライダーで入ってきてストライク。しかも芯に当たってもファウルにしかならないようなきわどいインコース低めに決まった。
(やばいな、もう立ち直りかけている)
二球目はインコースよりの低めのストレートバックネット裏へファウル。タイミングも悪くない。ボールの下に当たった感触だった。だがカウントを稼がれた。三球目はアウトコース低めのチェンジアップ。絶妙なタイミングの抜き球だ。しかもシュートしながら沈んできた。手も出ず見送るしかなかったがボールと判定だった。
(腕が振れてきている)
この打席しか彼から打てるチャンスがない。バッターボックスをはずして一呼吸置いてバットグリップから指一本分余らせる。4球目は外角ストレート高め、相手の球威を利用して左中間方向へをイメージして打った。詰まり気味だが左手を押し込むようにスイングした。打球はレフト方向へ上がったレフトが。下がり気味にキャッチする。三塁ランナーの三浦がタッチアップしてホームへレフトはショートへ返すだけでだった。犠牲フライにはなった。
(多分彼からはもう打てないだろう)
ベンチに帰りながらもう守りのことを考えた。みんなはいきなり3点取れたと喜んでいるがこれから最後まで長い道のりが始まったと思った。
「先生、相手ピッチャーの腕が振れてきています」
先生にそう伝えた。
「そうだな。でもやることはもう決まっているから攻撃に関しては当初の通りで行こう」
そして先生から肩を軽く叩かれた。
「並川、ネガティブに考えるな。今日は川谷と二人で相手に挑戦するんだ。自分たちがやってきたことを試すんだ。いいな」
「はい!」
先生にそう言われると少し落ち着いた。レガースとプロテクターをつけて準備を始めた。結局、後続の二人は三球三振に仕留められ一回表は3点で終わった。
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ウチの攻撃が終わったが最後の二者連続三球三振は見事だった。やはり立ち直ると簡単に打てるもんじゃない。
3点は上出来だ。三浦もよかったが並川の犠牲フライは大きかった。追い込まれながらも相手の腕が振れた真っ直ぐを力負けせずに打ったのはよくやったと思う。
守備位置に入るとき選手は全力疾走で散っていった。
私は空を見上げた。いい天気だ。今日は実際の時間は短いが体感的に長い時間になるな。そう思った。
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