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転生者は斧を極めます  作者: アーマナイト


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4-10 フレイヤ鋼

 大きな緑色のシカのような魔物トレントイーターを解体して収納袋に入れたら、私たちは迅速に動く。


 トレントイーターを倒したら終わり?


 違う。


 トレントイーターは普通の魔物じゃない。


 トレントを倒して、トレントが出現する霊穴から魔力を奪う特殊な魔物だ。


 トレントイーターに霊穴の魔力が奪われていると、その霊穴からは新しいトレントやバロメッツは出現しない。


 だから、トレントの出現地点を減らされないために、魔境に出現したトレントイーターを倒す必要があった。


 そして、トレントイーターは倒したけど、これでトレントイーターが魔力を奪っていた霊穴が解放されて、トレントやバロメッツが出現するようになったか、確認しないといけない。


 トレントイーターにトレントを倒されたばかりの目の前の霊穴から確認する。


 霊脈士のヨウレプとハルルフェントによれば、目の前の霊穴は正常になっているらしい。


 けど、ここの霊穴はトレントイーターに奪われたばかりだったから、正常に戻っただけかもしれない。


 なので、他のトレントイーターがトレントを倒した霊穴を確認する必要がある。


 半日かけてユグドラシルの魔境にある複数の霊穴を確認したら、霊穴が正常に戻るのに三か月くらいかかるようだ。


 致命的じゃないけど、トレントの安定した伐採に影響があるから、修行と村の収入を考えるとトレントイーターの討伐優先度が上がる。


 とはいえ、なかなか難しい話だ。


 このユグドラシルの魔境に出現したトレントイーターは、推定で5体以上10体未満。


 霊穴を奪ったトレントイーターを成長させないためにも、早めに対処しないといけない。


 強いとは言っても、たかが一桁の数の魔物と思えるけど、ちょっとした国並みに広大なユグドラシルの魔境で、特定の魔物を探すのは難しい。


 それでも、トレントイーターは魔物のなかだと探しやすい方だ。


 なにしろ、行動パターンが基本的にトレントを倒して食べるだけだから、特定しているトレントの位置を巡回していればトレントイーターと出会える確率は高いだろう。


 それでも、現状だとトレントイーターを倒せる人員が私だけだから、効率が悪い。


 プアエンに一人相打ちを使えばトレントイーターを倒せるかと聞いたら、半泣きで無理だと言われた。


 というか、トレントイーターを倒してから、ハルルフェント以外のプアエンやヨウレプたちに、怯えたような眼差しを向けられているような気がする。


 私としては、フレイ鋼の鉈の性能を実感して、トレントイーターの突進はさばけると思ってやったけど、プアエンたちの目には意味不明な行動で、しかも成功させているから理解不能なようだ。


 少し理不尽な評価な気もするけど、冷静に考えると高速で突っ込んでくる軽トラをさばける人間がいたら不気味かもしれない。


 プアエンたちは、そんな感じなのだろう。


 ……と、無理矢理、自分を納得させた。


 疎外感にも似た寂しさをまとった風が、心のなかをかけたと思ったけど、気のせいだろう。


 そして、魔境に出現したトレントイーターは、特殊な行動をする魔物だけど、結局のところ魔物だ。


 現状確認しているトレントイーターをすべて倒しても時間が経過すれば、新しいトレントイーターが出現するだろう。


 つまり、定期的なトレントイーターの間引きが必要ということだ。


 村長の立場だと、なかなか頭の痛い問題で、効果的な解決策がない。


 そうやって様々な問題に頭を悩ませながら、村に帰還してトレントイーターの角をウィトルイに渡し、私はトレントイーターの肉を料理系のスキルを習得している獣人に渡して調理を頼む。


 味見ということで、私、ハルルフェント、プアエン、ヨウレプの4人でトレントイーターの肉を焼き肉にして食べてみた。


 味としては美味しいけど、前世で食べたシカ肉とは違う感じだ。


 独特な味だけど、クセの少ない上質なマグロの赤身に似ている。


 でも、味がマグロの赤身に似ているならと、トレントイーターの肉を刺身にして食べてみたら、かなり微妙だった。


 味がどうこうじゃなくて、肉なのに野草のように青臭いのだ。


 とてもじゃないけど、トレントイーターの肉は生で食べる物じゃない。


 ある程度、加熱すれば簡単に青臭さは消えるから、刺身にこだわらなければ美味しい肉だ。


 そしてなにより、伐採スキルが発動するから、そうだと思っていたけどトレントイーターは植物系の魔物のようで、ハルルフェントのような通常の肉は食べられないエルフでも、バロメッツと同じようにトレントイーターの肉は食べられた。


