第3章 冷たい月(1)
とうとう高校野球も沖縄代表の興南高校の春夏連覇で終わりましたね。どうしても島袋投手ばかり注目されますが個々の力がトップレベルでしかもチーム力も高いチームでしたね。冷静な試合運びに他の高校より数段上を感じました。
物語も生徒達へと徐々に焦点が移りますが、大人達の濃いキャラぶりにも注目して頂ければ幸いです。読まれましたら、感想、評価、ポイントを入れていただきますよう宜しくお願いします!
新幹線で海坂の最寄り駅、西州駅で降りた私は、並川達と別れ、駅前から少し離れたところにある居酒屋に来ていた。
「いらっしゃいませ!何名様でしょうか?」
「予約している名前で朝倉ってありますか?」
出て来た店員に、予約した名前を告げた。店員が予約リストを見て確認する。
「大輔!こっちだ!」
見上げると座敷の襖から男が顔を出した。
「すまん、遅くなった」
「早く、こっちにこいよ」
私は店員に会釈をすると男に促されるまま座敷の一室に入った。そこには、高校時代、野球部の仲間が3人待っていた。私はこの集まりを共通点にちなんで『嫁スキー会』と勝手に付けている。なんでそんな名前かは、後でわかる。
私は、結婚してから飲みに行くことはあまりない。さとみの手料理を二人で食べるのが楽しみにしているのが一番の理由なのだが、一度、学校の忘年会で遅くなり帰って来たとき、食事も手に付けず、暖房、電気もつけずに待っていたことがあり(その時の寂しく笑った泣き顔が忘れられない)、学校関係の飲み会は一次会で帰るようにしている。
だが、数少ない例外がある。その一つが高校時代の仲間との飲み会だ。特に野球部のチームメイトは、さとみは許してくれる。
さとみとの結婚式は親族のみという地味なものだった。きっかけがきっかけだけに仕方がない部分は否めなかった。
それを見兼ねた野球部のチームメイト達が盛大に二次会を催してくれた。緊張するさとみを和ませようと宴会芸で盛り上げた(内容は禁則事項により差し控えます)。さとみもそんな心根に感謝していて仲間との飲み会は背中を押してくれていた。
「今日は、コンダに挨拶に行ってたんだってな」
先程、座敷から顔を出した男が私に声をかけた。
橘雅人、 県立掬星台高校教諭、野球部監督。掬星台高は、私の母校だ。高校3年時、私達は、高校野球選手権で初出場でベスト4進出した。橘はその時のキャプテンで捕手を務めていた。私達の恩師、峰岸幸夫は、転勤した学校を必ず甲子園出場を果たすという、県屈指の名将と言われていた。現在は県教委の要職を務めている。
橘は母校で監督を務め、今夏、私達以来の出場を果たし、2勝を上げ3回戦まで進出した。
丸顔で人懐っこい風貌が、特長だ。しかし指導者としては理論派で打撃のチームと投手を複数の継投で采配する。
「ああ、会社と次に峰岸先生と大学には行くつもりだったが、先生には忙しいから年末、家に来いと言われたよ」
私は、苦笑いを浮かべて言った。
「やっぱりですね。先生ならそういうと思いましたよ」
私に上座を勧めながら童顔で小柄な男(といっても168cmだが)が笑いながら言った。
朝倉義憲 学年が一つ下、海坂市立第3中学校教諭 私以外で県外で教職を得ていた。遊撃手で運動能力が高い選手だった。私達が下級生との軋轢がなかったのは彼のお陰だった。海坂市の中学事情に詳しく、海坂商の前の監督だった千坂の評判が悪いのも彼から聞いていた。野球部の顧問を務めている。
「先生やみんなは、何だかんだ言いながら大輔には監督になって欲しかったんだよ!」
長身の男が長い顎を撫でながら嬉しそうに言った。
葉川智行 私達のチームのエースでカーブが得意の左腕投手、私より長く社会人野球の現役を務め、現在は家業を継ぎながらシニアリーグの指導者になっている。
私達は、新設校だった掬星台高に入学したのは、峰岸先生が転勤すると聞きつけ、誘われていた私立高校を断り、集まったのだった。
後々、先生が酒を飲みながら、悔しそうに君たちの時が優勝するチャンスと手応えがあったとよく言っていた。
「取り敢えず乾杯しょう!」
