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雑談三昧  作者: カトーSOS


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39/43

縦に並べばいいだけの話

夕飯のあとに散歩に出る、というのは

一日の中でも、いちばん静かな時間だと思っている。


仕事の話も、用事の話も、たいていはもう終わっていて、

残っているのは、体に溜まった一日の名残みたいなものだけだ。

それを歩いて、風に当てて、外に逃がす。


何かを考えようと思って歩いているわけではない。

たいていの考え事は、

ただ歩いている途中に、勝手に浮かんでくる。


この話も、そんな散歩の途中で起きた、

取るに足らない出来事のひとつだ。


でも、立ち止まってみると、

意外と自分の考え方や、

相手との距離の取り方が、

そのまま現れている気がした。


大げさな話ではない。

町内をぐるぐる回って、

無事に帰ってくるまでの、

ほんの短いエピソードだ。


昔から言われるでしょう。

「男性が車道側を歩いて、女性を守る」って。


私は、あれがどうにも腑に落ちない。


相手は自動車だ。

質量は1トンを軽く超えて、止まるまでに何十メートルもかかる。

そこに人間が一人立ったところで、守るも何もない。

物理の話をしているだけだ。


だから私は歩くとき、必ず端に寄る。

できるだけ目立たず、できるだけ予測可能な位置を取る。

自分が盾になる、なんて発想は最初からない。

盾になれたとしても、現実には潰れるだけだ。


夕飯のあと、奥さんと散歩に出る。

一周歩いて、今度は自転車で町内をぐるぐる回る。

目的はない。

ただ風を受けて、同じ道をなぞるだけ。


問題が起きるのは、対向車が来たときだ。


私は減速して左に寄る。

横並びをやめて、縦に並びたい。

前でも後ろでもいいから、一本の線になりたい。


でも奥さんは、それが不満らしい。


「なんで速度を落とすの」

「早く走って」

「あなたがそこを占領するから、私が入る場所がない」

しまいには

「私を盾にする気か」


正直、少し面食らう。


私から見ると、前も後ろも空いている。

横幅を狭めることが大事で、

誰が前か後ろかは、どうでもいい。


でも奥さんの側に立つと、たぶん違う景色が見えている。


車が来る。

怖い。

だから一刻も早く、その場を抜けたい。

スピードを上げたい。

自分の進路を邪魔されると、不安になる。


私は「構造」で安全を考える。

奥さんは「体感」で危険を感じる。


どちらが正しい、という話じゃない。

ただ、危険への回避方法が真逆なだけだ。


私は

危険を時間と配置で薄めたい。

奥さんは

危険をスピードで振り切りたい。


だから噛み合わない。


安全って、優しさの表現じゃない。

勇気でも、役割分担でもない。

配置の話だ。


でも同時に、

怖さは理屈では消えない、というのも事実だ。


私は事故を避けたいだけ。

奥さんは安心したいだけ。


同じゴールを見ているのに、

地図の描き方が違う。


結局、縦に並べばいい。

前でも後ろでも一緒だ。

でも、それを「一緒だ」と感じられるかどうかは、

人によって違う。


守る、という言葉は難しい。

私は事故が起きない形を選びたいし、

奥さんは怖くない形を選びたい。


そのズレを抱えたまま、

今夜も町内をぐるぐる回る。


減速しながら、

左に寄りながら。


たぶんそれが、

私たちなりの散歩なんだと思っている。

この話を書きながら、

結論めいたものを出すつもりはなかった。


誰が正しいかを決めたいわけでもないし、

どちらが優しいかを比べたいわけでもない。


ただ、同じ道を走っていても、

見ているものや、怖がっているものが違う、

ということがある、というだけの話だ。


私にとっては

配置や速度の話で、

奥さんにとっては

安心できるかどうかの話。


それだけの違いが、

ちょっとしたすれ違いを生む。


散歩のあと、

また夕飯を食べて、

また同じ道を歩く。


その繰り返しの中で、

少しずつ相手の地図を想像できるようになるなら、

それで十分だと思っている。


今日も町内を一周して、

無事に帰ってきた。


それだけで、この話は終わりでいい。

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