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箱庭の勇気  作者: 海星
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嘘つき

 「では冒険者として登録します。

 あなた方は赤銅級冒険者からのスタートになります。

 ここに名前は書けますか?」と受付嬢。

 異世界語が書ける訳ない。

 「・・・書けません」

 僕は正直に言った。

 怪しまれるかな?

 でも受付嬢は別に何も感じていないようだ。

 異世界の識字率はかなり低いのだろう。

 文字が書けない事は珍しい事じゃないらしい。

 ・・・というのは名目で、ゲームの中で名前を受付嬢に伝えるだけで冒険者登録が終わる親切設定になっている、とこの時の僕は知らない。

 本当にこの世界は中世っぽいのにバリアフリーだ。

 受付嬢が僕ら一人一人にネックレスを渡す。

 ネックレスには楕円形の十円玉みたいな飾りがついている。

 いらねー。

 駄菓子屋で売ってるオモチャのネックレスだってもう少し飾りっ気があるぞ。

 飾りが『歪んだ楕円の十円玉』って。

 まぁ、タダでもらっておいて文句を言うのも何だな。

 しょうがなく僕はネックレスを胸ポケットに入れようとした。

 「『登録証』は常に身に付けるようにして下さい!」と受付嬢に怒られた。

 「な、何で?」あまりの受付嬢の剣幕に僕はタジタジになりながら質問する。

 「冒険者はほとんどの場合、刃物など『人を傷つけられるモノ』を持ち歩いてます。

 持ち歩く事は許可されているんです。

 その代わり、冒険者は街の自警に協力しなくてはいけません。

 しかし、持ち歩く条件として『登録証をつけている事』があるんです!」

 そりゃそうか。

 警察手帳持ってないヤツが銃持ってたらそりゃエラい事だもんな。

 「でも、だとしたら『冒険者登録』簡単過ぎない?

 誰でも簡単に刃物持て過ぎだよね?」と僕。

 「これくらい簡単にしないと冒険者のなり手がいないんです。

 ・・・これを今から冒険者になる人には言うべきではないのかも知れませんが。

 冒険者が傷害を起こした場合、他の街の人が傷害を起こした場合より罪が重くなります。

 そして、冒険者は有事には協力しなくてはなりません」と受付嬢。

 「『有事』っていうのは?」

 「様々です。

 外敵に攻め込まれた場合。

 モンスターの大群が押し寄せた場合。

 災害が起きた場合の人足として・・・」

 「冒険者って最低ね・・・。

 罪は重くなるわ、いざって時に使い走り、捨てゴマにされるわ・・・」と中野さん。

 「しかも最近、モンスターも災害も増えているんです。

 そのせいで街の治安が悪くなって、野盗が増えて・・・冒険者の出番が増えているのに、冒険者のなり手が激減して・・・」と受付嬢が困ったように言う。

 「そりゃなりたいって人は少ないわよね。

 激務なのに、危険は多くて、規則は厳しい。

 なりたいって人間の方がどうかしてるわ」と會澤さん。


 バグにより魔物は急増している。

 サービス終了によりプレイヤーがいなくなり冒険者が激減している。

 ゲームとしては『バランスが崩壊している』状況だ。

 だがそんな事は僕らの知った事ではない。


 ギルドの掲示板を見る。

 紙切れが無数に貼られている。

 文字は読めない。

 だが、これが全て『冒険者ギルドへの依頼』だとしたら『依頼は全然捌けていない』という事だ。

 どうやら受付嬢が言った『深刻な冒険者不足』というのは本当みたいだ。

 どうやら僕らは『久々に冒険者ギルドへ現れた期待のルーキー』らしい。

 柄の悪い冒険者連中に『新人いじめ』にあうのかと思ったら、ベテラン冒険者達は新人がいなくなったら困るらしい。

 僕らを横目では見るモノの腫れ物にさわるように愛想笑いしながら通りすぎる。

 気持ち悪いねん!

 まぁいいや。

 「新人冒険者でもこなせそうな依頼ってある?」と僕。

 「ありますよ!

 えーっと・・・」と食い気味に受付嬢が言う。

 「今日、一日過ごせるだけの報酬がある仕事で!」と會澤さんが慌てて付け加える。

 「あのねえ!

 タダ働きならどの業界にもいくらでもあるのよ!

 必要なのは『生活していけるだけの金になる仕事』『明日に繋がる仕事』『身を削る事にならない仕事』を選らばないと破滅なのよ!

 そんな事、相手は教えてくれないからね!

 自分の身は自分で守らないといけないのよ!

 誰が味方で誰が敵かなんて自分で判断しなきゃならないのよ!

 マネージャーが、会社がタレントを騙そうとする事なんて普通にあるからね!」と會澤さん。

 受付嬢が『しまった』という顔をしている。

 どうやら『金にならない誰も受けない仕事』を僕らに紹介するつもりだったみたいだ。

 「ありがとう、會澤さん。

 會澤さんがいなかったら僕らは冒険者ギルドの『養分』にされてたかも・・・」と僕が會澤さんの耳元で呟く。

 「芸能界でこの手の大人に騙されるアイドル志望の女の子多いのよ。

 気付いたらAV出されてたりね。

 無垢な女の子ほど騙されやすいのよ。

 でも市場で受けるアイドルなんて『無垢っぽい女の子』なのよね。

 ()れてる女の子は敬遠される、っていう。

 加減が本当に難しいのよ・・・。

 それと、どうも『嘘つき』のスキルが発動したみたい。

 騙そうとしてる人に対して発動したみたい。

 『嘘つき』って別に私だけの事を言ってる訳じゃないみたい」會澤さんは安堵した顔で言った。

 僕は會澤さんの『私だけ』という言葉が引っ掛かった。

 會澤さんは自分が『嘘つき』だという事を自覚しているらしい。

 しかし今はそんな事を気にしている場合じゃない。


 金にならない依頼を僕らに押し付けようとした受付嬢が『悪事がバレて不貞腐れている子供』のような態度でチンタラと掲示板を探っている。

 「大丈夫。

 嘘をついて変な依頼を私達に押し付けようとするなら私の『嘘つき』のスキルが見破るから」と會澤さん。

 會澤さんのスキル、無茶苦茶役に立つやん!

 田中のスキルも、中野さんのスキルも。

 それに比べて僕のスキルは・・・。

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