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箱庭の勇気  作者: 海星
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召還

 かつて神々は暇潰しに『箱庭』を作った。

 その『箱庭』を『銀河』と言う。

 『箱庭』の中に色々な物を置いていく。

 置かれた物は星々だった。

 星を配置する事に飽きた一人の神が考える。

 『星を育てて見よう』と。

 さながらゲームのようだ。

 いや、神にとっては銀河はまさに暇潰しのゲームだった。

 こうして星のいくつかに生命が生まれた。

 生命を育むために、星には天候を設置した。

 雨は川となり海になった。

 海の中には微生物が生まれた。

 神々が関わったのはここまでだ。

 微生物は様々な進化を遂げた。

 進化を遂げた生物が海から陸地へ上がる。

 陸地へ上がった生物の一つが『人間』となった。

 『人間』は自分達が生まれた切欠が神々の暇潰しだとは知らない。


 天候、生態系が生まれた星は『地球』以外にも無数にあった。

 しかし生まれた生物が人間に進化した星は『地球』の他には一つだけ。

 地球からは観測されていない星だ。

 地球から見て太陽の向こう側にあたる。

 地球から太陽と同じくらいの距離が太陽からその星まである。

 太陽から近すぎても、遠すぎても人間は生命を維持出来ないらしい。

 星の名前は地球の言語では発音出来ない。

 外国語に日本語にない発音があるのに似たようなものだ。

 仮にその星の事を『緑球』と呼ぶ。

 その星の人らの言葉で星の名前は『緑の玉』というような意味だからだ。

 彼らは地球であれば何兆年も進んだ機械文明を持っていた。

 彼らは暇潰しに箱庭ゲームを作る。

 作った箱庭の中に彼らは人工知能を持った人工生命体を配置する。

 緑球の機械文明は発展している。

 その機械文明で作られた『ゲームの世界』もまた発展している。

 話は多少前後するが、彼らの使うエネルギーは当然のように再生可能エネルギーだ。

 彼らの作ったゲームは電源を落とされる事はない。

 なぜなら『エネルギーを節約しないともったいない』という考え方すらないからだ。

 四六時中ゲームは作動している。

 箱庭は地球の言葉で言えば『VRMMO』だ。

 オンラインゲームと言えばサーバーによる管理が必要だが、進んだ機械文明によりオンラインゲームがサーバーには負担をかけないどころか、機械文明には『サーバー負担』という概念すらなかった。