橘が声をかけた。ビールピッチャーを持った朝倉が私の中ジョッキに注いだ。
「じゃ、大輔の監督就任を祝って乾杯!」
「乾杯!」
全員が唱和してビールを飲んだ。しばらくは酒の肴を食べながら、取り留めのない話をしていた。
「ところで、何で、こんな時期に監督になったんだ?普通は4月だろ?」
橘が訝しむように言った。私は、前任者が校長の意向で勇退させられ私に業務命令で就任することになった経緯を話した。
橘は、隣県の状況がわからないせいか納得しかねていた。
「橘先輩、今、うちらの県は、橋村知事様の高校改革の嵐の真っ只中にいるんですよ。大輔先輩の監督就任は、海坂商の校長先生からしたら、OB、OG達の統合阻止の圧力と自身の保身の為に何とかしなきゃならん切り札みたいな物なんですよ」
「大輔、義憲の言った通りなのか?」
葉村が確認するように聞いた。
「朝倉の言う通りさ。でもある程度の条件は飲んでもらった。さとみを表に出さないとか色々とね」
葉村はホッとした顔になっていた。普段は温厚真面目なヤツだがマウンドに上がると人が変わったような強気のピッチングをしていた。
「お前のことだから、勝算があるのだろう?」
橘がジョッキを口に付けながら言った。橘は、前任校では、春1回、夏2回の甲子園出場を果たしていた。しかし、母校に着任してから今夏の出場までに4年かかってしまった。原因は朝倉達の年代が卒業したと共に、峰岸先生が転任しその後に着任した監督がスポーツ業者からの金銭授受が発覚し懲戒免職。その為、野球部が瓦解状態になり、立て直しに時間がかかったからだ。
「橘みたいに前任がペンペン草すら生えないような惨状ではないから、まだましだが、難しいことには変わらん」
私は、現実を要約した。これなら橘達にはわかりやすいと思ったのだ。
「けなしてるのか?」
「褒めてんだよ。よく甲子園で勝てるチームを作ったな」
「葉村達のシニア、ボーイズ関係者や学区内の中学校関係者の協力がなかったらああまでは行かなかったよ」
橘は、しみじみと噛みしめるように言った。
「何、謙遜してやがる。橘が赴任して、みんな喜んでんだよ。他のヤツだったらダメだったよ」
葉村が橘のビールを継ぎながら言った。私の兄の話では、橘が学区内の関係者をこまめに回っていたと聞いていた。
「朝倉、当然、お前は大輔に協力するんだろうな?」
橘はニャッとしながら言った。
「来年以降なら協力は、しますけど、今年は、あらかた決まっちゃいましたからね」
朝倉は、すまなそうな顔をした。
私は、気にするなと首を振った。
「今、決めていない子は、家庭の都合で、進学するかあきらめるかの境目で悩んでますね。先立つものがない限り、例え入学出来ても中退が目に見えてます」
「不況の影響か・・・。俺んとこも、私学の特待生クラスの子は無理だったよ。今年から授業料を無料化するとか言ってるけど、施策が継続するか不透明だからな。こればかりは、お上の都合だからな」
橘は肴のししゃもを箸で握りがら言った。
「でも、お前らの知事が引っ張ってきた主だった企業は海坂の郊外に誘致したと聞いたぞ」
葉村がビールを一口飲んでから言った。
「末端までに雇用が浸透するのには2、3年は、かかります。市内中心部に予定されていたマンション建設も景観論争が起こったらしいから、人口が増えるのにもっとかかりますね。それに小、中学校は、増築すら財政上難しいですからマンション建設に規制をかけるつもりでしょうし」
朝倉がチラッと俺の顔を見ながら言った。ヤツの言わんとする事がわかったからだ。海坂の小、中学校はようやく、ある事件からの打撃から回復の途上にある。耐震化工事のついでに教室間の仕切りやパーテーションをなくしたのも一環で。とてもじゃないが増築まで手が回らない。
しかも、ある事件で俺と朝倉はある意味関わりが少なからずあった。担任を務めていた野球部の顧問の後任の朝倉。関係しているかグレーゾーンの間で悩む野球部員一人を抱える私。
「まあ、出来ないわけじゃないさ。4月には何とかなるように今、動いている」
