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箱庭の勇気  作者: 海星
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田中

 「ここはどこだ?」呟いても誰かが答えてくれる保証はない。

 でも呟かずにはいられなかった。

 高校で授業が終わって掃除も終わって・・・『さぁ、今日も部活頑張りますか!』と気合い入れて教室を出た・・・そこまでは覚えてる、間違いない。

 教室を出た次の瞬間、このだだっ広い空間にいた。

 俺と同じように学生服を着ている人たちが3人。

 制服はみんな違う。

 ・・・って事は全員学校が違うって事か。

 僕を含めた男が2人と女が2人だ。

 全員、知らない制服・・・かと思いきや、女の子で知ってる制服の子がいる。

 この子の制服、東京の有名私立高校の制服だ。

 その制服の高校は、スゲー頭が良いかと言われたらそんな事もない。

 普通科の偏差値はその名の通り超普通だ。

 その高校が有名な理由は学力じゃない。

 スポーツで有名な訳でもない。

 有名な理由は『芸能人クラスがあって多数の有名芸能人が在校しているから』だ。

 そこにいる女の子もデタラメに可愛い。

 そして綺麗だ。

 惜しいのは少し、胸がつつましやかな事だ。

 制服を着ていないと高校生とは思えないぐらい。

 でもスタイルが悪いかといったらそうでもない。

 彼女の股下はとてつもなく長い。


 隣にいる男が話し掛けて来る。

 「おいあの娘の制服、壕輿(ごうよ)学園だよな?」

 こんなだだっ広い空間にいる事より、そっちが気になるのかい。

 それとも僕以外は『ここにいる理由』を知ってるのか?

 「そうだね」僕は手短に返事する。

 そんな事よりも僕は知りたい事がある。

 「君は『どうしてここにいるのか』知ってるのかい?」

 「いや、全然わかんない。

 ここどこなんだろう?」

 自分の置かれた立場が全くわからないのに他校の女の子の事を気にしてたのかい!

 思春期の男としては正しすぎる!

 「さすが、壕輿学園。

 一般人と違って可愛いよな!

 しかし俺みたいなアイドルヲタクが知らない女の子なんて・・・。

 まだデビュー前なのかな?」

 壕輿学園にだって一般人はいるだろ。

 むしろ一般人を引き込むための宣伝要員として芸能人がいるんじゃないの?

 知らんけど。

 授業料高いって言うし、儲けるために芸能クラスがあるのかな?

 ・・・しかしコイツ、ブレないな。

 自分の心配をしろよ!

 下手したら僕達、誘拐されてきたんだよ!?

 『壕輿』の制服に興奮してる場合じゃないだろ?

 でもコイツの能天気さに僕が救われているのも確かだ。

 ここにいる人達は誰も乱暴な手段でここに連れられて来たんではないらしい。

 みんな制服は綺麗なままだし、怪我は一つもなさそうだ。


 もう一人の女の子を見る。

 少しパニックになっているようだ。

 この反応が正しい。

 この反応が普通だ。

 壕輿学園の制服を着ている()が容姿が整いすぎているだけで、この()も充分可愛い。

 ただ『陽キャ』の要素が全くない。

 スカートは長く、神経質そうに眼鏡を触っている・・・が、眼鏡を外そうとしている。

 「どういう事?

 眼鏡がなくても見える。

 全然ぼやけない」

 そんな事があるんだろうか?

