表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/44

(6)

 こんばんは!台風は皆さんのところでは大丈夫だったでしょうか?幸い私の住んでいるところは大したことはありませんでした。


 読み終わりましたら、感想、評価、ポイントを是非とも宜しくお願いします!

 私は、カーナビで三浦の自宅の近くにあるコインパーキングに車を止めた。コインパーキングに行く前に自宅を通り過ぎていたので確認していた。私は車を降りて三浦の自宅へ向かった。


 板野鋼弁護士とは、5年前にホンダの本社で会ったことがあった。その当時、彼は大手法律事務所に勤め、外資系ヘッジファンド、ケイン・マクドガルが率いるマクドガル・インダストリース日本支社を担当し顧問弁護士を勤めていた。あの当時の彼は飛ぶ鳥を落とす勢いで次々に敵対的TOBやM&Aを成功させていた。年収で5.000万近く得ていたらしい。いわゆるITバブルを地で行く人間だった。



 世界で悪名高いグリーンメーラー、ケイン・マクドガルが秘密裡にコンダに照準を定めた。コンダ社内の反企業スポーツ派を取り込み、敵対的TOBの準備を進めていた矢先にコンダ経営陣が突き止め、反企業スポーツ派が取締役役員会で一掃された。


 財務部と総務部が合同で反企業スポーツ派の不正とマクドガル側に接触していたことを突き止めた為だ。


 経営陣がスポーツ事業から撤退しない方向になったのは野球部が都市対抗と日本選手権の二冠を勝ち取ったのをはじめ他の部も好成績を上げたからだ。反企業スポーツ派にとって思惑が外れ、最後に財務部、総務部にとどめを刺された形になった。


 永井部長の話によると彼はあの時反企業スポーツ派の役員が解任理由に納得がいかないと彼を代理人に立て、地位保全の交渉に来ていたらしい。


 私は、会社を退職する為に挨拶に伺った時だった。


 丁度、本社ビルのエントランスに入った私を睨み付けるようにツカツカと私に歩み寄ってきた。


「あなたが小林大輔選手ですか?」


「そうですが、あなたは?」


「これは失礼。板野と言います」


 いかにも仕立てのいいスーツを見せびらかすように胸を張った。昔見た童話の挿絵に出てくるアリとキリギリスのキリギリスの服装にそっくりだった。



「何故、シーガルスに行かなかったのです?プロ野球選手って誰もがなれるものじゃないでしょう?」


私は正直、まともに答える気持ちになれなかった。


「説明出来ない色々なものを会社から頂きました。恩返しですかね」


「理解出来ないな」


 彼は鼻で笑うように言った。


 バカを相手にするのは嫌になる。つい言わなくていいことまで言ってしまう。


「少なくともあなたには理解されたくないですね」


 その瞬間、彼の顔色が変わった。


 「お気に召さなかったようですね。取り敢えず失礼します」


 私はその場を去ろうとした。キリギリスは河川敷や野原でみたい。少なくとも私を不快にさせないからだ。


 「私はあんたを忘れんからな」


 彼は唸るように言った。タイムボカンシリーズの八奈見乗児さんのキャラの捨て台詞くらいのボキャブラリーが欲しかった。


 私は振り向かず立ち去った。後から永井部長や良子から彼の正体を聞き、バカにしただろうと言われた。二人共、一部始終を見てたらしい。


 彼はその後の人生が変わったようだった。コンダの件でケイン・マクドガルに咎められ顧問弁護士を解任された。


 ITバブルも終わりと共に仕事が減った。そこで彼は乾坤一擲、勝負に出て事務所を辞めて独立した。だが、彼はケインに関係していたことで日本中に敵を作っていた。当然、彼の望む仕事はなかった。


 アンダーグラウンドな仕事や民事の屑な仕事を色々やったらしい。そして今回は敗色濃厚の訴訟の火事場泥棒的な仕事。傘貼り浪人みたいなものだった。


 これが永井部長からメールで私宛てにきた板野弁護士の近況だった。


 同情もしない。私の道を阻むなら、極上の殺虫剤をきみに差し上げよう。降りかかった火の粉は払わせてもらう。


 私は、三浦の自宅の予鈴を鳴らした。


 玄関ドアが開いた。三浦が開けてくれたようだ。三浦と三浦のお母さんが私を迎えてくれた。


 二人の様子は、まるで大河ドラマでみた落城寸前の城に援軍が来た時の守備兵表情だった。


 私は挨拶を済ませると上がらせてもらいリビングへと通された。


 ソファーに板野弁護士ヤツが相変わらずキリギリスな容姿で座っていた。


 だが、若干やつれた様子で覇気も薄れていた。彼の姿に少し失望した。怪人からショッカーの構成員キャラくらい格下げしたい気分になった。


 (さあ、胸に付けてる弁護士バッチ(ひまわり)にかけて噛みごたえぐらいは欲しいんだが頼むよ!板野先生!)


