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転生者は斧を極めます  作者: アーマナイト


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4-4 仮称相打ち

 プアエンのドワーフ鋼の大斧の一撃に合わせて、私も黒い大斧迷宮のラブリュスをトレントに振るう。


 力と力がトレント内部で衝突して、鋭く水平方向に爆発する。


 けど、そこから引き起こされる現象は不思議だ。


 論理的で的確な理解も説明もできない。


 トレント内部で力の爆発が起こるのに、結果としてトレントが内部から傷つくということはないのだ。


 なら、無意味かというとそうじゃない。


 効果はある。


 力の爆発が起こるとトレントに叩き込んだプアエンと私の大斧があきらかに、通常よりもかなり深く切れているのだ。


 内部の爆発で大斧の一撃が強化される?


 意味が分からない。


 あるいは、内部で力の爆発が起こるとトレントの防御力が下がっているのかもしれない……と空想じみたことを考える。


 まあ、原理や理屈はわからなくても効果はあるのだ。


 だから、この仮称相打ちをトレントで試しながら、精度と威力を上げている。


 大斧をトレントに叩き込むタイミングをわざとずらしたり、一人だけタメ切りじゃなくて普通に大斧を振るったらどうなるかなど、試行錯誤をした。


 なかなか楽しい時間だ。


 トレントを挟むようにプアエンと私で大斧を振るったときに、お互いの一撃の威力の差が大きいと力の爆発は起きない。


 力の爆発が発生するお互いの一撃の威力差は、結構シビアで上限と下限が狭いように感じる。


 しかも、力と力がトレント内部でぶつかれば必ず発生するわけじゃない。


 力の伝わるタイミング、角度、位置、威力と、すべてを上手くかみ合わせないといけないのだ。


 やっていて少しわかったのは、この力は木こりのジョブか、伐採スキルが関連していそうだということだろう。


 確証はない。


 この現象を相打ちで発生させようとすると、伐採スキルが強く働いている気がするから、そう思っているだけだ。


 このトレントを挟んで大斧を叩きつける相打ちをやっているときに、私が先にタメ切りで動くようになった。


 難易度的に、後の方が難しいから、実力と技術において先行している私が後の方が適切だろう。


 でもそれは、単純に相打ちで力の爆発を発生させるならだ。


 現状、私は力の爆発の成功は二の次にしている。


 じゃあ、なにをしているのか?


 プアエンを成長させようとしている。


 私の振るう迷宮のラブリュスがトレントに叩き込まれるのに、タイミングを合わせてプアエンもドワーフ鋼の大斧を振るうけど、角度と威力とタイミングがそれぞれ少しダメだ。


 結果として、トレント内部で力の爆発は起こらない。


 失敗したのはプアエンだけど、一番の原因は私だ。


 私がもう少し迷宮のラブリュスを振るう威力を抑えれば、プアエンはもう少し楽に相打ちで力の爆発を成功させるだろう。


 ならなぜそうしないのか?


 プアエンへの意地悪?


 違う。


 教導だ。


 確かに、今のはプアエンにとって厳しい一撃で、全力でドワーフ鋼の大斧を振るって極限の威力を出しながら、タイミングや位置に角度をシビアな精度で完璧に制御する必要がある。


 プアエンにとってかなり難しくて大変だけど、やる意味も価値もあるといえるだろう。


 その証拠に、プアエンは次の相打ちで威力とタイミングを調整して、角度が少しずれただけだった。


 数回、繰り返せばプアエンは私の相打ちに完璧に合わせてきて、トレント内部で力の爆発を安定して発生させている。


 だから、私は自然と微笑みを浮かべ、さらに迷宮のラブリュスを振るう威力を少しだけ上げた。


 視界に映るプアエンの頬が引きつったような気がするけど、気のせいだろう。


 その証拠に、プアエンは一言も文句を口にしないで、私の相打ちに合わせてくる。


 再びプアエンは失敗するけど、繰り返しているうちに必ず成功させた。


 実に面白い。


 私とプアエンが向き合い、プアエンが急激に成長する。


 これは私とプアエンが手合わせしたときと似たような構図だ。


 でも、私のなかに嫉妬も不安もない。


 相手に迫られる恐怖と、相手を教え導き成長させる違いだろうか?


