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03「高鳴る鼓動」

 月曜日の朝。美琴がいつも通り起こしに来た時点で作戦は始まった。


「起きて隼。遅刻するわよ」 

「もう少し寝る」


 なんて言いながら、美琴の揺する手を取り強引に自分の横へ抱き寄せる。


 土日にみっちり幼馴染系の恋愛ドラマやアニメを見て勉強した俺は、さっそくその効果を確かめる事にしたのだ。


「え、ちょ、隼……っ!?」

「今日晴れてる?」


「は、離してよっ!」

「なんで……?」


「な、なんかおかしいよ隼っ。熱でもあるんじゃない!? こんな事、いつもならしないじゃん……」

「まあ。嫌だった?」


「良いから離しなさいよ。早く用意しないと本当に遅刻するわよ?」

「分かった。いつも起こしにきてくれてありがとな。美琴」


「感謝するなら、いつも早く起きなさいよ」

「はーい。んじゃ、用意するかぁ」


 体を起こして学校に行く準備をしに一階へと降りる。尚、俺の顔は真っ赤である。


「うがっ! 本当にあれで良かったのか? てか、今更ながらキモ過ぎるぞ俺!」


 洗面台の鏡に映る自分と自問自答。

 何故か心臓がバクバクしていた。


「あ、おはよう隼。お母さん達もう出るから。テーブルにおにぎりあるから食べていきなさい」

「おう、いってら」


 親父とお袋は今日も早くからご出勤。

 それを見送りリビングへ向かうと、美琴は俺のために味噌汁をよそっていた。


「早く食べちゃいなさい」

「おお、悪いな」


 テーブルへ座り、おにぎりと味噌汁を手早く食らう。その間、美琴は俺の食べる姿を観察しながら、他愛のない話をするのがいつもの光景だった。 


「そう言えば、冬月先生結婚するらしいよ。相手は学年主任の近藤だって」

「うえっ、マジかよ。ゴリラの近藤とお淑やかな冬月先生が!? かぁ~、世の中分かんねえな」


「まあ、女子はなんとなく二人が怪しいのは分かってたけどね」

「へぇ~、良く分かるな」


「あんたが鈍感過ぎるのよ」

「そりゃ失礼しました」


 なんかいつもと変わらん。

 さっきの抱き寄せ攻撃は空振りか?

 俺だけ顔真っ赤にして馬鹿みたいじゃん……。


「あっ、ご飯粒ついてるよ」

「……っ!?」


 えっ、そのままペロっと食べちゃった。

 ど、どういう事!? いつもならティッシュ投げ付けてくる筈だろ!?


 一体なにが起こってる。

 熱があるのは美琴の方じゃないか?


「美琴……体調とか悪くないか?」

「え? 全然元気だけど。なんで?」


「いや、元気なら良いんだ……」

「変なの。ほら、早く食べないと遅刻だよ」


「あ、ああ……」


 いつもと何かが違う美琴に急かされ、おにぎりを口に詰め込み味噌汁で流し込んだ。


 朝食を済ませ、制服へ着替えたら家を美琴と出る。家から学校までは電車で三駅ほど。


 朝の通勤通学ラッシュはいつ乗っても慣れない。


「今日も満員だな」

「そうね」


「あ、ほら、もっとこっち来いよ」

「うん……ありがとっ」


 男性客に体がぶつかり困り顔の美琴を引き寄せる。いつもならそこまで気にしないが、今日から美琴に優しくすると決めていた。


「大丈夫か?」

「大丈夫だよ。なんか、今日の隼優しいね。なんか企んでる?」


「そ、そ、そんな事ないけど?」

「動揺し過ぎじゃない? でも、せっかくなら甘えちゃおっかな」


 美琴ギュッと俺に抱きついてくる。

 それはヤバいです美琴さん。

 胸が当たってるんですよっ!


「み、美琴……その、当たってるんだが」

「当ててるの」


 わざとですか!? そうですか!

 でも辞めてくれませんかね!

 健全男子には毒となり得るんですよその膨らみは!


 や、ヤバい……下半身が反応しそう。


「しゅ、隼? あの、当たってる……っ」

「なんの事かサッパリだ」


 仕方ないじゃないですか。

 これは生理現象です。

 お胸が当たったら硬くなるーーこれテストに出ます。


「もしかして、私のせい?」

「それは一理ある。だが、ここはスルーしてくれ。今必死にお袋の顔を思い浮かべている所なんだ」


「なんかごめんねっ……」

「いや、俺の方こそすまん」


 ちょっと気まずい満員電車。

 降りる駅までがものすごく長く感じた。


 学校に着くまでの道は二人ともだんまり。

 目も恥ずかしくて合わせられない。


「おはよう! 美琴に隼!」


 学校に到着し、教室へ入ると朝から喧しい声が鼓膜にダイレクト。


「相変わらず煩いなお前は。黙って大人しく座ってろ」

「なんでそう言う事言うのさ! 美琴~っ、隼が虐めるぅぅっ!」


 こいつは同じクラスの朝霧 瑞稀(あさぎり みずき)。黒髪清楚の美少女。なんて一見思うが、こいつは正真正銘の男。所謂、男の娘ってやつだ。


「その無駄な元気を、もっと勉強に向けた方が良いよ? こないだのテスト、ヤバかったんでしょ」

「うわーんっ! 傷口に塩塗られたぁー!」


 これもいつもの光景。俺達三人は中学の時から仲が良かった。というか、中学から今までずっと同じクラスなのが地味に怖い。見えない系で結ばれてるんじゃないかとさえ思えてくる。


「あ、ねえねえ! 今日学校終わったら、三人でスタボの新作飲みに行こ!」

「あ、行きたい! 今度の新作美味しそうよね」


「でしょ! もちろん隼も行くよね?」

「えー、俺別に興味ないし」


「なんでさ! こういう付き合いが仲を深めるんだからね!ね〜、美琴からもなんとか言ってよ!」

「隼が来てくれなきゃ寂しいなぁ。一緒に行こ♡」


 ぐふっっ!


「なんか美琴が小悪魔女子になってるぅぅーっ!? どうしたの美琴!? 頭沸いちゃった?」


 瑞稀の言う通り、今日の美琴はやっぱり何か変だ。そして何故か、俺の心臓は8ビートを刻んでいた。


 負けヒロインの幼馴染が可愛く見えるだとっ!?


「い、行きます……」

「やったぁ♡」

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