第一話 星の記録(アーカイブ)に呼ばれし者
──西暦2257年。地球はもはや「中心」ではなかった。
第4次宇宙大戦の終結から20年。火星軌道上にはかつての戦場の名残が漂い、未だに解体されない軌道要塞〈オルガノス〉が虚空にその巨体を晒していた。
そこに記録された、“あの日” のデータログは今も封印されたままだ。
「また動いてる。あの座標群、先週から5度目だ」
──リュカ・アルヴェイン。15歳。人工知能〈クロノライズ7〉と共に開発された生体融合型タキオン解析装置〈ユニソフト・レイヤー〉の開発者にして、アカシックレコードアクセス候補者“第十三位”。
彼は現在、月面地下にある「隔絶都市〈デプス=ルナ〉」の最下層にて、母親の遺品でもある”記憶結晶体”を研究していた。
「このシークエンス、完全に通常次元の因果を外れてる……管理者の干渉痕か?」
リュカの額には薄く光る青い回路文様──ナノフロント構造の神経拡張素子「アストラ・エッジ」。脳の思考と量子ネットワークを融合させる、かつて火星戦争で“神童”とまで呼ばれた技術だ。
「……母さん。あの戦争で、あなたは何を見たの?」
静かな研究室に、ログデータの再構成音が響く。
次の瞬間、〈ユニソフト・レイヤー〉が異常を感知する。
《外部干渉。階層境界突破。未承認コード “ORIGIN-000” を検出》
「オリジン……まさか、あの組織が!」
その名は──〈ORIGIN〉。
10万人規模の武装構成員を擁する、宇宙規模の軍事組織。かつて第4次宇宙大戦で火星防衛を指揮したロシア総司令官にして、今や性別不明の“統括者”に君臨する者、「ゼロ・ノヴァク」が率いる影の帝国。
通信回線が強制開示され、黒く歪んだ映像が映し出される。
《……リュカ・アルヴェイン。君の母は、“禁忌” に触れた。それを君も、受け継ぐつもりか?》
「誰だ!」
《名乗る必要はない。君が母から受け継いだ〈カレイド・フラクタ〉……それは、宇宙構造そのものへの鍵となる。》
「アカシックレコードへのアクセスキー……!」
そう。人類はまだ知らない──宇宙の情報層“第七階梯”には、生者のまま踏み込んではならない領域が存在することを。
「なら、奪いに来る気か?母の記憶を……」
《奪う? 違うよ、リュカ。君を──選びに来たんだ》
次の瞬間、研究室の壁を貫いて降下してきた黒い兵士たち。彼らの胸には、“ORIGIN” の紋章──銀の渦を巻く星が刻まれていた。
──ここから、リュカの旅が始まる。
母の記憶の真実。火星で起きた封印戦争の記録。ゼロ・ノヴァクの野望。そして、宇宙の外側からそれらすべてを「監視」する存在──管理者(Administrators)。
その日、少年は自らの運命を悟る。
「だったら、僕は自分で決める。母さんが見た“真理”を、僕の目で見てやる!」
世界の裏側に隠された**星の記録**が、いま少年を呼び覚ます。