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転生者は斧を極めます  作者: アーマナイト


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4-14 レッサーバハムート

 勝てないほど強いとは思わない。


 それこそ、ゾウ並みに大きい赤いカエルのような跳躍火竜より少し強い程度なのは事実だろう。


 レッサーバハムートの強さの認識に間違いはない。


 けど、私たちは苦戦している。


 レッサーバハムートは2、30メートルの高所を高速で飛びながら、爆撃機のように火属性の弾丸を大量にばら撒く。


 攻撃はシンプルで、それだけ。


 でも、やりづらい。


 火属性の弾丸を避けなら、エルフたちが属性トレントの弓で反撃はしているし、それに矢はいくつか命中はしていたけど、致命傷には程遠い。


 状況は少しずつ悪化している。


 ばら撒かれる火属性の弾丸によって、周囲の空気が熱せられて、現状でもサウナのようで蒸し焼きになりそうだ。


 それに、火属性の弾丸に覆われて視界が悪い。


 ベルトに差しているベルセルク鋼の手斧を投げる?


 この状況だと命中も怪しいし、仮に命中したとしてもレッサーバハムートに致命傷を負わせることにはならないだろう。


 直接、フレイヤ鋼の大鉈をレッサーバハムートに叩き込めれば、活路はある。


 まあ、問題はどうやって、2、30メートル上空を高速で泳ぐ忌々しい赤い巨大なサケに大鉈を叩き込むかだ。


 三角飛びの要領で、周囲の壁を蹴ればあの高さに届きはするだろう。


 しかし、レッサーバハムートは静止していない。


 余程上手くタイミングを合わせないと、命中は期待できないだろう。


 雨のように降る火属性の弾丸をフレイムバロメッツの赤い毛皮のマントで防ぎながら、周囲の壁を観察する。


 ダンジョン中層の壁は自然の洞窟のようで、垂直じゃない。


 とはいえ、多少の角度はあったりするけど垂直と同レベルの壁で、クライミングするならともかく、走れるような角度や、とっかかりじゃない……前世なら。


 今の私の身体能力と経験なら、この壁をある程度走れる…………ような気がする。


 ……確信はない。


 大きく息を吐いてから、レッサーバハムートの火属性の弾丸の雨のわずかな隙間をついて走り出す。


 ばら撒かれる火属性の弾丸は私に集中するけど、壁を走る私を捉えることはできない。


 けど、火属性の弾丸が私を捉えるのは時間の問題だろう。


 あと、数秒の猶予。


 短い?


 十分だ。


 それ以上に、壁走りがあと数秒しかもたない。


 体の重心の位置と軸の角度を常に意識して修正しながら、わずかな壁面の凹凸を足場にして、壁走りを維持する。


 走りを静止できない。


 壁から離れないように、一定以上の速度が必要。


 でも、強く踏み込めば壁から体が離れてしまう。


 それでも、調整と修正を繰り返しながら壁走りを維持して、横目でレッサーバハムートの位置を確認。


 歩幅と位置を微調整。


 斧スキルを全力で起動。


 強撃により、モーションそのものを強化。


 高速で空中を泳ぐレッサーバハムートの赤くて硬い鱗を、フレイヤ鋼の大鉈が切り裂く。


「シャキャアアアァ」


 胴を大きく切られたレッサーバハムートが奇怪な叫び声をあげながら、高度と速度を落とす。


 致命傷じゃないけど、かなりの出血をしているから軽傷でもない。


 レッサーバハムートのばら撒く火属性の弾丸の数が減ると、エルフたちの無数の矢が襲う。


「シャルアアアァ」


 レッサーバハムートが、エルフたちの矢に追い立てられるように高度を上げる。


 速度は戻っていない。


 レッサーバハムートを強撃で切った私は、そのまま天井に着地して、再び攻撃するタイミングを極限まで集中して見定める。


 天井を蹴り、突進するようにフレイヤ鋼の大鉈を振るいレッサーバハムートの首元にめり込む。


「シャクラララァ」


 叫び、暴れるレッサーバハムートに、私は吹き飛ばされて宙を舞う。


 ……非常にマズい。


 レッサーバハムートが忌々しい火属性の弾丸を放たなくなった。


 それだけ、大ダメージを負ったのだろう。


 それは良いことだ。


 けど、まだ、レッサーバハムートは生きている。


 そして、レッサーバハムートの目は空中にいる私をロックオンしていた。


 回避……空中にいるから蹴りだすための足場がないから不可能。


 反撃……フレイヤ鋼の大鉈やベルセルク鋼の手斧を投擲する?


