判別式に裏切られた夜
数学って、冷たい学問だと思っていました。
答えはひとつ、間違いは間違い。
でも、ある夜、私は“判別式”に裏切られました。
高校で習ったあの便利な公式――
「D=b²−4acが0以上なら実数解をもつ」
それを信じきっていた私の前に、
虚数係数の方程式が立ちはだかったのです。
計算してもDは虚数。
「えっ、なにこれ? D≧0って言えないじゃん!」
そこから、私の小さな数学革命が始まりました。
これは、Yahoo知恵袋で誰にも説明してもらえなかった
“勘違いの物語”です。
けれど、あの夜の混乱が、
私にとって初めて「数学の美しさ」に触れた瞬間でもありました。
――Yahoo知恵袋で複素数と出会った日
数学の予習だった。
「(1+i)x² + (k+i)x + 3 + 3ki = 0 が実数解をもつような k を求めよ」──
ただそれだけの問題。
ところが、いざ計算してみると、判別式 D が虚数になった。
D = (k+i)² - 4(1+i)(3+3ki) = (k² - 12k - 13) + (-10k + 1)i
「D≧0」も言えない。
それまで信じてきた“判別式で実数解を判定する”という常識が、
音もなく崩れた。
どうしてだろう。
悩んだ末、私はYahoo知恵袋に投稿した。
「なぜ、このやり方では解けないのでしょうか?」
返ってきた答えは短かった。
「複素数係数だから、D≧0とは言えません。」
その一言の冷たさの中に、
実は恐ろしく深い意味が隠れていた。
実数の世界を一歩出た瞬間、
“大小”という概念が消える。
比較できない世界。
そこには、これまでの数学とは
まったく違う地形が広がっていた。
当時の私は、それを単なる理屈の違いだと思っていた。
けれど今振り返ると、
あの混乱こそが、
数学というものの本質に初めて触れた瞬間だった。
グラフが描けない世界。
虚数の軸に沿って、もうひとつの平面が広がっている。
「実数解をもつ」という言葉が、
いつのまにか“平面の中で立体を想像する”ことに変わっていた。
数学は、答えを出すものじゃない。
世界の見方を、
ひっくり返すための道具なのだ。
あの頃の私は、答えを出すことばかり考えていました。
でも本当に面白いのは、
「なぜそうなるのか」を探す時間のほうでした。
判別式が虚数になる。
そのたった一つの違和感から、
“実数の世界”の外側が見えた気がします。
数学って、結果よりも過程。
いや、もっと言えば――
間違いこそが、理解の入り口なんですよね。
次回は、大学に入って味わった「日本語が通じない数学」の話をします。
タイトルは――
『先生の日本語が分からなかった日』。
お楽しみに。




