出会い
眠たい校長のありがたいお言葉を聞き、高校二年に進学して一学期が始まろうとしていた。
俺はどこにでもいる陰キャな高校生。友人は二人いる。一人を除いて彼女いない歴=年齢の陰キャ共。
俺は、そんなこいつらと過ごす日常が好きだが、平凡でどこにでもある日常を過ごしていた。
クラスが違う奴もいたが、去年のほとんどはこいつらと過ごした。同類相求むときたもんで、昼休みや放課後に見かけることが多く、唯一の彼女持ちである照人が俺らに声をかけたことが切っ掛けで知り合った。
お互いの趣味や好きなゲームジャンルが必ずしも一致している分けではないが、互いを尊重し合ういい関係なんだ。そんな空気感を作ったのも照人の懐の大きさが影響したのだろう。本当にあいつには感謝だ。
新学年になり新しいクラスが発表され、俺ら三人は同じクラスになった。これでより一層変わらない日常が続くだろう、だって陰キャには新しい人間関係を作ることがどれだけ難しいか...。照人は彼女と同じクラスになり照れ笑いを浮かべていた。
俺の座席は、教卓から見て一番左で一番手前、出席番号は毎回一番。俺の苗字「合目」のせいで新学年が始まると何時もこの座席になる。周りからも「トューアイ」なんてあだ名で呼ばれるしまつ。厨二病心くすぐるが街中で呼ばれるのは恥ずかしい。
新学年になって季節は春。出会いの季節とも言われるが、俺にとっては去年と変わらない日常が繰り返すだけだと思っていた。あいつと出会うまでは...。
俺たちのクラスに転入生が来るとの噂が流れた。クラス中が男か女かの話題一色になる。こんな時、本当にその話題しか出さないんだと感心した。海外の有名な人が来日した時や、芸能人の不倫が発覚した時、メディアがそのニュース一色になるように自分にさほど関係ない話で周りが盛り上がる、だけど何となくそのニュースを見てしまう。俺は友人の話を聞き流しながら、噂話について情報を整理した。どうやら帰国子女で、頭脳明晰、聖人君子。うちの高校は地元で有名な進学校で、転入試験はかなりレベルが高い。だから、頭がいいのは予想がつくが、スポーツの世界大会で優勝したことがあるとか、しまいには超能力者だとか。まぁ話に尾びれが付きまくり凄いことになっている。ここまでくるとどんな人間なのか気になって仕方がない。関わる事は無いだろうが、遠目から眺めるには丁度いい。できれば目の保養になる女性であって欲しいところだ。
担任の先生が教室に入ってきた。いつも通り、ぼさぼさの髪で気の抜けた顔に黒縁眼鏡をかけている。俺の担任は、去年と引き続き、無駄な面倒は買ってでもやらないことで有名な怠誠先生だ。緩めるところは緩め、締めるところは締める。俺が信頼している数少ない先生の一人でもある。
怠誠先生が教室に入るなり、皆がそそくさと自分の席に着いた。
「ホームルームを始める前に、転入生を紹介する。」
この一言でクラスが一気に盛り上がる。バレーボールの世界大会でピンチの時にスーパーレシーブで危機がチャンスに変わった時みたいに、観客が湧き上がる。
怠誠先生が冷静にクラスを宥める。クラスの誰かが咳払いをするのと同時に、転入生が入ってきた。何人かが息を呑む。
それもそのはず、その仕草から気品が伝わり、道ばたですれ違っただけでも見とれる程の綺麗な黒の長い髪、穏やかな整った顔、華奢な体をしており可憐という言葉が似合う。しいて言うならもう少し胸の膨らみが欲しい。つい美しいと呟いてしまった。そんな自分と彼女の目が合い、彼女はにこりと微笑んだ。反射的に顔が赤くなってしまっていることに気づき、目を逸らしてしまった。悪女や、とんでもない悪女が転入してきた。
「自己紹介をしてくれ。」
「今年度より、皆様とい一緒に時間を共にする、妖使 麗子と言います。生まれは日本ですが、育ちは海外で3月までイギリスで生活をしておりました。日本の学校は初めてなので慣れないことも多く皆様に迷惑をかけることがあると思いますが、これからよろしくお願いいたします。」
自己紹介が終わり、彼女は深々とお辞儀をした。凛とした透き通った声で、文句のつけようがない。
彼女は、指定された座席に座った。一番後ろの窓際、主人公席だ。俺とは対角の位置にいる。