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箱庭の勇気  作者: 海星
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時代

 『スキルを使え』と言われても『どうやってスキルを使えば良いのか?』わからない。

 そこに宿屋のおばちゃんが部屋にあらわれた。

 「夕食の準備が出来たよ」と。

 要件を伝えたおばちゃんはそのまま部屋から出て行こうとするが、おばちゃんを僕は引き留める。

 「ねえ、おばちゃん。

 『スキル』ってどうやって使うの?」と。

 おばちゃんが怪訝な顔をして「へ?スキル?」と言う。

 あ、もしかして『スキルを持ってる』って言っちゃダメなヤツだった?

 「『スキル』なんて誰でも使えるだろ?

 『石投げ』だって『牧畜』だってスキルだよ。

 『スキル』には『スキルレベル』ってモンがあって、誰でも同じように使えるモノじゃないけどね」とおばちゃん。

 「・・・で、どうやって使うのさ?」と僕。

 「『どう』って。

 変な事を聞くね。

 考えた事もなかったよ。

 頭の中で『スキルを使おう』と思ったら、それで『スキル』は使えるのさ。

 あ、使えない『スキル』もあるよ?

 人には『得手』『不得手』があって『使えないスキル』『習得に時間がかかるスキル』があるんだよ。

 あと皇城の女神様が稀に授けてくれる、という『ユニークスキル』みたいに『特定の個人だけが使えるスキル』もあるらしいよ」とおばちゃん。


 僕はおばちゃんにお礼を言って見送る。

 頭の中で『スキルを使おう』と念じれば自然とスキルは使えるらしい。

 この世界はそういう世界らしいのだ。


 「取り敢えず、晩御飯食べようか?」と中野さん。

 そうだな。

 そう言えばすごい空腹だった。


 宿屋の食堂に四人で行く。

 制服は目立ち過ぎるので、皇城でもらった装備兼こちらの世界の服に着替えた。

 麻みたいな素材なのか?

 イマイチ伸縮性が優れていない。

 慣れるしかないか。

 しばらくこちらの世界で生活しなきゃいけないんだ。

 木の机を四人で囲む。

 僕たちのような集団が3つある。

 特に『仲良さそう』という訳でもないのに、同じテーブルを囲っている。

 僕がそちらを見ていると、先程の宿屋のおばちゃんが「気になるかい?あの人らは冒険者パーティさ。昔はあぁいった冒険者で溢れてたんだけど、どういう訳かめっきり冒険者が減ってしまってねえ。宿屋の商売もあがったりさ」と言いながら僕らの目の前の皿にポタージュ状のスープを盛る。

 見たことのないオレンジ色のスープだ。

 でも食欲が無くなるような色のスープじゃない。

 主食もパンのようなナンのような見たことがないモノだ。

 (どうやらこの異世界は知ってる文化圏じゃないぞ)と僕は感じた。

 ゲームだって、ファンタジー世界はどこか中世ヨーロッパと似通うモノだ。

 建築様式だけじゃなく食生活も同様だ。

 見たことがない料理もそうだが、照明は松明じゃなく天井が光るのが一般的のようだ。

 料理に手をつけてみる。

 ・・・うまい。

 『甘い』とか『塩辛い』じゃない。

 これは出汁の味に近い。

 日本人好みだ。

 スープの色は強烈だが味は渋い。

 主菜の肉料理を見る。

 食べれそう、いや、美味しそうだ。

 でも何肉かわからない。

 そもそも牛とか豚とかそんな生き物がいるんだろうか?

 「ボンガロの肉料理だな。

 モンスターだけど家畜として育てられてるんだよ。

 見た目も味もイノシンに近い」と田中。

 「な、何で田中がそんな事を知ってるんだよ?」

 「これが俺のスキル『覗き見』らしい」と田中。

 「お前、スキルを使ったのか!?」と僕。

 「使ったというより、宿屋のおばちゃんが言った通り『スキルを使う』と念じただけだよ。

 そうしたらこの料理の『ステータス』が見えただけ」

 「『料理のステータス』?

 何だ?そりゃ?」

 「RPGなんかで仲間のステータスがウインドウが空中に浮かび上がって見えるじゃん?