 実行は可能。


 でも、有効性は低い。


 レッサーバハムートにダメージは与えられるが、レッサーバハムートの死に物狂いの反撃を断念させるほどじゃないだろう。


 どうする?


 死ぬ?


 クソが!


 こんな死は納得できない!


 けど、勝機が皆無。


 自発的に、どうにかできる余地がない。


 こんなところで、ヴァルキリーよりも弱い、レッサーバハムートに空中で無様に食われて死ぬ。


 嫌だ!


 奥歯が砕けそうなほど噛みしめる。


「ファイス!」


 声の主は属性トレントの弓を構えたハルルフェント。


 でも、ハルルフェントの一撃でレッサーバハムートを殺しきるのは不可能。


 諦観のささやきに負けそうになる心を鼓舞して、ハルルフェントをよく見れば違和感がある。


 ハルルフェントの構えた矢の先端がレッサーバハムートに向けられていない。


 なら、矢の先はどこに?


 なにを狙っている?


 ……矢の先端は私に向かっている。


 生きたまま食われて死ぬのは哀れだから、介錯のつもりで私を射殺す?


 違う気がする。


 とっさに、フレイヤ鋼の大鉈を横に構えて刃じゃなくて刀身で、ハルルフェントの放った矢を受けた。


 すると、魔力による風の爆発が起こり、私は吹き飛びレッサーバハムートにかみ砕かれないですんだ。


 おそらく、風の精霊の力をエンチャントした矢をハルルフェントが放った。


 単純にハルルフェントが矢を放っただけだと、私をレッサーバハムートの軌道から移動させるのは不可能だったのだろう。


 見事な機転だ。


 私が吹き飛ばされたことで、レッサーバハムートは誰もいない空間をかみ砕く。


 レッサーバハムートが速度と高度を徐々に上げ、体内の魔力が高まっている。


 再び、火属性の魔弾をばら撒くつもりだろう。


 どうしようかと、着地までの刹那で思考していると、


「村長!」


 プアエンがドワーフ鋼の大斧を刃を立てないように横にして構えている。


 …………?


 ……!


 自分が自然と笑みを浮かべているのがわかる。


 黒猫ブーツの足裏がしっかりと、プアエンの構えたドワーフ鋼の大斧のヘッド部分をとらえた。


 プアエンの踏み込みとドワーフ鋼の大斧を振るうタイミングに合わせて、私もドワーフ鋼の大斧を蹴ってレッサーバハムートに向かって突進する。


 レッサーバハムートの腹を縦に切り裂くように、フレイヤ鋼の大鉈を振るう。


 勝ったと思った。


 そして、それは間違いじゃない。


 レッサーバハムートの内部で高まっていた魔力は散り、レッサーバハムートが力なく落下する。


 レッサーバハムートの腹を切り裂いたのだ、私の真上で。


 全身から嫌な汗が噴き出て、心臓が冷たいなにかでつかまれた感覚になる。


 レッサーバハムートの重量はどれくらいだろうか?


 落下するレッサーバハムートの死体と地面に挟まれて、潰されたとして私は生存可能?


 理性的な分析をして、自分は落ち着いていると自分に言い聞かせる。


 前世なら高確率で死ぬ。


 けど、今の私なら?


