意外な素顔
「トューアイ、今日のゲーセンどこ行く?駅前のドアーズはデカいけど人が多いからな。まずは、腹ごしらえしてから考えるか。」
始業式等の行事が終わり下校時間。照人が俺に話しかけてきた。
「悪いが、怠誠先生にクラス全員分の提出物を職員室まで運ぶよう頼まれてて、直ぐには行けない。後で必ず行くから先に行っててくれ。」
そっかーと残念そうに照人は、他の友人と一緒にゲーセンに行くために教室を出た。
俺は、クラス全員が提出物を出しているか確認して、妖使 麗子の提出物だけ無いことに気づいた。
妖使の周りには人だかりができていた。
「ねえねえ、超能力者って本当?」
「何のスポーツ大会で優勝したの?」
噂話を信じて、馬鹿げた質問を投げかけるクラスメイト。そんな奴らの質問に丁寧に答える。盛り上がっている空気に割って話しかけるのは、陰キャにはかなりの試練だ。
「あ、あの、よ、よ、妖使さん、話し中ごめん。進路希望のプリントって持ってる?クラスの集めて担任に提出しなきゃいけなきゃくて」
噛んでしまった、恥ずかしい。
「それでしたら既に怠誠先生に提出しています。先ほど頼まれておりましたね。私から一言いうべきでした。ごめんなさい。」
盛大に噛んだのに一切笑わず申し訳なさそうに返答された。彼女の大きな瞳が純度の高い宝石のように潤んでいる。悪女と思ったことを謝りたい。
分かった、ありがとうと言って、俺はその場をクールに去った。
怠誠先生にクラス分の提出物を渡し、俺は昼飯をどうするか考えていた。
ダイザでドリアを食べるのもいいが今の時間は混んでいそうだし、購買で適当に買って例の場所に行くことにするか。
うちの高校は、基本的に屋上の利用は禁止されている。利用したい場合は、事前に教員の許可を取り、鍵を貰う必要がある。
俺は、用務員さんの手伝いをしている関係で、屋上の鍵を渡されている。
あまり私用で使うなと言われているが、たまに飯食うのに利用しても文句は言われないだろう。
屋上の出入口に着くと鍵が開いている。用務員さんも屋上を使っているのかな。
俺は、深く考えず扉を開けた。すると...。
「この学校、進学校て聞いてたけど生徒のレベル低すぎ。何でいきなり、超能力使えるって本当?って、普通に考えてありえないでしょ。適当に相槌を打ってれば勝手に納得して満足するし、人と会話する気があるの?。私に提出物持ってないか聞いてきた男子なんて、言葉噛んで顔真っ赤にして笑えたわ。しかも私が優しく微笑んだら、恥ずかしそうに苦笑いしてきて傑作よ。」
どこかで聞いたことがある声だ。声がする方を恐る恐る覗いてみた。手摺に体をあずけ、膝を折り股を広げながら座り込んで腹を抱えながら妖使が笑っていた。
装飾がされている綺麗なピンク色の御召し物が見える。なかなか良い趣味してるぜ。
俺は、悪役が勝利を確信したように笑っている妖使を見て、全て悟った。
完璧な人間なんていない、叩けば必ずホコリは舞うものだ。
俺は、この光景を自分の胸にしまおうと誓い、ゆっくりと振り返り、扉を閉めようしたその時
「おーい、合目そこで何をしてる。私用で勝手に屋上を使うなといつも言っているだろう。」
階段の踊り場から、世話になっている用務員さんが大声で話しかけてきた。年齢は、怠誠先生と同じくらいか。キリッとした整った顔、細身だが筋肉質で健康的な体、世の女性が放ってはおかないだろう。
まずい、まだ扉を閉めていない。声が妖使に届いてしまう。
俺は、妖使の方を振り返った。
そこには、笑い声は無く鋭い宝石の光が俺に向かってのびていた。痛い。彼女の高校生活に一物の不安を与えてしまったかもしれない。
俺は、また苦笑いを浮かべ、妖使の方を見た。
妖使は笑顔で俺に近づいてきた。
俺は、その場を動けない。意識が胸の鼓動に邪魔されぼやける。
「何をしているんだ」
用務員さんが不思議そうに近づいてきた。
「いや、別に何も...。怪しいことは何もしてないです。」
「お前、その返答、かなり怪しいぞ。」
なんて言い訳をすればいいのか必死に考えるが、どれも言葉に出ない。
「転入生の私のタメに校内を案内してくださってありがとうございます。」
後ろから聞こえた凛とした声に思わず賛同してしまった。
「そうなんです。転入生を妖使さんを校内を見学してて。それで、せっかくなら屋上もと思って。」
用務員さんがえらいべっぴんさんが来たさもんだと感心しながら、妖使の方を見ていてた。
「屋上を見学する許可は貰ってるのか?」
しまった、俺は普段から屋上を利用できるから、考えてなかった。妖使が勝手に屋上の鍵を開けてたらまずい。
「担任の怠誠先生に許可を貰っております。ほらここに鍵が」
妖使の手に職員室で管理されている鍵があった。
よくよく考えれば分かることだ。でなければ屋上の鍵が開いているわけがない。
俺は胸を撫で下ろし、妖使の方を見た。
妖使は、俺の方をニヤニヤと笑いながら見ていた。
その貧相な胸から俺への悪意が溢れている。もっと思いやりや優しさを胸に詰め込んで欲しいものだ。
用務員さんは、なら大丈夫かと行ってその場を去っていった。