 そういや、僕も視力検査では引っ掛かっている。

 全く見えない訳じゃないけど、検査で僕は『両目0.7』と言われた。

 「これ以上目が悪くなったら眼鏡なり、コンタクトレンズなりをしなきゃいけなくなるよ」と眼科医には気をつけるように念を押されている。

 なのにこのだだっ広い空間に来てから視力が良くなった気がする。

 だってこのだだっ広い部屋の隅々まで見えるもん。

 女の子はケースに眼鏡を入れる。

 「外すんだ」と僕は呟く。

 僕の呟きを聞いた女の子は答える。

 「見えてるのに度の強いレンズを付けてると頭が痛くなる・・・はずなのよ」

 「『はず』?」

 「全く頭が痛くならないのに度が強いレンズをつけてても目がショボショボしないのよ。

 おかしいわ。

 眼鏡かけてたら、度が合わない眼鏡かけてた時の辛さはわかると思うんだけど・・・。

 目が良くなった訳でもなさそうね。

 眼鏡の度が合わなくなった訳でもなさそうだし」

 『眼鏡あるある』なんて知るかいな、眼鏡かけた事ないもん。


 わからない事だらけだ。

 この空間に入ったら目が良くなった。

 目だけじゃない。

 僕がバドミントン部で痛めたサポーターを巻いている左膝の痛みが綺麗サッパリ消えている。


 「わからないモノを思い悩んでもどうしようもないわ。

 そう思わない?」

 壕輿学園の制服を着た女の子が言う。

 肝が座っている。

 これが芸能人か。

 周りの人達も彼女に従って頷く。

 声を聞いて思い出す。

 「『相原量子』」と僕は呟く。

 「あら、私を知っているの?

 光栄な事ね!

 青年漫画雑誌のグラビアにチョコチョコっと載った事がある程度なのに」と女の子は華のように笑う。

 「・・・あ、あぁ」僕は女の子に玉虫色の返事をする。

 『どうしてそんな態度なのかしら?』と女の子は首を傾げているようだ。

 彼女は『相原量子』だと言う。

 でも、そんな訳がないのだ。


 ・・・と、そんな事を思っている余裕はないんだった。

 『焦らなくて良い』と現状を正しく認識出来て、安全が確定した時、『本当は君は何者なのか?』と壕輿学園の制服の女の子に聞こう。


 「取り敢えずはこの空間の探索をしようか?」

 僕は提案する。

 「何か『罠』があるかも知れないわ。

 探索するのは一人の方が良いかも」と眼鏡をかけていた神経質そうな女の子が言う。

 この娘は『石橋を叩いて渡る』タイプか?

 そうは言っても誰が探索するんだよ?

 「『言い出しっぺの法則』って知ってるか?

 こういう場合、言い出したヤツが行動するんだぜ?」とアイドルヲタクの男が言う。

 「『言い出しっぺ』って?」

 「お前の事だよ」

 とアイドルヲタク。

 おいおい、早くも『お前』呼びかよ。


 「・・・わかったよ。

 その代わり、逃げるのは無しね?

 僕が『助けてくれ!』って言ったらみんなで助けてよ?」

 「何、お前、びびってるの?」アイドルヲタクが僕を煽る。

 「そうだよ!

 びびったら悪いの!?」

 「ううん、そのぐらい慎重な方が良いと思う」と元眼鏡っ娘。


 僕を除く三人は空間の中央に身を寄せた。

 空間は暗い。

 しかし暗さに目が段々慣れてきた。

 元から全く見えなかった訳じゃない。

 見えなかったら元眼鏡っ娘が『眼鏡がなくても視界が良い!』なんて言い出す訳がない。

 元眼鏡っ娘は普段から布団の中で本を読んでいたせいか、僕らより遥かに夜目が効く。

 それに元から真っ暗という訳じゃない。

 お互いの姿ぐらいは見えていた。

 『真っ暗』というよりは『薄暗い』といった感じか?

 

 僕は空間の壁を探る。

 何か凹凸がある。

 ボタン?

 僕はボタンを押す。

 よく考えたら『無茶苦茶迂闊』だ。

 僕らが拉致されてきて、ボタンが罠の可能性が

あったのに、僕は取り敢えずボタンを押してしまった。

 しょうがない。

 僕は平和ボケした日本から来た男子高校生なんだから。

 カチッ

 ボタンを押すと天井から眩しいばかりの光が僕らを照らす。

 何だよ、ボタンは電灯だったのか。

 待てよ?

