行商人テラーの魔法忘備録
初投稿です。よろしくお願いします。
リック平野の中央付近、人っ子1人いない中で商人が1人店を構えている。こんなところでは、商売にならないだろう。いや、商売のことなんて考えていないかもしれない。そう言い切れるほど、彼女は集中して魔法具の制作に取り掛かっていた。彼女は商人でもあるが、その前に魔法具士である。長く伸びた灰色の後ろ髪を鬱陶しそうにかきあげながら魔法具の制作を続けている。
「よし、できた!」
そう言った彼女の手の平にあるのは、小さな魔法具。魔法具には小さな石が埋め込まれていて、魔力が流れているのか、小さな光を帯びている。彼女は小さな魔法具を箱に取り付けた。すると、魔法具は箱にピタッとくっつき簡単には取れなくなった。彼女が魔法具に手をかざすと箱は開いた。
「おお!ちゃんと動いている!これは、実用化出来そうな予感♪なんて名前にしようかな?魔法鍵?」
彼女は浮かれた様子で作業場に戻っていった。そのとき、ベルのけたたましい音が鳴った。
「あの、すみませーん」
「はーい。今いきまーす」
彼女はボサボサになった髪を整え、テラーと書かれた名札をつけながら、お客さんのいるカウンターまで向かった。
「お待たせしました。テラー魔法商店です」
カウンター前にいるのは、おじさんだった。
「お嬢ちゃん、行商人さんかい?こんなところじゃ、商売出来ないだろ。こんな平野じゃなくて、もっと人が多いところで店を開いたらどうだい?」
お客さんかと思ったら、案外そうじゃないらしい。確かにおじさんの言うことは一理ある。ここに来てはや1週間一度もお客さんが来ていなかったのだ。
「ご忠告ありがとうございます。ついでに、魔法具はいかがですか?どれも私が作ったので、効果には自身があります」
「そうかい。商売っ気があっていいねえ。じゃあ、一つ買おっかな。」
「見たところ、おじさんは農家さんですよね。それでは、こちらの草刈り鎌はどうでしょう。こちらの鎌は、見た目は普通の品とあまり遜色ありませんが、風魔法が付与されていて、一刈りで広範囲の草を刈ることが出来ちゃうんです!」
目を輝かせながら、テラーは早口で語り出した。
「ほう、そいつは中々いい品じゃないか。ここで少し使ってみてもいいか?」
「どうぞ、使って見てください!」
おじさんが鎌を使うと鎌で草を刈った範囲よりもずっと広い範囲の草が刈れた。そして、驚くことにおじさんや周囲の草以外のものに傷一つつかなかったのだ。
「おお、こりゃすごいな。見事に草しか刈れない!」
「そうなんです!この草刈り鎌は草しか刈れないようにこだわり尽くした一品で…ぜひこの草刈り鎌をたくさん使ってくれるであろうおじさんに買って欲しいんです!」
「是非とも欲しいよ!ただ、これは相当いい品だろう?俺の小遣いで買えるのか?」
「それはお任せください!こちらの草刈り鎌、なんと200ラルクです」
「200ラルク!?普通の鎌の値段は180ラルクで同じくらいじゃないか!?」
「はい!当店は色々な人に魔法具を手に取ってもらえるよう、お求め価格になっております!」
「よし、買うよ」
そう言っておじさんは、カウンターに200ラルク分の硬貨を置いた。
「お買い上げありがとうございます」
「お嬢ちゃん程の素晴らしい魔法具士さんなら、うちの街に来るといいよ。ここから南の街のアイデというところだから、今度来てみな」
「わかりました。今度向かいますね」
そう会話した後、おじさんは街の方へ帰っていった。もう時刻は夕方。こんなところではもう人は来ないだろうと、店じまいをする。久しぶりに魔法具が売れてとてもいい気分だ。次に魔法具を作るのも楽しみだ。そう思いながら店の明かりを消した。
寝る前につける日記はテラーの日課だ。今日あった出来事も勿論日記に書く。
『今日は、以前から作っていた魔法具が完成した。名は魔法鍵にしようと思う。お客さんが1人来店した。おじさんで、200ラルクの草刈り鎌を買っていった。どうやら、南の街のアイデではいい商売が出来そうな予感がする。明日にでも出発しよう』
日記をつけ終わると、テラーはそのまま机に突っ伏して眠ってしまった。