 あれが見えるんだよ。

 人だけじゃなくてさ、モノとか料理のウインドウも浮かび上がって見える」と田中。

 「それって邪魔くさくないか?」

 「普段は見えないんだよ。

 『見よう』としたら浮かび上がってくる感じ。

 見たくない時は全く見えない。

 まさに『覗き見』しようとすれば、見える感じかな?」

 「ちょっと待て。

 ステータスが覗き見出来るって事はお前は僕達のステータスも覗き見出来るのか!?」

 「あぁ、出来るよ。

 ・・・とは言うものの、スキルレベルが低いうちは覗き見出来るステータスも限られているみたいだ。

 お前の『1UP』もスキルレベル1の時はきっと大した事は出来ないはずだぜ?」

 「それも覗き見たのか?」

 「まぁな、でも言った通り『覗き見レベル1』で覗き見出来るステータスなんてちょっとだけだよ」

 「覗き見られなくても『1UP』ってスキルがどんなもんだかわかんないけどな」と僕。

 「私のスキル『嘘つき』だって意味わかんないわよ」と會澤さん。

 「私のスキル『食玩』だって・・・」と中野さん。

 「使ってみないとどんなモノだかわかんないよね。

 正直、田中の『覗き見』が一番使えないスキルだと思ってた。

 今のところ一番使えるスキルっぽいよね」と僕。

 「そうよね、でも私達のスキルも使えるモノかも知れないわ。

 部屋に戻ったらスキルを使ってみるわ。

 どんなモノだかわからないから、他の冒険者達がいる所では使わないほうが良いでしょ?」と中野さん。

 僕だってもしかしたら使えるスキルをもらったかも知れない。

 僕のスキルはまだ良い。

 でも會澤さんのスキルは『嘘つき』。

 會澤さんは暗い顔をしている。

 そりゃそうか『嘘つき』なんて言われたらな。

 この時の『相原量子』はグラビアアイドルだ。

 アイドルに限らず『嘘』が悪い事とは限らない。

 おじいちゃんが末期の肺癌で肩関節まで癌細胞が転移していた時、親父はおじいちゃんに『リハビリで肩の筋トレしたら治る』って笑ってたもんな。

 で、後で僕に『ちゃんと俺は笑えているか?』って寂しそうに聞いてたもんな。

 あの時に僕は『優しい嘘もある』『嘘をつく事が正しい場面もある』『嘘つきは悪人じゃない』と思った。

 でもそれは僕の感想で、會澤さんの感想じゃない。

 僕の実体験が會澤さんのモノだったら會澤さんももう少しショックが少なかったんだろうけど。


 宿屋の部屋に戻った。

 日本だったら男女四人が同じ部屋なんてとんでもない事だ。

 でも冒険者は男女同部屋が当たり前のようだ。

 冒険者としてランクが上がったら男女関係なく『一人一部屋』になるようだが、駆け出しの冒険者は同室じゃないと経済的にもエラい事になるらしい。

 「そりゃおかしい!

 同室だって一人一人から金取ったじゃねーか!」と田中がゴネたけど「仲間同士で同室は恵まれている方だ。本来なら知らない連中と同室になるのが普通だ。そういった部屋じゃ新人の女冒険者は犠牲になる事が多い。お前らだけで同室にしたのはこちらの『優しさ』だ」と宿屋の従業員のマッチョのオヤジに言われた。

 クレーム対応になった途端に宿屋のおばちゃんは宿屋の奥からマッチョのオヤジを連れてきた。

 『文句だったらこのオヤジに言え』と。

 オヤジはマッチョなだけじゃなく、身体中に百戦錬磨の切り傷がある。

 オヤジは元冒険者なんだろう。

 熟練の冒険者ならオヤジに楯突けるかも知れないけど、僕らはきっと四人がかりでもオヤジに敵わないだろう。

 男女同室を會澤さんが一番嫌がるかと思いきや會澤さんは「宿屋っていうかドヤ街の『ベッド屋』みたいなのね」とあっけらかんとしていた。

 「何でドヤ街の事を知ってるの?」と僕。

 「中学時代、家出してドヤ街に住み着いてたのよ」と會澤さん。

 「『家出』って・・・。

 東横キッズみたいな感じ?」

 「私自身、あんまり自発的に家出しようとした訳じゃないのよ。

 母親の『育児放棄』?

 家にいたら飢え死にしちゃいそうだったし。

 それに家には母親の彼氏がいたからね。

 アイツに何されるかわからなかったのよ」

 この話は僕が聞いても良いんだろうか?