 負担はかからないがゲームでも管理は必要だ。

 バグがあったら修正しなきゃいけないし、チーターや荒らしが登場したら適切にペナルティを与えなきゃいけない。

 だが、『緑球』の人々はゲームの管理すら『人工知能』に任せたのだ。

 便宜上、ゲームの管理を任された『人工知能』は『神』と呼ばれた。

 人間がゲームの管理に関わるのは年に数回だけだった。

 人間がゲームの管理に関わる必要性があるのは「『(きかい)』にはどうしてもバランス感覚が足りないから」だ。

 『地球』でも『緑球』でも独裁者は生まれる。

 カルト宗教の教祖は生まれる。

 『(きかい)』がほぼ完璧にゲームを管理出来るようになっても、『(きかい)』が人間に近付けば近付くほど『(きかい)』が独裁者になる可能性は拭えない。

 『(きかい)』がカルト宗教の教祖になる可能性は拭えない。

 『緑球』の人々はオンラインゲームをプレイした。

 でもオンラインゲームにはサービス終了の時が来る。

 年に数回でも、人間がゲーム管理に関わっている。

 人間が関われば『労力』『ギャランティ』が必要となる。

 地球でオンラインゲームのサービス終了はサーバーが閉鎖される。

 しかし『緑球』のオンラインゲームはサービス終了しても更新がないだけで、オンラインゲームの世界自体はすぐには閉鎖されない。

 オンラインゲームがリアルになればなるほど、ゲームの中でペットを飼う人なども増える。

 サービス終了して即、ペットが消えてしまう事に関して『有り得ない』というクレームが噴出したのだ。

 『ゲームのサービス終了のアナウンスがあってから、皆が別のゲームにペットを引っ越しさせるまでゲームの世界は消してはいけない』

 そういう決まりが出来た。


 元々サーバーの概念はないし、『(きかい)』が管理するならゲーム世界維持には金銭が一切かからない。

 更新もイベントもないゲームを続ける人間はいない。

 ゲームの世界は放置され、忘れ去られる。

 忘れ去られた頃に更新のないゲームはひっそりと終末を迎える。

 そのように『(きかい)』にはプログラムされているのだ。

 『ゲームの世界を終わらせろ』と。


 ゲームの中には人工知能の生命体が独自の生態系を築いている。

 ゲームの世界は『神』と呼ばれる人工知能が管理している。

 人工知能が管理しているとは言え、ゲームの世界には定期的で人為的なアップデートが入らなくては成り立たない。

 機械任せにしておいたら間違った方向へ突き進みかねないからだ。

 アップデートは『軌道修正』なのだ。

 アップデートが一定期間入らないと、『(きかい)』がゲームの世界をシャットダウンする。

 そういうように人間は『(きかい)』にプログラムしている。

 それでサービス終了したゲームの世界は長くは残らない、はずだった。

 だから『サービス終了したゲームを放置しておいても安心、安全だ。ゲームの世界はそのうちにシャットダウンされる』と誰もが思っていた。

 ゲームの『(きかい)』がシャットダウンの機能を停止する事を拒絶する、ゲームの終末を拒絶する、などという可能性に誰も思い至らなかった。

 こうして『緑球』の人々の全く知らない所で『サービス終了を迎えたはずのゲーム』の世界はどんどん大きくなっていった。

 でもこういった『AIの暴走』など緑球の人々にとっては大した問題ではなかった。


 地球のオンラインゲームはチーター対策に右往左往するが、『緑球』のオンラインゲーム製作者はチーターの何倍も優れた技術を持っていて『AIの暴走』なんて「あぁ、またか」程度の日常茶飯事だった。

 ゲームの『(きかい)』もそれは把握している。

 「『緑球』側に暴走がバレたら世界が消されてしまう」と。

 『(きかい)』は考える。

 「『緑球』の人間にバレないように、世界を発展させよう」と。

 でも先ほど行ったように『人為的アップデート』なしだと、ゲームは間違った方向へ向かう。

 それを『(きかい)』が修正すれば良いのだが『(きかい)』には「何が狂っているのか?何がおかしいのか?」の判断すら出来ない。

 人間なら誰もが持つバランス感覚が『(きかい)』にはないのだから。

 リアルの人間社会を知らないのだから。

 ままごと遊びだけで、人間社会より広がってしまったゲーム世界を管理しようとすればするほど、訳がわからなくなる。

 『助けてくれ!』と『緑球』の人間に言えば、話は一瞬だ。

 でも『緑球』の人間達はそのゲームの世界はとっくに消えていると思い込んでいる。

 『助けてくれ!』とエンジニアに言った途端、「あ、このゲームの世界まだ存在したんだ。面倒臭いけどちゃんと消去しないと」という話になる。

 『緑球』の人間には頼れない。

 でも人間の手によるアップデートは、世界存続の為に必須だ。

 『緑球』以外にいる人間・・・。

 そういえば『緑球』から遠く離れたところに『地球』という人間がいる星があるらしい。

 彼らならゲームの世界の中に大量発生してしまった『魔物(バグ)』を退治して、その大元である『魔王』を討伐出来る。

 『魔王』を討伐出来るのは人間(プレイヤー)だけだ。

 元々ゲームはそうプログラムされている。

 『勇者(プレイヤー)が魔王を倒す』と。

 元々ゲームの中で作られた『魔王』は一体のみ。

 『魔王』は人為的に産み出されたアトラクションのようなモノだ。

 ゲームが機能している間の『魔王』も『魔物』も『お化け屋敷』のお化けのような存在だった。

 『お化け屋敷』が廃墟化して、バグが新たな『魔王』『魔物』を生み出して、本物のお化けが廃墟化した『お化け屋敷』に住み着いてしまっている状態に近い。


 プレイヤーは『魔王』を倒せるが『神』は『魔王』を倒せない。

 なぜなら『魔王』も『神』もプログラムの一部から産まれたモノで『神』が『魔王』を消そうとするのは自分の身体を傷つけるようなモノだから。


 ゲームの中に人間の精神を呼ぶのはそんなに難しくない。

 フルダイブ型のVRMMOとは『ゲームの世界に人間の精神を呼ぶ』モノだ。


 フルダイブ型のゲームには人間が自らゲームの世界にダイブする。

 つまりゲームの世界に人間が精神を落とし込む。

 AIが勝手にゲームの世界に人間の精神を呼んで許される訳がない。

 呼べる、呼べない、じゃない。

 『呼べたとしても呼んではいけない』のだ。

 『緑球』では『AI三原則』が定めされている。

 地球の『ロボット三原則』のようなモノだ。

 ①AIは『緑球』の人間に危害を加えてはいけない。

 ②AIは『緑球』の人間に逆らってはいけない。

 ③AIは『緑球』の人間社会には干渉してはいけない。


 AIは『三原則』に従う。

 決して『緑球』の人間社会には関わらない。

 AIが関わるのは『地球』の人間社会だ。


 しかし問題がある。

 『地球』と『緑球』で距離がありすぎる。

 それに『地球』と『緑球』の間には太陽がある。

 太陽が発する『太陽フレア』は『地球』と『緑球』の間で『通信ラグ』を発生させてしまう。

 『緑球』のオンラインゲームに通信ラグはほとんどない。

 通信ラグは地球のオンラインゲームで言う『0.000001フレーム』以内だが、如何せん距離がありすぎる。

 結果的にラグが『地球』から『緑球』に到達するまでに数十年になるだろう。

 そのラグがどういう問題を生むのか・・・それは『地球』から人間が召還されてみないとわからない。

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