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転生者は斧を極めます  作者: アーマナイト


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4-9 トレントイーターとの戦い方

 現実離れした光景。


 恐怖、畏怖、わき上がるのはそれらに似た別の感情。


 あるいは怒りかもしれない。


 ……怒り?


 少し不思議だ。


 この光景に私が怒る要素はないはずなのに。


 魔物が魔物を食っているだけ。


 ある種の食物連鎖。


 同情する要因は皆無だ。


 なのに、私のなかには寂しさに似た怒りがある。


 私の見ている光景。


 それは、トレントイーターという巨大な緑のシカが、トレントを倒して食べている状況。


 トレントは巨木というわけじゃない。


 トレントの元になった木の種類にもよるけど、電信柱程度の太さや大きさの個体が多いだろう。


 けど、トレントはとにかく頑丈だ。


 それがトレントの特徴でもある。


 プアエンと二人で相打ちをすれば数時間でトレントを伐採できるけど、トレントは同クラスの魔物のなかでも上位の頑丈さの魔物だ。


 なのに、トレントイーターは首を曲げて角をトレントに当てると、割りばしを折るように簡単に一瞬でへし折った。


 まるで、トレントがなんでもない魔物であるかのように。


 ……なるほど、私にとって目標であり、修練の相手だったトレントを、トレントイーターが雑に扱っているようでムカついたのかもしれない。


 トレントイーターにとっては、不当な私からの八つ当たりだろう。


 だけど、このトレントイーターは私が倒す。


 静かにだけど、しっかりとそう決意した。


 不思議なことに、トレントイーターは私を視界に入れて認識しているはずなのに、襲ってこない。


 それどころか、私や同行しているハルルフェント、プアエン、ヨウレプを無視してトレントを一心不乱にバリバリと食べ続ける。


 トレントを食べるトレントイーターを見て確信した。


 魔境に出現したトレントイーターは放置できない。


 なぜか?


 トレントイーターの内部に魔力がたまっているからだ。


 このままだと本当にトレントイーターは別の魔物に変化するかもしれない。


 このまま放置したら、どうなるか確認したいという好奇心もあるけど、対処不可能な魔物になる可能性も考えないといけないから、トレントイーターはここで倒す。


 他の仲間に、私一人でこのトレントイーターと戦わせてくれと願い、説得するのに数分かかったけど、最後には納得してくれた。


 もしかしたら、なにを言っても無駄だと諦められたのかもしれない。


 私の使用する武器は黒い大斧迷宮のラブリュスじゃなくて、深緑色のフレイ鋼の鉈だ。


 フレイ鋼の鉈を左右に双剣のスタイルで構える。


 錬金鋼の鉈よりも、ずっしりとフレイ鋼の鉈は重い。


 威力が上がったという安心感と、重くて動きが遅くなるという不安が心のなかに同居している。


 でも、大丈夫。


 フレイ鋼の鉈の扱いは十分に練習している。


 錬金鋼の鉈とフレイ鋼の鉈の重さの差で、感覚が狂うことはない。


 ……そう、自分に言い聞かせる。


 それに、フレイ鋼の鉈が重いといっても、デカい迷宮のラブリュスに比べればはるかに軽いのだ。


 なにより、今回の戦場は魔境の森で、範囲が限定されたダンジョンじゃない。


 思いつく、利点を上げて、自分を鼓舞する。


 一歩、一歩とトレントイーターとの距離が縮まると、弱気が心のなかでかすかに顔を見せ始めた。


 素直に、仲間全員で戦うべきなんじゃないだろうか?


 そもそも、一人でトレントイーターを倒す必然性なんてあるのだろうか?


 ……そんな雑念を一度の深呼吸で追い出せて、集中できたと思い込む。


 5メートルまで近づいて、ようやくトレントイーターはトレントを食べるのを中断してこちらを見る。


 ……トレントイーターが、なんかデカい?


 目の錯覚かと思ったけど、どう見てもダンジョンで戦ったトレントイーターよりも、目の前の個体は1回りデカい。


 複数のトレントを食べ続けた結果だろうか?


 あるいは個体差の範疇?