 ただ、味的に、ハルルフェントはトレントイーターよりもバロメッツの肉が好みらしい。


 これはエルフたち個人の好みのようで、バロメッツよりもトレントイーターの肉を好むエルフたちもいた。


 つまり、エルフにとってはバロメッツ以外でトレントイーターは貴重な食べられる肉だから、貴重なエルフの国との交易品になるかもしれないのだ。


 そして、エルフたちは食べられないけど、ダンジョンで入手したシックルドラゴンの肉も試してみた。


 地鶏のような味と聞いていたから、実は結構期待していたりする。


 けど、過剰に期待をしすぎたようだ。


 一応、言うとシックルドラゴンの肉はマズくはない。


 むしろ、美味しいほうだ。


 前世の鶏肉ならかなり高価な鶏肉というレベルの味だろう。


 そう、鶏肉と考えれば美味しい。


 でも、シックルドラゴンという強い魔物の肉ということで、期待値を上げてしまった。


 結果として、がっかりしている。


 もう少し言うなら、味や食感に意外性がないのだ。


 独特の味や風味もなく、食感も美味しい普通の鶏肉。


 そこに、未知の驚きや感動はない。


 まあ、美味しいは美味しいから、村の獣人たちは嬉しそうに笑顔で食べていたからいいだろう。


 それよりも、トレントイーターの骨だ。


 物凄い出汁が出た。


 昆布や香味野菜や干した茸と一緒に煮込んだ豚骨のような出汁。


 それも、クセや臭味が一切ないのに、濃厚で複雑な出汁だ。


 これだけでもスープとして美味しい。


 豚骨のような味に出会ったのだから、豚骨ラーメンでも再現してみようかと思ったけど、難しかった。


 ラーメンの麺が再現できなくて、仕方ないので元々この世界に存在する少し細いうどんのような麺で代用。


 その後、試行錯誤を料理してくれる獣人としたけど、豚骨風のうどんになってしまった。


 まあ、それでも、美味しいし、村人たちには好評だから結果オーライだ。


 それに、この出汁はトレントイーター由来だから、エルフたちも食べられる。


 ただ、うどんモドキとトレントイーターの骨が、もっと欲しいとハルルフェントたちに迫られるようになるのは予想外だった。


 そうやって、一週間ぐらい日々の業務と、トレントイーターとシックルドラゴンの肉の料理を楽しんでいると、色々な報告が届く。


 報告の一つは、ダンジョンに関してだ。


 トレントイーターが出現したダンジョンを調査した冒険者たちによると、トレントイーターが出現したこと以外の変化はなし。


 出現するトレントイーターに関しても、完全にランダムで浅い階層でも深い階層でも出現するようだ。


 これはなかなか面倒な話といえる。


 ダンジョンには最低でもトレントイーターを倒せる実力がないと危険という意味だ。


 ただ、ダンジョンにそれ以外の変化はないらしい。


 とはいえ、突然、トレントイーターが出現するようになった原因がわからないから、正確なことは不明だ。


 当分、あのダンジョンの中層で竜心鉄を採掘するのは難しい。


 トレントイーター抜きなら可能性はあったけど、トレントイーターが出現するなら厳しいだろう。


 それでも、中層に行くだけならできなくないけど、採掘をしようとすると厳しい。


 装備と人員の強化がより急務となる。


 プアエンによれば子供たちは修行に前向きになったようだけど、彼らがトレントやトレントイーターと戦えるようになるのは数年後だ。


 期待している成人の獣人たちも、頑張ってはいる。


 だけど、まだ、なんとかベルセルクと一対一で戦えるかどうかというレベル。


 トレントやトレントイーターと戦わせるのはまだ早い。


 プアエンなら、トレントイーターは無理でもトレントなら単独で伐採できそうだ。


 プアエンと獣人たちを組ませて、プアエンにトレントを伐採させて獣人たちはハイオーガを倒すという風に専念させて連戦すれば、もう少し成長のペースは上がるかもしれない。


 そして、ハルルフェントに関して装備が問題だ。


 トレントイーターやバロメッツ相手だと、私の作った弓の威力が足りない。


 ……ハルルフェントの弓を強化するか?


 プアエンと協力すればストームトレントとアーストレントを倒せるかもしれない。


 優先的に、属性トレントを伐採して、獣人たちの装備も強化するか?