 壕輿学園は全寮制という。

 會澤さんが中野さんを『大丈夫、私がいるから』と宥めているようだ。

 中野さんこそ『男と同室なんてとんでもない!』と拒絶反応が強い。

 僕と田中は『會澤さんに男として見られていない』と傷ついて『中野さんに拒絶されている』と傷ついた。

 結局どんなでも傷つくんだよね。

 「童貞って面倒臭いな」と僕が田中に囁くと「ど、ど、ど、ど、ど、童貞ちゃうわ!」と田中は童貞丸出しのリアクションを取る。

 「いやいや、隠す事じゃないじゃん。

 僕も童貞だし」

 「え?お前も童貞なの?」

 田中が驚いたように言う。

 人を何だと思ってるんだよ?

 つーか『お前も』とか言ってる時点で自分も童貞なのを白状したようなモンだぞ?

 「自分から言い出しておいてなんだけど、この話はここまでにしとこうよ。

 初対面の女の子に聞かせる話じゃないよ」

 僕の言い分に田中は「そうだよな」とアッサリ引き下がった。

 しかし會澤さん、家出してたのか。

 不良少女だったのかな?


 僕と田中のベッドシーツが田中に外される。

 ベッドは二段ベッドで部屋の左右に一つずつある。

 二段ベッドといってもそんなに高さはない。

 下の段の人が勢いよく上半身を起こしたら天井に頭を打つだろう。

 それに下の段もベッドが膝より下の高さしかない。

 その理由はベッドの造りを見ればわかる。

 この部屋は二段ベッドしかないが、部屋によっては三段、四段、五段のベッドもあるんだろう。

 ベッドは上に積み重ねられる仕組みだ。

 しかも部屋はベッドを沢山上に積み重ねられるように天井が高い。

 天井付近に落書きがある。

 あそこまでベッドが積み重ねられていたのだろう。

 それを考えたら、四人部屋、しかも知らないヤツはいない・・・というのは本当に『宿屋の優しさ』なのかも知れない。

 部屋の中心には洗濯物を干すロープが立った時の頭の位置を通っている。

 そのロープに小汚ない僕と田中のベッドシーツがかけられる。

 「このシーツは『男女の壁』だ。

 このシーツの向こう側は絶対覗くなよ?」と田中。

 何だ、田中意外と紳士じゃねーか。

 「じゃぁ、俺が上の段な」と田中が、僕の意見を聞かずに上に上ろうとする。

 コイツ、上から覗き込む気満々じゃねーか!

 やめとけって。

 覗き込んでるのがバレて最初から気まずくなったらその後、地獄だぞ?

 田中の魂胆なんて女子にはバレバレだったようだ。

 「岡本くん、上の段になってよ」と中野さん。

 「やだよ。

 別に覗き込みたいと思ってないもん。

 わざわざ疑われる位置には行きたくないよ」と僕。

 「だからよ。

 覗く気満々のヤツが上の段より、『覗く気ないヤツ』が上の段の方が良いのよ。

 私も上の段だから。

 覗く気ないから。

 お互い覗く気ないなら問題ないでしょ?」

 中野さんの物言いに會澤さんが不満を漏らす。

 「私だって覗く気ないわよぅ」と。

 「貴女には『覗く気』はなくても貴女を『覗き込みたい男』は世の中にいくらでもいるのよ。

 少しは自覚しなさい!」

 「人に見られるのが嫌な人間が芸能人を志す訳ないでしょ?

 時々いるのよ。

 『何見てるのよ!?』って被害妄想丸出しで自意識過剰なモデルとかアイドルが。

 『自分が目立つ仕事してるんだから』って自覚がないのよね」

 「言ってる事に一理あるけど、貴女は『覗かれている自覚』が無さすぎると思うわ。

 覗かれていても全く気にしないから『スキャンダルクイーン』なんて言われる事になるのよ?

 話してみたら嫌味のない性格で、週刊誌であんなにボロカスに言われるような()じゃないのに・・・」と中野さん。

 「ちょっと待ってよ!

 私、一度も週刊誌の餌食になった事なんてないわよ!

 週刊誌に載りようがないわよ。

 夜遊びも男遊びもした事ないもの。

 それに私みたいな知名度低いグラビアアイドルなんて余程派手に遊ばない限り週刊誌なんて載らないわよ!」


 いままで、内心薄々気付きながら向き合う事が面倒臭くて避けてきた。

 ここら辺で四人の認識を擦り合わせる必要がありそうだ。

 『自分達は同じ世界の違う時代から召還された』んだ、と。

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