 嫉妬や恐怖よりも、どうやって相打ちをすればプアエンが成長するか考えると楽しい。


 まあ、プアエンにとっては、無理難題というか、厳しい課題を連続で突きつけているような気もするけど、才能あふれるプアエンなら大丈夫だろう。


 私がわざと角度やタイミングをずらしても、プアエンは即座に合わせて見せる。


 何度か、プアエンが舌打ちしたような気もするけど気のせいだろう。


 私がタメ切りで迷宮のラブリュスを振るいトレントに叩き込む。


 反対側のプアエンの表情が一瞬だけ歪ませる。


 天才に自らの経験を奪われるのは恐怖で嫉妬するけど、こちらが課題を提示して挑ませるのは主導権があるからなのか実に楽しい。


 プアエンに追いつかれたらどうしようとかの恐怖以上に、プアエンを成長させるのが楽しいと思ってしまう。


 だけど、やっていることはなかなか厳しいと自覚している。


 プアエンが表情を歪ませるのも、当然だろう。


 なにしろ、私の一撃は、プアエンの斧と伐採スキルが示す最適の一撃以上のものを要求している。


 プアエンも瞬間的にスキル以上の一撃を出せるけど、安定していないし、簡単じゃない。


 無力化しているとはいえ強力な魔物であるトレントの前でやることじゃないだろう。


 けど、実戦という緊張が、プアエンに成長をうながすと私は期待しているのだ。


 実際に、プアエンは20回以上失敗したけど、自分のスキルが示す限界を超えながら相打ちを完璧に合わせて見せた。


 成功したときに、涙を浮かべて喜んでいたけど、私が再度迷宮のラブリュスを振るう威力を上げたら、別の意味で涙をプアエンは浮かべた気がするけど、これは私のイジメじゃない。


