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転生者は斧を極めます  作者: アーマナイト


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4-2 村長になって

 私は村長になった。


 オシオン侯爵の屋敷で客人として暮らしていたときよりも、身分もしっかりして権限もある。


 だけど、それ以上に両肩に乗りかかる責任が重い。


 やることは、複雑じゃないし、難しくもない、魔境に対して備えるために村をつくるためのマニュアル化された手順を消化するだけだ。


 予定外のことが起きたときに、自分の責任で判断を下すだけで、苦手な仕事というわけじゃない。


 でも、自分の判断に、他人の命や人生があると思うと、吐きそうになる。


 他人の命に責任を持ったりする場面はこれまでにもあったけど、個人という立場と村長という立場だと責任の重みと質が違う。


 そしてなにより、多忙だ。


 これは仕方がない。


 できたばかりの村で、色々と各方面から注目されているユグドラシルの魔境のなかにある空白地帯につくられた村だ。


 多くの人や組織が、コネを作ろうとしたり、スパイを送ろうとしてきたり、様々な意図で手紙を送ってくる。


 立場のある者からの手紙だから読まないわけにもいかないし、返信しないわけにもいかない。


 普通なら、魔境に備えて作られた村に人がきてくれるなら、多少怪しくても歓迎される。


 けど、この村は普通じゃない。


 村人になるためには最低でも、ハイオーガを倒せる実力の持ち主であることが最低条件。


 まあ、一応、例外的にオーガすら倒せない村人も20人くらいいる。


 でも、その村人たちは特別な技能があるか、将来的にトレントを伐採できるようにするために育成する木こりのジョブか木こりのジョブを選ぶ予定の村人たちだけだ。


 本当ならベルセルクを倒せる実力者としたけど、そうすると人が集まらないので少しだけ妥協した。


 まあ、ハイオーガを倒せる実力者で、わざわざこの村にきたいという者はあまりいない。


 この村は色々な意味で注目されているけど、この村に実力者がきてもすぐに大金が稼げるような状況じゃないのだ。


 ハイオーガの角や皮には需要があるけど、ハイオーガを倒せる実力があるなら、もっと効率よく稼げるダンジョンや魔境がいくらでもある。


 それに、この村は、基本的に農業をやらないから、普通の開拓したばかりの村のようにナゾイモを育てる人員が必要ない。


 なら、食料をどうするのかといえば、基本的に外から購入している。


 もっといえば、近くに水場がないし、井戸を掘っても水が出ないなから、食料だけじゃなくて水も外から購入している状態だ。


 あまりいい状況じゃないけど、それでもトレントとバロメッツを定期的に伐採できているから、村の収支は黒字になっている。


 けど、村の収支が私に依存している状況は健全じゃない。


 死ぬ気はないけど、私が死んだ場合でも村を運営できるようにする必要はある。


 まあ、もう少しすればプアエンのような人材が育って、私がいなくてもトレントを伐採できるかもしれない。


 一応、バロメッツなら私抜きで村人たちだけで倒せるけど、その場合はハルルフェントたちエルフの協力は必須となる。


 ハルルフェントのようなエルフたちもこの村で暮らしているけど、村人というわけじゃない。


 エルフの国からユグドラシルの魔境を監視するために、この村に来ている……公的には。


 ユグドラシルの魔境の監視も嘘じゃないけど、それ以上にエルフたちはバロメッツの肉を求めている。


 エルフたちが食べられるバロメッツの肉だけど、エルフの国からの需要は増えるばかりだ。


 しかも、マズいことに、試験的に属性トレントを伐採したあとの霊穴に、通常のバロメッツが発生させる手順で聖域の木綿の苗を植えたらどうなるか、ハイラムの許可をもらって実験したら各6属性の新種のバロメッツが誕生した。


 新種のバロメッツが誕生したことは興味深いし、素材としても色々と研究されている。


 けど、この新種のバロメッツを知ったエルフの国から、新種のバロメッツの肉をよこせと矢の催促が来て困ってしまう。


 こちらとしても引き受けたいけど、簡単じゃない。


 新種の属性バロメッツは通常のバロメッツよりも強いけど、私がハルルフェントたちと協力して勝てないほどじゃない。


 でも、私抜きだと危ういし、村長の私はバロメッツだけを相手にしているわけにはいかないから、困ってしまう。


 そんな問題が山積しているなかで、朗報もある。


 とある獣人の村人が黄色いカブトムシの幼虫のようなクルールアの効率的な繁殖に成功したのだ。


 それも、子供のクルールアにトレントの枝や木片を適量、食わせることで急激に成長させるというもので、しかも普通なら成長したクルールアは味が落ちるのに、味が落ちないどころか美味しくなっているという嬉しい報告もある。