 「だれだね、きみは?」


 私はその言葉に転びそうになった。忘れないって言っただろう!あんた!ちょっと思い出すまで遊んでやるよ。


 「私は、拓馬くんの野球部の顧問をしている者です。退部しろと恐喝されたと連絡が入ったので自宅までお伺いしました」


 私は、バカ丁寧に誰でもわかるような表現で話した。案の定顔色が変わった。


 「失礼だがあなたは勘違いされているようだ」


 彼は胸のバッチを見せるように言った。説明がそれで済むと思ったらしい。


 私はテーブルに置いてあった念書や委任状を見て、ため息をついた。


 (バカはあくまでもバカだった。このキリギリスは野焼きされて追いたてられたいのか?)


「怪しい委任状を片手に金を巻き上げる弁護士が海坂市内を徘徊していると噂が出てましてね。まさか、かつて『ハゲタカに仕える売国奴』とうたわれた板野先生とは思いもよりませんでしてつい・・・」


 「おい!一介の教師風情が何を言うか!」



 彼は怒りのあまり立ち上がった。


 おい、弁護士らしく法律を振りかざせよ。情けなくなるじゃないか。しょうがない。そろそろ遼太郎が来る頃だし、終わりにしょう。


 私は眼鏡を外し、彼を見た。板野は睨み付けるだけで何も言わなかった。私はまた失望した。忘れないって言ってただろ!


 「すみません、名前を言うのを忘れました。小林大輔です。一度、コンダの本社でお会いしましたよね」


 その瞬間、板野の顔が何とも言えない歪んだ表情になった。


 その時、予鈴がなった。


 「実は、私の知り合いの弁護士を呼んでいます。あなたが何をやっているか、法律の観点から見てもらいましょう。いつまでもぼさっと立ってないで座りましょうよ。い・た・の・先生」


 私は立ち尽くす板野弁護士をソファーに座るよう促した。彼は失望したように座り込んだ。


 私は立ち上がると三浦のお母さんに事情を簡潔に話し玄関を開けるように言った。


 玄関を開けると私の高校時代の1歳下の後輩、西院さい遼太郎が立っていた。細身でクールショートの髪型、細身の身体によく似合う黒のスーツを着こなし胸にひまわり(弁護士バッチ)を付けていた。現役の頃、打順は5番でサードを守っていた。彼は高校卒業後、野球をやめて、法曹界に多数の人材を送り出している京央大学法学部に現役で合格した。


 その後は勉強に励み、4年生時には司法試験に合格した。都会の大手法律事務所に勤めていたが、最近つてで西州市の法律事務所に転職した。


 「こんばんは、三浦さんですか、私、弁護士の西院と申します。宜しくお願いします」


 遼太郎は三浦の母親に名刺を渡した。母親は遼太郎をリビングへ案内した。


 三浦は私の顔を不安げに見ていた。


 「もう、大丈夫だよ」


 私は三浦の頭をワシワシと撫でた。彼は安堵した表情になった。




 「板野先生、西院と言います」遼太郎は板野に名刺を渡した。


 「宮藤坂本共同法律事務所の西院先生。私に何か?私はさいしゅう銀行さいぎんには何の用事もないですが?」


 板野に係わりたくなさげにしていた。後から聞いたことだが、この県では『さいしゅう銀行の案件に手を出すな』と言われているらしい。


 以前、中国系資本が県内の世界的シェアをもつ部品メーカーを買収しょうとしたことがあった。だがメーカー側が拒否した。半年後、中国系資本ファンドが買収を断念した。このファンドは事実上政府系で日本政府内で色々と波紋を呼んだ。当然、媚中派と呼ばれる人達はかなりの圧力をかけたが全部はねのけ、顧客を守り切った。経営者の要望を主要銀行のさいしゅう銀行と顧問法律事務所が貫いた勝利であった。


 「板野先生、この委任状が正当性があるか確認させて貰って宜しいでしょうか?」


 「そ、それは…」


 明らかに板野は動揺していた。もう、あの頃の彼の面影は霧散していた。


 「あくまでも、葛城様の意思と仰るのであれば、三浦様方の代理人として対峙しますが宜しいでしょうか?」


 遼太郎は三浦の母親と板野を見ながら言った。母親は承諾の意味で頷いていた。


 「…わかりました。この件から手を引きます」


 板野はうなだれるように言った。


「ところであなたの所属する弁護士会で本日、あなたに対する懲戒請求が出ています。県警もあなたに興味があるようですしここで油を売っている場合ではないと思いますが・・・」