 装備と肉体の強度を考えれば、死なない可能性は十分にあるだろう。


 一瞬、ハルルフェントに期待の眼差しを向けるけど、さっきみたいな矢に風の精霊の力をエンチャントするのは無理なようだ。


 大丈夫。


 圧死はしない。


 せいぜい、内臓いくつかと、無数の骨を折って、全身打撲になるくらいだ。


 …………できれば体験したくはない。


 でも、回避する手段がないのだ。


 激痛とダメージを覚悟した。


 けど、そうはならない。


 レッサーバハムートの死体が落下の途中で、光の粒子となって消えたからだ。


 ここがダンジョンで助かった。


 そして、二度と間違えない。


 倒した魔物の死体の重量で殺される可能性。


 なのに、レッサーバハムートに刺さっていた無数の矢が、空中に取り残されて私に降りそそぐ。


 矢が落下した距離は数十センチで、それほどの速度は出ていない。


 だから、皮膚に当たっても、かすり傷程度。


 ダメージとして考えれば無視できるレベルだ。


 でも、実際に矢が降りそそいで当たると痛い。


 それも、地味に痛いのだ。


 なのに、ダメージはほぼない。


 だから、ヒールポーションを飲むほどじゃない。


 なんとも、微妙な気持ちになる。


 それはともかく、私の目の前にはタルがある。


 大人が入りそうなほどの大きさのタルだ。


 これがレッサーバハムートのドロップアイテム。


 慎重にタルを開けて中身を確認する。


 入っていたのは、まるで赤い真珠のような無数の粒。


 ……魚卵だ。


 もっというなら、イクラにしか見えない。


 ……いや、正確にいうなら、レッサーバハムートは竜族だから、目の前のこれは魚卵じゃなくて、竜卵だろうか?


 けど、これを温めても、レッサーバハムートが孵化するとは思えない。


 金額的に考えればハズレのドロップアイテムだけど、食材としてこの竜卵は美味しいらしいので、私に不満はない。


 そして、なにより、視線をある方に向ければ、ツルハシを持った村人たちが一心不乱に採掘している。


 すぐ近くで、私たちがレッサーバハムートと戦っていたというのに。


 採掘に物凄い集中しているのか、それとも私たちが彼らを守ると信じてたのだろうか?


 まあ、とにかく、彼らを守れたから、良しとしよう。


 竜卵の入ったタルを収納袋に入れて、採掘している一人に声をかけたら、殺意のこもった目つきで睨まれた。


 うん、この人たち、採掘バカだ。


 採掘が好きなのだろう。


 ある意味で、斧を極めるのが好きな私に少し似ているかもしれない。


 でも、村長が声をかけたんだから、面倒でも舌打ちして睨むのは酷いと思う。


 楽しい採掘を邪魔されたくないのかもしれないけど、無限にダンジョンに滞在できるわけじゃないのだから、状況の報告は必要なのだ。


 けど、私は怒ったりしない。


 少し寂しくて、怖いと思ったけど。


 そもそも、採掘している村人たちは、最近移住してきた人たちだから、信頼などの関係値が構築できていないだけだ……多分。


 決して、私が彼らから嫌われているというわけじゃない……はずだ。


 その証拠に、私を睨んだ村人も、すぐに村長の私だと気づいて謝罪してくれた。


 ただ、村人の視線は常に、ダンジョンの採掘できるポイントに向けられている。


 一応、村長と話しているんだから、私の方を向いて欲しい。


 私が年下で、貫禄がないのがいけないのだろうか?


 それでも、一応、彼は状況を説明してくれた。


 一言でいうなら、凄いだそうだ。


 ……まったく、説明になっていない。


 さらに村人に説明を求めたら、小さく舌打ちされた。


 ……怖い。


 すぐに、村人が謝罪してくれたけど、そんなに嫌なのだろか、私への説明は。


 報告、連絡、相談は重要だと思うんだけど。


 なんとか、採掘している村人に説明してもらったら、この採掘ポイントから貴重な鉱石が手に入るようだ。


 私が欲している竜心鉄の鉱石以外にも、銀や聖銀に、金も採掘できるらしい。


 意味がわからない。


 同じところを掘っているのに、なんで違う鉱石が採掘できるんだ?


 複数の鉱脈が重なっている?


 ……いや、あるいはダンジョンに鉱脈なんてものはない?


 採掘系のスキルを習得している者がツルハシで採掘したら、ダンジョン側がランダムで出現させている?


 ツルハシで採掘という行為も、実際の採掘というよりは、ある種の鉱物を召喚のような儀式に近いのかもしれないけど……わからん。


 実害もないし、この疑問は、そのうち研究者に丸投げしよう。


 採掘した村人によれば、このまま半日くらい採掘を続ければ、私の竜血鋼の大斧を作るのに必要な竜心鉄の鉱石を用意できるらしい。


 効率が悪いと思ってしまうが、普通の採掘現場考えれば破格の採掘量なのだそうだ。


 だから、半日の採掘するのを許可した。


 まあ、私たちが、採掘用員をどれくらいの時間を護衛し続けられるのか、把握するためにも必要だ。


 決して、私が竜血鋼の大斧が早く欲しいから、半日の採掘を許可したわけじゃない……たぶん。

次回の投稿は3月27日金曜日1時を予定しています。

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