01「ガチ恋勢」
『今夜もリムちゃんの宴が始まるよ~! 我の配下よ集えー!』
今やVライバー戦国時代。様々なプラットフォームで展開されるアバターを使った配信は、顔出し無しで出来る副業や趣味として大人気。
俺こと我妻 隼も、Vライバーにハマった口だ。もっとも、俺は見る方専属だが。
「う~ん、今日もリムちゃんは可愛いなぁ。この甘ったるい中にも刺々しさが残った声が最高にキュートだ」
Vライバー"リム"ーー
サキュバスのアバターを使った小悪魔系配信者として、ここ一年の間に人気を伸ばしたライバーだ。同時接続最高一万人。配信内容は、ゲーム、雑談、お悩み相談など幅広く行っている。
『今日は雑談の後に、恋のお悩みでも聞いちゃおっかなぁ~!』
「お、今日は雑談と恋のお悩み相談か。金曜の夜ともあって、スパチャが飛び交いそうだな」
スーパーチャットーー通称スパチャは、配信者に向けたコメントと共に、お金を投げる行為を指す。投げ銭とも呼ばれている。
「よし、今日は俺も投げちゃうぞ」
数百円の少額からでも投げられるが、額が多いほど配信者の目に止まる確率は上がる。
どうしてもコメントを読んで欲しい奴は、かなりの高額スパチャを惜しげもなく投げやがる。
学生身分の俺はそこまで高額を投げられないので、この一年間で読んで貰ったコメントは0だ。悔しいが、金の暴力には抗えない。
『じゃあ、そろそろ恋のお悩みでも聞いちゃいますかっ!』
「お、きたきた! お布施タイムだ!」
配信も半ばに入り、恋のお悩み募集タイムに入った。この間はスパチャが入り乱れるので、お布施タイムとも呼ばれている。
『おお、みんなお布施ありがとぉ~! 苦しゅうないぞよ。どれどれ……先ずは、夢見る熊さんのお悩みから聞いちゃうよ!』
お悩み相談は三十分は確保されている筈なので、まだ焦る時ではない。少ない小遣いで投げられるスパチャは一回のみ。この一回に、俺は全てを賭ける!
『いやぁ~、中々難しいお悩みだったねぇ。リムちゃんも頭を悩ませちゃったよ。よーし、次のお悩みはーー』
「今だ!」
もっともお布施が入り乱れるのは、序盤と終盤がほとんど。中間の今は若干中弛みするチャンスタイム。ここぞというタイミングを見極め、俺は送信ボタンをタップした。
『えーと……我妻?』
「キタキタキタァァーっ! それは俺です!!!!」
ハンドルネームは我妻と名字そのまま。
元々珍しい名字とあって、目に留まりやすいかと思っての事だ。ここにきて、その考えがドンピシャだった事が証明された。
『……』
「あれ? リムちゃんどうしたんだ?」
俺の名前を呼んだと思ったら、リムちゃんの声が途切れてしまった。接続の調子でも悪いのだろうか? コメントでも心配する声が滝のように流れている。
『あ、ごめんごめん! ちょっと接続の調子がね。えっと、次は我妻さんのお悩みだね』
良かった。無事に接続が戻ったみたいだ。
さあ、リムちゃんーー俺の悩みを聞いてくれ。
『リムちゃんガチ恋勢です。リムちゃんとお付き合いをするには、どうしたら良いですか……』
俺のコメントを読んだリムちゃんは、答えを出すのに少し考えているようだ。その間に流れるコメントは予想した通り、少々荒れていた。
『調子乗るな』
『ガチ恋勢ウザすぎ』
『リムちゃんはみんなのリムちゃん』
「はいはい。言ってろ言ってろ」
『うーん、そうだなぁ』
「お、リムちゃんからのアンサーだ」
小悪魔系のリムちゃんがどう返すのか、俺はガチアドバイスを期待して画面を見守る。
『私を堕とすには、隣の幼馴染ぐらい簡単に堕とせる男じゃなきゃダメだよ? 幼馴染をガチ恋させられたら考えてあげる』
「幼馴染……?」
突然出てきたワードに俺は困惑していた。
それもそう、俺にはマジで隣の家に幼馴染がいたのだ。
鏑木 美琴ーー
産まれた日は俺の一日後、小学校から高校までずっと同じ所に通う正真正銘の幼馴染。
もはや腐れ縁と言っても良い。頼んでもいないのに世話を焼いてくる幼馴染を、俺は少し疎ましく思っていた。
幼少時代は、そりゃあ嫌になるほど一緒だった。家は両親が共働きで忙しかった事もあり、俺はよく隣の家に預けられていた。
そのせいもあるのか、美琴は俺の世話を焼きたがる。どこに行くにも着いてきて、来るなと言えば大号泣。
今じゃ少し落ち着いたが、世話焼きは相変わらず。朝は起こしに来るし、両親の帰りが遅い夜は食事の世話まで焼きにくる。
正直、ちょっと鬱陶しくなっていた。
顔もスタイルも確かに完璧。
学校じゃ五本の指に入る美少女と言っても過言ではない。
友達には羨ましがられるし、お前らはいつ付き合うんだと揶揄われる事も多い。だが、俺は今まで美琴を異性として意識した事はなかった。
小さい頃からずっと一緒だし、お互い良い所も悪い所も露見しているので恋に発展するようなドキドキも緊張感もない。
友達以上幼馴染未満。
それが俺と美琴の関係だ。
それにだ、俺にはリムちゃんという可愛いガチ恋相手がいる。美琴を相手に青春してる場合じゃないのだ。
頼んでもいないのに世話を焼いてくる系幼馴染は、負けヒロインが確定している。
「でも、リムちゃんが言ってるしなぁ……」
にしたって、美琴をガチ恋させるって難易度高過ぎやしませんかね?
「はぁ……とりあえず、少し優しくしてみるか」
配信が終わりベッドに倒れた俺は、ため息と共に苦渋の決断をしていた。
美琴が来るのは恐らく月曜日の朝。
その日から、俺の作戦は始まる。
題して『負けヒロイン確定の幼馴染をガチ恋させてみた』作戦だ。
「いや、そんなの上手くいくか? 先が思いやられる……」
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