 遼太郎は淡々とした仕事口調で言った。事実上の退場宣告だった。


 板野は脱兎の如く逃げ帰った。


 遼太郎、言葉責めはお前の方がえげつないぞ。


「三浦さん、もう大丈夫ですよ。もう二度と現れることはないと思います。今日は遅いので帰ります。またお伺いしますけど宜しいでしょうか?」


「ありがとうございました。小林先生といい、西院先生といい今回何と言っていいか…」


 三浦の母親は、遼太郎の言葉に頷き、礼を言った。

 

 私と遼太郎は三浦の自宅を出た。


 「遼太郎、さっき懲戒請求がって言ってたけど、本当か?」


 「彼はかなり無茶をしましたからね。今回の件以外でもグレーゾーンの過払いの件で法外な成功報酬を請求したりしてますからね。実は、今回の件でさいぎんさんの顧客の娘さんが三浦くんのクラスメイトでして、板野が同じ手口でやらかしてきたので、その相談の為に海坂に来たんです」


 「そうか」


 「なんか、拍子抜けしましたね。私も昔の噂は知ってましたから」


 「自分でも危ない橋を渡ってる事を自覚してんだろ。俺の事なんか名乗るまで思い出せなかったんだから」


 私の言葉に遼太郎が片眉を上げた。


 「先輩、なんかがっかりしてませんか?まあ、ちょっとは弄ったんでしょうけど」


 「うるさい。俺の事、覚えとけよって言ったくせに忘れてやがったから、ちょっと揉んでやっただけだ」


 遼太郎は、やっぱりと言った顔で盛大にため息をついた。


 「遼太郎、最近、彼女は出来たか?」


 私は彼の肩を叩きながら言った。


 「最近、忙しくてそんな暇ないですよ」


 彼は両手を広げて言った。


 「お前まだ遥のことが忘れられないのか?」


 「な〜に言ってるんですか。それはそれですよ」


 遼太郎には昔、彼女がいた。現在、彼女はこの世にはいない…。


 「早く嫁貰って、朝倉みたいに幸せになれよ」


 「…先輩、俺には歴史上の人物みたいな嫁はいいです…」


 遼太郎はこの世であって欲しくなさそうな顔をした。私は、遼太郎にはそうやって接している。彼も腫れ物を触るような態度を嫌がっているからだ。


 「先輩、野球部の先生になったんですね。俺、嬉しいですよ。先輩は橘さんより監督に向いていると思ってましたから」


 「…お前なぁ。アイツには絶対言うなよ。ムキになって突っ掛かってくるからな」


 私は迷惑そうな声を上げた。


 「じゃあ先輩、俺はここで失礼します。先輩も早く家に帰らないとさとみちゃんに怒られますよ」


 「うるさい!じゃあまたな」


 遼太郎はそのまま帰って行った。


 私は家に電話をした。


 【はい、小林です】


 「さとみ、今から帰る。東酒屋町だから、10分くらいで帰れると思う」


 【はい、わかった。準備をして待ってる】さとみは返事をした。


 …準備とはなんだ?


 私はコインパーキングに戻った。駐車料金を支払うと車に乗り、自宅へと走らせた。


 取り敢えず、三浦から野球を取り上げようとする輩について排除することは出来た。後は検察審査会の議決を待つばかりだった。以前、遼太郎からは担任教諭以外は心配はないと言われていた。一般常識がちゃんと備わっている人間が審査会に選ばれてならば不起訴相当は堅いということだ。


 後は、天の配剤に任せるしかない。


 自宅のガレージに到着した。いつもなら、妻が待っているがいなかった。もう遅いし、冬でもあるので家にいて欲しかった。


 だが、私の予想以上だった。玄関について予鈴を押す前に妻に引っ張り込まれ、気が付いたら服や下着は全部脱がされてベットに大の字になっていた。


 周りをみると全て整えられていた。妻の『準備』は万端だった。


 「センセ、お疲れ様でした。次は私の補習の時間だよ♪」






《説明》


検察審査会


公訴権を持つ検察が不起訴を乱用しないように地方裁判所または支部ごとに設置されます。選挙権のある11人を無作為に選び不起訴案件を審査します。不起訴相当、不起訴不当、起訴相当のどちらを議決します。

 不起訴不当は一度議決された場合もう一度、検察は取り調べをした上で起訴するか判断します。不起訴になればこの案件は成立します。


 起訴相当と議決された場合もう一度上記のように検察は取り調べをします。不起訴になれば検察審査会が再度審査します。その結果起訴相当との議決が出た場合検察は取り調べを行い、また不起訴にしますと今度は裁判所が任命した弁護士によって強制的に起訴となり、取り調べが弁護士によって行われます。


 詳しくはウィキペディアを参照ください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