私の言葉に三人が注目した。片眉を上げて私を見た橘。面白そうな顔をして私に続きを言えと視線を向けた葉村。やっぱりなと笑顔で見ながらピッチャーで私のジョッキに注いだ朝倉。
教えてやりたいのは山々だけど、お前らには4月以降にしか教えられないよ。
「まあ、種明かしは4月にさせてくれ。 橘、春休みに練習試合を組んでくれないか?お前んとことは、毎年定期戦を組んで欲しい」
「そういうと思ってたよ。3月23日、うちのグランドでどうだろう?定期戦は毎年6月で第一週でどうだ?春期地区大会は5月中で終わるからちょうどいいし」
「わかった。定期戦も今年からお願いするよ。グランドは海坂市営球場かうちのグランドのどちらかでするからな。毎年交互で」
私と橘は、手帳に書き込みながら打ち合わせをしていた。
「なんか、高校野球部の監督ですね」
朝倉が感心したように言った。
「なら、高校教諭になるか?」葉村が朝倉に茶々を入れた。
「いや、いいですよ。俺は、今の方が合ってますから」
朝倉は、首を振りながら否定した。
「ところで、部長とコーチはどうするんだ?」
手帳を鞄に入れた橘が聞いてきた。
「部長は、来年度からでお願いした。条件は男女は問わないが渉外力のある人と校長には要求した。コーチは、既に目星はつけた」
「渉外力って、お前らしいな。俺もそうだが采配は邪魔されたくない。その点、久川に来てもらって助かったよ」
松本綾香。現在、県立掬星台高教諭。野球部初代女子マネージャー。同級生で旧姓は久川。松本という姓は、朝倉と同級生、野球部の松本孝次郎と結婚したからだ。
綾香は、気が強く私達は嫁の行き手がないとかむちゃくちゃ言っていた。それに松本は気が弱いヤツで、よく葉村の次にエースになれたと不思議に思われていた。だが、彼は投げっぷりの良さが持ち味の投手でヤツの活躍なしではベスト4はなかったのは事実だ。
高校時代、久川はよく松本を怒っていた。きっかけは、久川が二浪して入った大学に先に松本が入学していて色々あったそうだ。酔った久川を松本がお持ち帰りしたらしいがあまり聞きたくない。朝倉は知っているが、一度聞いて口にするのも憚られるので封印するように言った。お陰で二人のカップルは都市伝説扱いを受けている。
二人は共働きで一人子どもがいる。育休は松本(彼は市役所勤務)が取り、イクメンとして話題になった。
「そりゃあ、綾香先輩なら何とかしてくれますよ。女性部長として最良の人ですからね」
呼び出しボタンを押して飲み物の注文を橘達に聞きながら朝倉は言った。
「コーチはもう決まっている。彼にはちょくちょくこっちに来てもらうつもりだ」
「コンダから誰かを誘ったのか?」橘が聞いてきた。
「ああ、岡崎純也だ」
「岡崎って、お前の子分2号じゃないか?まだ引退は早過ぎやしないか・・・まさか、今年の都市対抗のベスト4の時の怪我が原因なのか?」
葉村はビックリした顔になった。彼はジュンとは何度も対戦したことがあり、怜よりも高く評価していた。
私は、頷いた。
「怪我がちじゃなかったら子分1号よりいい線いくと思ったのに。勿体ないけど仕方ないな」
「子分1号って誰ですか?」
朝倉が葉村に質問した。
「ジャビッツの中村怜だよ。朝倉、コイツはな、大学と会社に王国があるんだよ。そしてそこの暴君として君臨してたんだよ」
「お前なぁ・・・」
私は、やれやれと首を振った。
「コンダなんかそうだったじゃねーか?お前がナポレオンだとしたら。タレーランが永井部長、ダヴーが速見監督、ミュラが中村で、ネーが岡崎だろ。あの美人マネが妹のカロリーヌ。そのまんまじゃねーか」
「先輩、それじゃナポレオンオタクですよ。どうせ、橘さんがウェリントン公アーサー・ウェルズリーかブリュッヒャーで自分のことクラウゼヴィッツとか言うんでしょ?」
「何故わかった?」
その言葉に全員が爆笑した。
私達がこの手の冗談を言うのは、峰岸先生が社会科担当だった影響か大きかった。それと部内でナポレオンを題材にした漫画が流行ったのもあった。
「まあ、朝倉はベルティエだな。だってお前は、奥様の忠実なる従僕だからな」