 明るくなって天井が見えるようになる。

 天井に照明なんてないぞ?

 天井全体が発光してるのか?

 明るさはLEDと同等以上なのにLED独特のドぎつい眩しさはない。

 目への優しさは、さながら間接照明のようだ。

 部屋の造りは中世ヨーロッパのようだ。

 空間はほぼ正方形。

 僕が手探りで押したボタンがついた壁には豪勢な観音開きだろう扉がついている。

 扉を開けてないから、内開きか外開きかはわからないが。

 もしかしたらスライドドアかも知れない、それはないか。

 どこの家でも部屋の入り口に電気のスイッチがあるのと同じようなモノだろうか?

 ・・・という事はこの扉がこの空間の入り口っぽい。

 扉から真っ直ぐ道のように赤い絨毯(じゅうたん)が敷かれており絨毯は空間の中央から空間の一番奥まで敷かれている。

 まるで映画賞の赤絨毯だ。

 空間の一番奥の少し手前はまるでお雛様の段飾りのような上り階段になっている。

 お雛様の『お内裏様』と『お雛様』が鎮座している部分に椅子が置かれている。

 椅子は豪勢な椅子だ。

 本当にお内裏様とお雛様が座るのかな?

 椅子の後ろの壁全面には女性の描かれたレリーフが。

 レリーフの女性は半裸のセクシーな格好ではあるが、卑猥さは微塵も感じない。

 まるで『宗教画』といった感じで神々しさすら放っている。

 「うーん、わけがわからん」

 僕は2つ並んでいる左側の椅子に座りながら呟いた。

 

 「パロミデス皇帝、ご出座~!」

 どこからか声が聞こえて来ると共に豪勢な扉が開く。

 扉は内開きだった。

 そこには近衛隊に護られたサンタクロースみたいな爺さんが。

 爺さんはおそらく王様だ。

 なぜなら爺さんはトランプのキングみたいな格好だからだ。

 爺さんの隣にいるハゲ頭にチョビ髭とアゴ髭の男が僕を睨んでいる。

 如何にも宰相って感じのオッサンだな。

 「こんにちは、ルドマンさん」

 取り敢えず僕を睨んでいるオッサンに挨拶する。

 「誰が『ルドマンさん』だ!」

 「え、『ルドマンさん』じゃないの?

 『フローラのパパ』って感じじゃん」と僕。

 「そんな事より何で貴様は『王妃の座』に座っているのだ!?」

 ルドマン(仮)は僕を指差しながら、唾を飛ばして言う。

 「『王妃の座』?

 この椅子が?

 この椅子、アンタの椅子だったのか?」

 「この『王妃の座』が私の椅子?

 私が女に見えるのか?

 これは、ここにおわす『パロミデス皇帝』の奥方の椅子だぞ!」

 「このトランプの『13』の絵柄みたいな、サンタみたいなジジイが『パロディウス』?」

 「お前、『パロミデス』知らないのかよ?

 『アーサー王』の配下で『円卓の騎士』の一人だぞ?」とアイドルヲタクの男が言う。

 ヲタクは『アーサー王』伝説に何故か詳しい。

 ソースは『バドミントン部』の同級生。

 アイツの好きなアニメの『アーサー王』は何故か女だったけど。


 「いや、どう考えてもこのジジイは『アーサー王』の配下じゃないだろ?

 ただ名前が同じだけじゃないの?」と僕。

 「皇帝陛下に対して『ジジイ』とは不敬であるぞ!

 ・・・しかし『アーサー王』とは誰だ?」とルドマン(仮)。

 やっぱり、このジジイは『円卓の騎士』じゃないらしい。

 「よいぺリノアよ、控えよ」と皇帝(ジジイ)

 「・・・はっ!」とルドマン(仮)。

 どうもぺリノアっていうのがこのハゲの名前らしい。

 「良くぞ、召還に応じた!

 異世界の勇者達よ!」とジジイ。

 あん?

 ボケたんか?このジジイ。

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