 私が単独でアーストレントを伐採するのは大変だけど、プアエンと二人なら相打ちが使えるから、なんとかなるかもしれない。


 ついでに、獣人たちにはベルセルクと交戦させるのもありだ。


 勝てなくても、死ななければ、交戦の経験は糧になる。


 そんなことを考えていると、私の執務室にボサボサの髪をしたウィトルイがニヤリと笑いながら入ってきた。


 ウィトルイが差し出したのはダンジョンでトレントイーターに壊されたベルセルク鋼の大鉈と似たようなサイズの青緑色の大鉈だ。


 持って軽く振ってみるけど、ベルセルク鋼の大鉈と比べて、新しい大鉈は大きな差を感じない。


「なかなかいいのができたから、またお願い」


 ウィトルイが笑顔で両手をこちらに差し出す。


 つまり、トレントイーターの角がもっと欲しいということだろう。


 現状、トレントイーターの角は簡単に入手できる素材でもないんだけど、気軽に頼まないで欲しい。


 とはいえ、トレントイーターの角を取り扱える錬金術師で、私に縁があるのはウィトルイくらいだ。


 人格的に色々と問題があるけど、ウィトルイの技術は一流。


 そのウィトルイが、この村にいてくれるのは幸運であることに間違いはない。


 まあ、ウィトルイの生活態度がアレすぎて、他に行く当てが限られているだけかもしれないけど。


 私は、ウィトルイが村にとって不利益なことをしなければ、口うるさく言わないから、ウィトルイにとって楽なのかもしれない。


 それはともかく、私は新しい青緑色の大鉈を手に首を傾げる。


「これは、ベルセルク鋼の大鉈に比べて強くなっているのか?」


 はっきり言って、ベルセルク鋼の大鉈に比べて、新しい大鉈の色以外の違いがわからない。


 そもそも、握っただけで、武器の性能が詳細に分かるわけでもないけど、扱い慣れた道具だから多少の良し悪しはわかる。


 でも、この新しい大鉈からはなにも特別な印象を感じない。


「そこまで、武器の基本性能は極端に上がってないよ」


 笑顔で淡々と告げるウィトルイの言葉に、私は少し不満に思いながら応じた。


「うーん、それだと、費用対効果が悪くないですか?」


「どうかな。全体的に強い武器にはなってるよ」


「でも、トレントイーターの角を使っているのに」


 トレントイーターの角を使っているのに、微強化だとがっかりだと思ってしまう。


 期待値がフレイ鋼の鉈で上がりすぎたかもしれない。


 ベルセルク鋼の武器の性能がトレントイーターの角で強化できるなら、悪いことじゃないのに傲慢かもしれないと、そっと自戒する。


「それ、防御力低下能力があるよ、フレイ鋼の鉈並みの」


 ウィトルイが告げた言葉に、私は「先に言え」と怒鳴りそうになるのを抑えながら笑顔で応じた。


「それなら、この大鉈はトレントイーターの一撃で壊れないかな?」


 新しい大鉈に有用な能力があるなら、ウィトルイには先に言ってほしかった。


 それに対して、ウィトルイは悪戯が成功したとでもいうように腹の立つ笑顔を浮かべて応じる。


「多分ね」


 残念ながら、この新しい大鉈には、フレイ鋼の鉈とは違って魔力霧散の能力がついていないようだ。


 バロメッツやトレントやトレントイーターに対して、この大鉈は使わないだろうけど、ベルセルクやウールヴヘジンが相手なら有用だろう。


「そういえば、この合金の名称は?」


 私は新しい青緑色の大鉈を軽く振るいながら、私のベッドで横になるウィトルイに聞いた。


「うーん、ファイスがいい感じに決めて」


 眠そうな声でウィトルイが適当にいうので、私はあきれ気味に応じた。


「この合金の製作者として、それでいいんですか?」


 新しい合金の発見となれば、名声とか権威とかが得られるのに、ウィトルイは興味がないようで、


「名声はいらない。金と素材と自由が欲しい」


 と言い切ってしまう。


「……フレイ鋼に似た合金。……フレイヤ鋼で、どうです?」


 北欧神話フレイの妹の女神フレイヤから命名してみた。


 かなり適当だ。


「じゃあ、それで」


 言い終わるとウィトルイは寝てしまった。


「軽いですね」


 私は苦笑しながら、フレイヤ鋼と名付けた金属製の青緑色の大鉈をゆっくりと振るう。

次回の投稿は1月30日金曜日1時を予定しています。

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