橘がこれ見よがしに突っ込みを入れさっき以上に爆笑に包まれた。
朝倉の奥さんは、10歳上で現在は海坂市教委に務めている。背が175cmの長身美人であるがきつい系のお局様で有名だった。大学を卒業して新任の教師として赴任した朝倉を指導役をしていたのが彼女だった。酒乱の気があり、慰安旅行で朝倉は見事食べられてしまい、翌年春に入籍したのだった。選手としては積極果敢なスタイルなのだが、私以上に嫁に忠実な男になった。その為、私達や同級生達からシシスベと呼ばれている。
ちなみに、喜久美姐さん(私達は朝倉の奥さんをそう呼んでいる)は高校野球オタクで私達の高校を隣県という親しさから甲子園で応援していた。朝倉が新任で自分が指導役になった時、『運命の赤い糸』を強く感じたそうだ。
朝倉が何かに気付いたように慌てて携帯を確認していた。そして何もなかったのかホッとした表情になった。彼は前に飲み会の席で姐さんからのメールを見逃してしまい。激怒した姐さんから締め出しを食らって一晩中、家の外にいるはめになった。
「…お前の恐妻家ぶりここに極まれりだな。ベルティエはヴィスコンティ夫人を崇めてたけど、お前、まさか祭壇まで作って、敬い、畏れ、崇めてんじゃないだろうな?」
葉村があながち冗談とは思えない言葉を言った。
「俺は、そういう事を思うと優しい嫁で助かったよ」
橘は心底ホッとした顔をした。
「おまえらなぁ…。俺も大概だけど、人の事言えねえぞ。橘の嫁は高校時代のファンレター第1号の子、葉村は10歳下の従妹。それぞれ、小説家が喜んで本、書けんじゃねーか」
みんな、それぞれ盛大にため息をついた。
「…でも俺、悪くはないと思ってますよ。浮気される心配はないですし、大輔先輩達だってそうでしょ?」
「まあな。俺らは嫁スキーだからな。いっそのこと名前をそうするか?」
「…それだけは勘弁して欲しいんだけど。アイツ調子に乗るし」
葉村は嫌な顔をしていた。
「葉村、ひょっとして奈菜里ちゃんから未だに『お従兄様』なんて言われているの?」
葉村の先祖は旧華族の男爵家の直系で実家が大正時代に建てられた洋館だった。たしか文化財みたいな家だった記憶があった。奈菜里ちゃんは葉村の嫁の名前だ。彼女はとても優しい娘で真性ブラコン以外長所ばかり並べ立てられる娘だ。
「ん?何のことだい?」
葉村は、今まで話題になかったかのように振る舞った。
コイツ、現実逃避しゃがったな。
葉村は、3年前までは大学卒業後、社会人の大日本生命の野球部でプレーをしていた。最初の頃は先発として名を馳せた。選手生活最後の3年はフォームを左サイドスローへ変えてリリーフを務めていた。
引退理由は、家業を継ぐためがオフィシャルの理由になっているが、寂しさに耐えられなかった奈菜里ちゃんが独り暮らしの葉村の家に押し掛け3年前に妊娠した為、引退し家業を継ぐ事を条件に結婚したからだ。
奈菜里ちゃんとさとみは大親友で私の実家に帰るとしょっちゅう会っている。
実はこの集まりはそれぞれの嫁からは二次会に行かれる心配はないとかで時々開くならと快く送り出されているのだ。取り留めのない会話をしている内に店員がラストオーダーの時間を告げに来た。いくつかの注文をしてみんな、久しぶりの会話を楽しんだ。
「大輔、俺はお前が高校野球に顔を出すのを楽しみにしてしてたんだぜ」
橘が文字通り楽しげに語り掛けてきた。
「そうか、確かに今の状況にならない限り、監督になることはなかったよ」
「だからだよ。選手としても大学時代、俺の大学が弱かったから対戦することはなかった。今のところ昔から知ってる人間で対戦できる可能性があるのは、お前だけだからな。出来れば甲子園で対戦したい」
橘は右手を差し出してきた。
「ありがとう、激励だと思ってありがたく受け取っておくよ」
私は橘と握手した。
そしてそれが合図だったかのようにお開きになった。監督就任祝いということで私は無料でになった。予め会費を集めてた朝倉が支払いをして店を出た。西州駅で私と朝倉、橘と葉村は別れた。私と朝倉は、海坂行きの始発の快速電車に乗り込んだ。乗客はまばらだった。私と朝倉は他の乗客から離れた座席に座った。腕時計を見た。後5分以上出発までに時間があった。