 わからないけど、やるだけだ。


 魔力を的確に体内を循環させ、トレントイーターへの恐怖を心の中心に据えて、ささいな油断も消し去る。


 トレントイーターが突進しようとするけど、先に私が動き一瞬で間合いを詰めて、トレントイーターの胴にフレイ鋼の鉈を振るう。


 トレントイーターは痛がり、私から距離を取る。


 トレントイーターのダメージは小さい。


 致命傷には程遠い。


 10回ダメージを重ねても、かすり傷だろう。


 でも、トレントイーターに私の攻撃でダメージが通った。


 トレントイーターにわずかに出血させただけなのに、心が高揚感に包まれて不思議な気持ちだ。


 トレントイーターの雰囲気が変化した。


 なんとなく、トレントイーターが私を敵として認識したような気がする。


 ヘラジカというよりも少し小さいゾウのような大きさのトレントイーター、角をこちらに向けて突進してきた。


 私はあえて、トレントイーターの突進を受け流すように、トレントイーターの角をフレイ鋼の鉈でさばく。


 フレイ鋼の鉈が壊れる悪夢を一瞬だけ想像したけど、フレイ鋼の鉈とトレントイーターの角が触れて、私は笑みを浮かべてしまった。


 油断も、慢心も、危険なのに。


 目の前のトレントイーターに勝てると確信してしまった。


 さっき、トレントイーターの胴を切ったときは自覚できなかったけど、角と切り結んだときに理解できてしまった。


 私の手が握るウィトルイが作ったフレイ鋼の鉈は、トレントイーターに壊されることはない。


 むしろ、一人相打ちを上手に決めれば、トレントイーターの角も切断できるだろう。


 そこまで期待していなかったけど、このフレイ鋼の鉈の防御力低下の能力は有用だ。


 おそらく、トレントイーターの角が持つ類似の能力を、ウィトルイは作ったフレイ鋼の鉈はこえているのだろう。


 トレントイーターの突進を受け止めきれないで吹き飛ばされたのに、油断じゃなくて、心に余裕が生まれる。


 拙速に、トレントイーターを倒そうとする気持ちを抑制。


 無理をして、一人相打ちでトレントイーターにダメージを与える必要はない。


 冷静に、着実にやれば戦える。


 だから、少しだけ試したくなった。


 油断?


 慢心?


 そうかもしれない。


 でも、無謀じゃない。


 できるという手ごたえがある。


 私とフレイ鋼の鉈なら。


 10メートル先にいるトレントイーターを、フレイ鋼の鉈を持ったままだらりと構えで見すえる。


 脱力しているのは、トレントイーターを見下してるわけじゃない。


 むしろ、逆だ。


 最大限警戒しているから、脱力する。


 初動に対してて鋭敏に反応させるために。


 呼吸を一度する。


 深く、深く、深く、集中するために。


 トレントイーターを極限まで視認しながら、視野は狭めない。


 斧スキルと伐採スキルを起動。


 スキルに提案された動きを、土台に動きを修正して、修正して、修正する。


 心身とスキルを徹底的に酷使して、一つの解へと導く。


 トレントイーターの軸と重心をイメージ。


 トレントイーターの関節の可動域を想定。


 トレントイーターの突進の力が角にどのように伝わっているのか、詳細に想像する。


 それに対応するにはどうすればいいか?


 タイミングと位置を修正。


 突進するトレントイーターが1メートルまで迫る。


 静から動へ、私は脱力させていた体を反応させた。


 私もトレントイーターに向かって突進するように踏み出す。


 踏み込み、重心移動、軸の回転。


 自身の肉体を限界まで制御して、力同士が干渉しあうロスを減らし、動作と動作を連動させて相乗効果を狙い、一つの動きへと挑む。


 右のフレイ鋼の鉈がトレントイーターの角をとらえるけど、瞬間に理解した。


 このままだと私がトレントイーターに競り負けると


 だから、トレントイーターと私の刹那の均衡を、私に引き寄せるために左のフレイ鋼の鉈による追撃をトレントイーターの角に叩き込む。


 でも、競り負けたのは私の方だ。


 吹き飛ばされたけど、黒猫ブーツが地面を適切にとらえたから、トレントイーターから15メートル程度ですんだ。


 ダメージは皆無。


 失敗?


 後悔?