 ただ、エルフは食べないし、人間の村人はクルールアを外見から食べたがらない。


 クルールアは見た目のインパクトが問題だけど、味と栄養価は素晴らしいから食わず嫌いしないで人間の村人に食べて欲しいけど無理強いするのもよくないだろう。


 とはいえ、朗報はこれくらいだ。


「村長、あいつらはダメだ! 他の人員に代えるべきだ」


 突貫で建築した仮設の家で私が無数の手紙を読んで返事を書いていると、怒りをあらわにしたプアエンが言った。


 プアエンは小柄だけど、大人びた容姿でハスキーボイスだから不機嫌だと余計に迫力がある。


 プアエンに任せたのは、数年後にトレントを伐採できる人員をそろえるために、ジョブを選ぶ前の10歳未満の少年少女10人の指導だ。


 10歳未満なのはスキルをオフにする修行法が10歳以上だと難しいからで、初めはかつての自分と同じように薪割をやらせて斧の基本的な扱いを覚えさせる予定になっている。


 けど、プアエンの様子を見る限り、難航しているようだ。


「そんなに?」


 正直、プアエンに任せているのは子供たちの薪割を見守ることで、複雑な技術指導をするわけでもないから、難航する理由がわからない。


 10歳未満の子供にとってスキルの補助がなければ薪割は難しいけど、現状はとにかく薪割の回数をこなす段階だ。


 極論、薪は割れなくてもいいから、才能がなくても可能な行為。


「才能とか以前の問題だ! あいつらはやる気がない。自分たちがどれだけ幸運で恵まれた環境にいるのか理解もしていないで、この村に連れてこられたことに不満ばかり言う!」


 プアエンが苛立たしげに言う。


 まあ、プアエンの気持ちもわかる。


 ここは三食普通の食事が食べられて、ナゾイモと複数の薬草を食べる必要はない。


 子供たちの食事の水準で言えば平均以上、衣服も派手じゃないけどしっかりとした上質なものが支給される。


 住むところだけは小屋ですらなく天幕だけど、寒さに凍えることはないはずだ。


 プアエンの視点だと、しっかりと衣食住を整えられているのに、全力を出さない子供たちに不満があるのだろう。


「まあ、実際、10人の10歳未満の少年少女はハイラムとチャルネトが選んだ孤児とかだからね。自分たちが望んで斧を極めたいとここにきたわけじゃない。わけもわからず、魔境のなかにある荒地のような村に連れてこられたら、絶望するのも仕方がないさ」


 ハイラムやチャルネトの選考基準は、子供たちが面倒な家系や誰かの手駒じゃないということ。


 子供たちの才能の有無や、やる気は考慮されていない。


 ただ、ここに来た子供たちは、この村に来れなければ過酷な状況になっていそうだったそうだ。


 とはいえ、子供たちに同情や温情をかけたのは大人の都合と理屈で、子供たちが望んで大人に媚びたわけじゃない。


 なのに、子供たちに恵まれているんだから、真剣になれというのも違う気がする。


「村長は甘い。あいつらは、甘えているだけだ。絶望して停滞する余裕なんてないのに、そのことに気づいてもいない。本来なら、不本意でも死に物狂いで強くなって備えるべきなのだ」


 プアエンの言葉は間違っていない。


 村にきた子供たちには、ここを去って次に行ける場所なんてないのだ。


 最低でも、15歳の大人になるまで頑張らないと、村から出ることすらできない。


 とはいえ、プアエンの憤りは、かつての自分より子供たちが良い環境にいるのに、不満を言っていることが許せないのかもしれない。


 詳細は聞いていないけど、ハイラムによればプアエンの父親は王国の優秀なドワーフの鍛冶師だったけど、なにか過去にやらかして鍛冶師をやれなくなりドワーフの国へ移住してプアエンが生まれた。