「先輩、皆さんの前では言えなかったんですけど一人、私の部にいるのはいるんです」
「どんな子だ」
「遊撃手です。今年は成長痛がもとで試合に出る機会が少なかったのですが身長は182cmで、今は更に伸びていると思います。運動神経は抜群で並の日本人では持ち合わせていないものがあります」
成長痛。中学生、高校生が体型が変わり、身長などが伸びる過程で少なからず煩う傾向がある膝や踵などに痛みを伴う症状である。これを見誤ると選手生命を脅かす可能性がある。
「進学の予定はあるのか?」
「問題はそこです。父親が日系ブラジル人で今年、非正規で働いていた工場が不況で突然閉鎖されました。求職はしているようですがなかなか難しいですね。このままでは、例の政府の施策に応じざる得ません」
リーマンショック後、職を失った日系人に対して、政府が帰国する資金を供与する替わりに再入国を一定期間制限するという施策を取り始めている。いわば究極の選択ってヤツで日本で教育を受けた子が中途半端で帰国すると母国で馴染めないケースが相次いでいる。そうなっては特待生になったとしても本も子もない。
「わかった。何かあったらまた教えてくれ」
「はい、済みません。期待させるような事を言ってしまって」
「気にしなくていい。些細な事でも情報が入ることが大事なんだから、今後とも言ってくれ」
私は笑いかけながら言った。
「はい、ありがとうございます。ところで、三浦拓馬は元気にしてますか?」
朝倉は本当に私から聞きたい事を口にした。
「ああ、私が就任する前はサボってたらしいが就任後は、休まず真面目にやってるよ」
「最近、何か彼に変わりはないですか?」
「もったいぶらず、正直に言ってくれ」
私はじれた口調で言った。
「これは、喜久美から聞いた話なんですが被害生徒の代理人と称する弁護士が、検察審査会に申立した不起訴になった生徒の家族に接触しはじめているらしいのです。目的は示談金をせしめる為みたいなんですが、質の悪いことに高校生になって部活動している生徒に自主的に退部を促しているみたいなんです。もちろん法的拘束力はないのですが・・・」
朝倉は困り果てた表情をしていた。今の彼らは卒業している為、守ることが出来ないのだ。
「お前の前任の野球部顧問はどうした?確か担任だったはずだ」
「実は、元担任の先生は昨年度末付で退職しました。元々、直後に休職してましたから」
何も知らなければ極めてまずい状況だ。これでは、弁護士が突然自宅にでも踏み込まれたら、主導権を握られて意のままにされてしまう。
「その弁護士はハイエナみたいなヤツだな。被害生徒の遺族はそこまで望んでいるのか?」
「わかりません。私は赴任前なので知らないですが、あの当時を知る教師達からは、お子さんを亡くされた直後は、剣もほろろでこちらの話すら聞かない状況らしかったですから」
私は目を伏せた。色々と頭に浮かび整理した。降り掛かる火の粉は払わなければ…。
「朝倉、喜久美姐さんに言ってその弁護士の名前と例の事件の学校側もしくは、市教委が作った報告書かレポートが手に入らないか?可及的速やかにだ」
「どうするつもりです?」
「せっかく真面目に野球に取り組み始めた生徒に熱さ過ぎれば喉元的な対応はできん。やれるだけのことはする。お前にも手伝って欲しい」
「わかりました。名前は明日にでもなんとかなりますが報告書はできるだけ頑張ります」朝倉は妙に嬉しそうに言った。
快速電車はいつの間にか出発していた。私は電車の窓を見ると月が見えていた。車内は暖かいが月は気分的な問題だろうか冷たい光を放っているように感じていた。
大陸軍は世界最強ォォォーッ!
大陸軍は世界最強ォォォーッ!
大陸軍は世界最強ォォォーッ!
すみません。一度叫びたかったのでしました。
長谷川先生をオマージュしました。
あの漫画は面白いですね。アウステルリッツ会戦の書き方は、いいですね。