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02「Vライバーの選択」

「ふぅぅ……」


 配信を終えた私は、ベッドに横になって大きく息を吐いた。


「まさか隼が私の配信見てるとは……しかもガチ恋勢ってなによ」


 私はリムと名付けた小悪魔系サキュバスのアバターを使って配信するVライバー。配信は趣味として、金曜や土曜の夜に行う事が多い。


 初めて一年だが、そこそこ人気があると自負している。


「いくら声を作ってるって言っても、幼馴染なら気づきなさいよ!」


 隣に住む幼馴染の我妻隼は、小学校から高校までずっと一緒の腐れ縁。と言っても、高校は隼が受ける所をわざわざ選んで受験したので、執着してるのは私の方かもしれない。


「あいつ最近冷たいしね。私はこんなにあんたが好きなのに、なんでVライバーなんかにガチ恋してんのよ!」


 私が隼を好きになったのは、もうだいぶ前から。記憶も朧げな幼い頃からだと思う。


 その頃からずっと隼一筋。

 なのに、あいつは全然気づいてくれない。

 

 まあ、私も告白する勇気がないので人の事は言えないけど。


「それにしたって、鈍感過ぎるでしょ! 隼の馬鹿!」


 私はこれでも結構モテる。今まで告白されてきた数は両手じゃ数え切れない。中にはビックリするぐらいのイケメンもいた。

 

 それを全部一刀の下に伏せてきたのは、隼以上に好きになれるとは思えないから。


 普段はのほほんとしてるくせに、いざという時は頼りになる所とか、ご飯を作ってあげたら絶対に美味しいと褒めてくれる所とか、寝顔が可愛い所とか、良い所も悪い所も全部含めて大好きだった。


「それがVライバーにガチ恋っ! ……ん? 待って。そのライバーって、私じゃん」


 良く考えたら、隼がガチ恋してるライバーの中の人は私だ。


「それって、私の事が好きって事じゃん!」


 え、これって喜んで良い事?

 

 あくまでも、隼が好きなのはライバーの私だよね。頼まれずとも世話を焼いちゃう甲斐甲斐しい幼馴染の私じゃなくて。


「ううぅっ……自分に嫉妬する日がくるとは思わなかった」


 あれ? 私、隼の相談になんて答えたんだっけ?


「イラッとして忘れちゃったから、録画を確認してみるか」


 配信の録画を確認した私は、自分でした相談の答えに愕然とした。


『私を堕とすには、隣の幼馴染ぐらい簡単に堕とせる男じゃなきゃダメだよ? 幼馴染をガチ恋させられたら考えてあげる』


「なに言っての私……頭沸いてるわ」


 いや、まさか本気にしないよね?


 隼は冷めてるとこあるし、こんな馬鹿げたアンサーを本気にしちゃうお馬鹿さんじゃない筈。


 仮に本気にしたとしよう。

 隼はどういう行動を取ってくる?


「私をガチ恋させようとしてくる。いや、元々好きなんだが!」


 てか、好きにさせようとしてくるって、どんな感じなのかな。もう既に好きなのに、全部意味なくないか?


「あれ、ちょっと面白くなってきた。自分の行動が全然効果ないって分かった隼の反応が、超絶楽しみ」


 隼と会うのは月曜日の朝。

 その日が作戦の決行日。


 題して『ガチ恋させようとしてくる幼馴染に全然靡かないフリ』作戦だ。


「さーて、一体どんな手でくるのかな隼君。ふふふふふっ」


 そして、待ちに待った月曜日の朝がきたーー


「起きなさい隼!」


 いつもの朝、可愛い顔の幼馴染を起こしにやってきた私は、隼の布団をいつも通りに剥ぎ取る。


「……んんっ」


 もう、相変わらず寝起きが悪いんだから。

 

「起きて隼。遅刻するわよ」


 この時、私は完全に油断していた。

 

「もう少し寝る」


 なんて言いながら、揺する私の手を取った隼は強引に自分の横へ抱き寄せた。


「え、ちょ、隼……っ!?」

「今日晴れてる?」


 いやいや、そんな事普通に聞く状況じゃないと思います!


 隼の胸にピッタリと抱き寄せられた私は、自分の体が茹るように熱くなるのを感じていた。


 隼の匂い。隼の鼓動。隼の温もり。

 全てがこんなに近くにある。

 ダメだこれ、頭おかしくなっちゃう。


「は、離してよっ!」

「なんで……?」


 なんでって……恥ずかしいからに決まってんでしょ!


「な、なんかおかしいよ隼っ。熱でもあるんじゃない!? こんな事、いつもならしないじゃん……」

「まあ。嫌だった?」


 ズルい。嫌なんて言える訳ないじゃん。

 はっ! ちょっと待って……これって隼のガチ恋作戦?


 それならこの状況も頷ける。ライバーである私のアドバイスを聞いた結果がこんな状況というのなら、その原因を作ったのは私だとも言えるけど。


 よし、落ち着け私。

 これは隼の作戦。

 下手に反応しちゃダメ。


「良いから離しなさいよ。早く用意しないと本当に遅刻するわよ?」

「分かった。いつも起こしにきてくれてありがとな。美琴」


 うっ、耳元で囁くなっ!

 キュンキュンしちゃうだろうが!


「感謝するなら、いつも早く起きなさいよ」

「はーい。んじゃ、用意するかぁ」


 ようやく体を起こして準備を始めた隼。

 部屋に残された私は、隼のベッドで暫く動けなかった。


「これ、思ったよりヤバいかも。私、反応せずに耐えられるかな?」


 私、甘くみてたかも。

 元々好きだからどんな事されても大丈夫。

 そんな風に考えていた。


 それがまさか、初っ端からこんな大胆な作戦で来るとは予想外だ。まだ隼の温もりが体に残っている。


「心臓苦しい……」


 でも負けない。これを機に、私も本気で隼と向き合ってみる。そして、ライバーの私じゃなくて、幼馴染の私を好きになって貰うのだ。


 作戦は変更する。


 題して『ガチ恋させようとしてくる幼馴染を逆にガチ恋させてみた』作戦だ!


「今日からツンデレ系幼馴染は卒業します。私は今日から、小悪魔系思わせぶり幼馴染になる!」

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