 それに、実益もあった。


 二人がかりだけど、トレントをわずか数時間で伐採したのだ。


 プアエンの成長を考えないで、私とプアエンでトレントの伐採にだけに集中すれば、2時間くらいで伐採できただろう。


 けど、最後の数回の相打ちの調整に苦労した。


「やったーーー!」


 小柄な年上の少女という不思議なプアエンが子供のように全身で喜ぶ。


 プアエンがトレントに止めを刺したことで、プアエンのレベルと斧と伐採スキルが成長したのだ。


 偶然じゃなくて、プアエンが最後の一撃を叩き込めるように調整するのに苦労した。


 まあ、相打ちでプアエンに意地悪のようなことをしてしまったから、このレベルアップは私からのお詫びのようなものだ。


 それはともかく、トレントを予定よりも早く倒してしまった。


 悪いことじゃないけど、予定外の空白の時間ができてしまったのだ。


 私は、時間があるなら近くの霊穴に向かって別のトレントを伐採しようかと提案したら、プアエンに断られてしまった。


 プアエンの常識だと、一日に複数回トレントと戦おうとするのは正気じゃないらしい。


 なかなか、失礼な話だ。


 私とてトレントという強力な魔物を過小評価しているわけじゃない。


 仮称相打ちのことや、プアエンの実力を考慮すれば、このままトレントと連戦しても問題ないと思っているだけだ。


 けど、無理強いするのもよくない。


 だから、このまま村に帰還しようとしたんだけど、逆にプアエンに提案された。


 村の近くにある邪神が試練の神だったころに創造した原初のダンジョンに調査の一環で挑んでみたらどうかと。


 前にハイラムに説明されたけど、このダンジョンの最深部で強力な装備、魔道具、アイテムが入手できるらしい。


 ただ、現状だと、最深部まで行くのは私やハイラムの実力だと不可能。


 でも、私が実力的に挑めないのは、最深部近くだ。


 現状の私の実力でも、中層くらいまでなら大丈夫らしい。


 とはいえ、最深部まで行けないのに、このダンジョンを調査する必要があるかのかといえば、絶対にある。


 むしろ、私にとって重要なのはダンジョンの最深部じゃなくて、中層で採掘できる物だ。


 その採掘できる素材を竜心鉄という。


 竜心鉄は、通常の鉄が竜の魔力によって変化した物らしい。


 ゴブリンとゴブリン銅の関係と同じだ。


 そして、私は竜心鉄を求めている。


 竜心鉄があれば迷宮のラブリュス以上の大斧を手に入れられるのだ。


 まあ、正確には竜心鉄にゴブリン銅や複数の素材を加えた竜血鋼という合金で作るんだけど。


 ともかく、私は強力な斧を手に入れるために、まとまった量の竜心鉄を必要としている。


 けど、竜心鉄は流通量が少ないし、冒険者に依頼して入手してきてもらうのも難しい。


 不可能というわけじゃないけど、冒険者に依頼する場合はかなり高額になるので、ハイラム曰くそれならお前が自分で採掘してこいというのだ。


 ダンジョンには前から興味があったし、いいんだけど。


 どうにも最近、ハイラムの私に対する扱いが雑な気がする。


 私がハイラムの単なる部下から、村長という立場になったから、えこひいき的な支援ができないのだろうと理性で理解するけど、村長としてハイラムの支援はあればあるだけ嬉しい。


 とはいえ、ダンジョンに挑むというのは、わくわくしてしまう。


 しかし、この感覚は周囲にあまり共感されない。


 共感してくれるのは、ハイラムくらいだろう。


 まあ、この場にいないから、実質私一人がダンジョンに挑むことに心躍らせている。


 もちろん、この世界の人々もダンジョンに挑むときにわくわくしたりすることもあるけど、私のようなダンジョンに対して憧れにも似たロマンを抱くことはないようだ。


 こういうときに、私はこの世界で異質なんだと少しだけ寂しくなるけど、そんなのは一瞬でしかない。


 寂しさ以上の期待と希望に心は満ちている。


 斧を極める点でいうならダンジョンに挑むことはあまり関係ないけど、私とて斧を極める以外のことで心が動くことはあるのだ。


 だけど、不可解なことがある。


 試練の神のダンジョン挑むことを提案したプアエンが同行しないというのだ。


 なんでも、連れてきた子供たちを村までプアエンが引率するという。


 話としてはわかるし、納得できるけど、微妙にスッキリしない。


 私が子供たちの護衛として連れきた獣人たちの半数をダンジョンに連れて行こうとしたら、プアエンに止められたのだ。


 ハルルフェントと二人でダンジョンに挑むように言われた。


 ハイラムから多少の事前の情報は入っているけど、初めてのダンジョンだから安全のためにも実力者の私とハルルフェントの二人で挑むのは変じゃない。


 変じゃないけど妙なのだ。


 プアエンから、私がハルルフェントと二人でダンジョンに挑むと、ハルルフェントとプアエンの仲が良くなると説明された。


 意味が分からないし、関連性がわからない。


 プアエンによれば、


「アタシが村長を斧を扱う先達への尊敬しているけど、それは異性への愛情ではないことをハルルフェントに説明しました」


 とのことだけど、私にはよくわからない。


 ただ、まあ、ハルルフェントとプアエンが上手くやれているなら悪いことじゃないだろう。


 それに、ハルルフェントのことは信頼しているから、初めてのダンジョンに彼女と二人で挑むことに特段の不安はない。


 むしろ、かばい守る対象になるかもしれない獣人たちを抜きにするのは、正解のように思えてくる。


 ……あれ、プアエンの理屈はよくわからないけど、提案自体は合理的?


 竜心鉄を本格的に採掘するなら、人員と装備の面で準備不足だ。


 けど、試練の神のダンジョンがどんなところか、実際に表層を確認するだけなら私とハルルフェントの二人のほうが身軽でいいかもしれない。


 しかし、獣人たちはどうなんだろう。


 不満というわけじゃないけど、獣人という種族は強さと戦闘に貪欲なはずなのに、今回子供たちの護衛として連れてきた獣人たちは、向上心が低そうで少しだけ不安になる。


 強者や困難に怯えるんじゃなくて、獣人には不敵にほほ笑む不屈の心を期待してしまう。


 ある意味で、獣人としては常識で理性的といえるけど、それが一人とかじゃなくて護衛の獣人たち全員が似たような状態だから不思議だ。


 獣人たちは、戦闘、あるいは強者に怯えうような場面に出会ってしまったのだろうか?


 まあ、問題になるようなら、対処すればいい。

次回の投稿は11月7日金曜日1時を予定しています。

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