 プアエンは幼少の頃から鍛冶の才能があったけど、父親の行為によって鍛冶師になることを許されず、ジョブを木こりにすることになる。


 父親のせいで、好きだった鍛冶をやれずに、幼少期には周囲のドワーフたちから侮蔑の視線を向けられていたらしい。


 プアエンが斧を極めようとする動機は、木こりとして大成して周囲を見返したいのかもしれない。


 だから、プアエンには自分の幼少期よりも恵まれた環境にいる子供たちが許せないのだろう。


 けど、それはプアエンの事情だ。


 子供たちにとっては、関係のないプアエンの葛藤といえる。


 私がなにか言おうとする前に、この部屋にいたハルルフェントが口を開く。


「それって、あなたが無能なだけなんじゃない?」


 ハルルフェントの言葉に、プアエンが睨みつけながら応じる。


「なんだと?」


「だって、そうでしょう? あなたはファイスから任された仕事を果たせなかった原因を子供に押し付けている。自分の無能さを棚に上げて、みっともない」


 ハルルフェントが冷たい眼差しをプアエンに向ける。


 ハルルフェントの発言も間違いじゃない。


 子供たちのやる気がないなら、出させるのもプアエンの仕事の範疇だと言える。


 そう、やる気のない子供たちを切り捨てようとするプアエンこそ仕事を投げ出しているというハルルフェントの視点は変じゃない。


 変じゃないし、間違いでもないけど、言葉が強すぎる。


 というか、ハルルフェントとプアエンの相性が悪い。


 最初は、エルフとドワーフは種族の特徴として相性が悪いのかと思ったけど、特にそういうことはないようだ。


 つまり、単純にハルルフェントとプアエンの相性の問題だけど、全体的に二人の関係を見ていると、プアエンはハルルフェントを意識していないけど、ハルルフェントがプアエンに突っかかっている感じがする。


 でも、理由がよくわからない。


 初対面のときハルルフェントは、そこまでプアエンを意識していなかった。


 なのに、私がプアエンと手合わせして、プアエンが私を慕って仕事をするようになると、ハルルフェントがプアエンに対して攻撃的になったような気がする。


 けど、原因がわからない。


 子供たちに厳しいプアエンに、ハルルフェントがイラ立ったとか?


 ……違う気がする。


 ハルルフェントは子供嫌いじゃないけど、特別子供好きというわけでもないし、本当にハルルフェントがプアエンに対して攻撃的になる理由が思いつかない。


 ただ、ハルルフェントの言い方はきついけど、的外れな嫌味とかをいってるわけじゃないから、状況がややこしくなっている。


 ハルルフェントとプアエンの2人が、仲良くは無理でも、もう少しお互いを尊重してくれればいいんだけど難しそうだ。


 けど、放置するわけにもいかない。


 やる気のない子供たちのやる気を引き出すのがプアエンの仕事に含まれるように、村人同士の関係改善は村長の仕事だ。


 つまり、この村の村長の私の仕事ということになる。


 ……どうしたらいいんだろう。


「村長、子供たちに、トレントを伐採するところを見せられないだろうか?」


 ハルルフェントを睨みながらプアエンのした提案に、私はうなずきながら応じた。


「なるほど、実際に見せて、子供たちのトレントを伐採するという目標を実感させやすくするのか」


「違います。子供たちに、村長の凄さを理解させて、憧れさせるんです!」


 興奮した様子で告げるプアエンの言葉に、私は懐疑的な気持ちで首を傾げながら応じた。


「……うーん、私がトレントを伐採できることは凄いことだけど、子供たちに凄さがわかるかな? 見た目は木に斧を振るっているだけの地味な光景だよ? 子供がそれを見て憧れるかな? 村長が地味なことをやっていると、子供たちに失望されないかな?」


「村長は」


 プアエンが続けようとした言葉をハルルフェントの言葉が遮る。


「斧を振るっているファイスは、迫力があってカッコいいよ。もう少し自信もっていいいと思う」


「そうですか。なら、やってみましょうか」


 正直なところ、自分じゃよくわからない。


 トレントを伐採することは凄いことだけど、視覚的には斧で木を切り倒しているだけだから、子供たちが退屈に思わないか少しだけ心配になる。


 でも、私に憧れてくれているプアエンが提案してくれたことだから、全力で頑張るだけだ。


 子供たちにはともかく、尊敬してくれている村人にカッコ悪い背中は見せられない。

次回の投稿は10月10日金曜日1時を予定しています。

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