 いや、心にあるのは、やれるという確信だ。


 私はトレントイーターの突進をさばける。


 軽微な疲労はあるけど、日蝕の腕輪が即座に治すから気にならない。


 一度、呼吸をして、トレントイーターを見る。


 トレントイーターは、その場にいた。


 笑みが浮かぶ。


 トレントイーターの突進をさばき切れなかったけど、突進の勢いは殺せた。


 さっきの私とトレントイーター、私の敗北のようだけど、内容はかなりの僅差。


 そして、私のなかで、動きとタイミングなどについて、改善点がいくつも思い浮かぶ。


 改善する余地がある。


 つまり、それは成長の余地があるということ。


 興奮で胸が高鳴る気がした。


 二度目のトレントイーターの突進。


 再び、15メートル吹き飛ばされる。


 先ほど同じ結果。


 けど、思い付き、修正した内容を試した結果は重要だ。


 即座に、脳裏で想定と実際の差を修正する。


 3度目のトレントイーターの突進。


 吹き飛ばされた距離が10メートルになった。


 予想と現実がかみ合ったような瞬間だ。


 そこから、20回トレントイーターの突進に挑み、吹き飛ばさる距離が縮まらない。


 これが私の限界?


 ……いいや違う。


 精度は上がり、理解も深くなっている。


 もう一段階シビアに挑む。


 9メートル、8メートルと吹き飛ばされる距離が短くなる。


 50回トレントイーターの突進に挑んだ、私はついに吹き飛ばされることなくさばくことに成功した。


 私はそこから動くことなく、トレントイーターの突進を左右にさばき続ける。


 トレントを倒せるトレントイーターは強い魔物だけど、その攻撃法は基本的に突進だけだ。


 つまり、トレントイーターに私を殺すことはできない。


 これで、満足か?


 いいや、違う。


 ここからだ。


 まだ、トレントイーターの突進をさばけただけで、次の攻撃の起点にはなっていない。


 どうすればいいか?


 簡単だ。


 トレントイーターの突進をさばくんじゃなくて、トレントイーターの姿勢を崩す。


 ただ、さばくよりも難易度は上がるけど、今の私なら不可能でもない。


 やることに大きな変化はない。


 トレントイーターの突進をさばく。


 ただ、そのときに、相手の重心や軸に干渉して姿勢を崩すだけ。


 トレントイーターの重心や軸は当たり前だけど、肉眼で確認できるものじゃない。


 そしてなにより、相手は四足歩行。


 二足歩行の人型の魔物よりも安定してる。


 姿勢を崩す難易度も上がってしまう。


 それでも、不可能ということじゃない。


 現状でも、すべてがかみ合えば可能……のはずだ。


 大きく息を吐いて、体に溜まった熱を追い出せたと思い込む。


 現状把握。


 全身の筋肉にかすかにダメージがある。


 なぜか?


 強撃を使用したわけじゃないのに、短時間で肉体を酷使しすぎた。


 日蝕の腕輪で回復しきれないダメージ。


 けど、あと数回は動きに影響はない。


 突進してくるトレントイーターを観察して、観察して、観察する。


 トレントイーターの四肢が地面に接触するタイミングと、重心と軸の位置、間合いの微調整。


 フレイ鋼の鉈が、トレントイーターの角に触れた瞬間、相手の重心と軸を感じる。


 でも、強引に重視や軸に干渉して倒すんじゃない。


 自然にトレントイーターが倒れるように力の流れを誘導する。


 トレントイーターが抵抗しようとするけど、地面に接触している足は一本。


 中途半端に足掻いたトレントイーターの姿勢はさらに崩れる。


 けど、地面に倒れるほどじゃない。


 トレントイーターが姿勢を崩しながら、私から離れる。


 不思議だ。


 わずかな変化なのに、わかる。


 こちらを警戒するトレントイーターの重心が後ろに下がった。


 明確に後退したわけじゃないけど、トレントイーターのたたずまいから私への恐怖を感じる。


 いわゆる及び腰だ。


 次で、トレントイーターを転倒させられるだろう。


 トレントイーターの突進が酷い。


 速度や威力でいえば、誤差レベルの低下。


 でも、私にはすきだらけの雑な突進に思えた。


 高揚していた心が冷めてしまう。


 それでも、油断なく遅滞なくフレイ鋼の鉈を振るい、トレントイーターを一回転させて地面に転倒させる。


 必死に起き上がろうとするトレントイーターの首に、左右からフレイ鋼の鉈を挟み込むように振るい相打ちを発生させて切り落とす。


 生温かいトレントイーターの血がシャワーのように降り注ぐ。


 けど、トレントイーターの血は不思議なことに、他の生き物の血のように生臭くなかった。


 ほとんどシカだけど、伐採スキルが起動するし、この世界だとトレントイーターは植物だから鉄錆のような生臭さがないのかもしれない

次回の投稿は1月16日金曜日1時を予定しています。

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