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転生者は斧を極めます  作者: アーマナイト
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3-13 弓と虹竹とエルフの生態

 弓を作る。


 これは決定事項だ。


 私としても趣味で作るなら問題はない。


 けど、ハイラムから依頼されたのは、エルフの国の要人に渡す物。


 ハルルフェントが私を気持ち悪いといったから、私の作った弓を彼女に贈ることで仲直りをしたという象徴になる。


 極論だけど、贈る弓に性能は求められていない。


 政治の小道具だ。


 けど、死ぬほど緊張している私にとっては慰めにもならないし、手を抜く理由にもならない。


 作るなら全力で最高の物を。


 …………妥協して手を抜くことのできない不器用な自分が恨めしい。


 そして、弓を作る上で、ハイラムから使うように言われた素材がある。


 虹竹という、基本は白で七色の光沢を放つ竹だ。


 なんでも、虹竹はエンドレスインフィニットクロニクルにおいて最高クラスの貴重な素材で、ハイエンドクラスの弓を作る場合には必ず使われるらしい。


 エンドレスインフィニットクロニクルにおいて虹竹が貴重な理由は、入手方法がいくつかの高難易度ダンジョンに出現する宝箱から低確率で引き当てるしかないから。


 けど、この世界だと虹竹は貴重だけど入手困難というほどの素材じゃない。


 ある程度の資金とコネがあれば入手できるだろう。


 なにしろ、エルフの国にある聖域で普通に虹竹が自生しているらしい。


 まあ、エンドレスインフィニットクロニクルだと、ゲーム開始時点でエルフの国が滅んでいて虹竹が入手できる聖域も存在しないから、貴重な素材になっていたそうだ。


 エルフに贈る弓に、虹竹を使うのは素材としての性能もあるけど、エルフの国の素材を使うことにハイラムの政治的な意図がある気がする。


 そして、素材としての虹竹だけど、あまりクセがない。


 村にいたときよりも加工するための良い道具を使っているけど、それでも虹竹は硬くて大変だけど竹炭にする前の黒竹のように割れやすかったりしないので、ある意味で加工しやすいともいえる。


 一応、黒竹の例もあるから、虹竹を竹炭にしたらどんな性質になるのか試してみたけど、汚れた水の浄化能力の高いだけの竹炭だった。


 竹炭として見れば燃えにくいけど、普通の竹炭よりも浄化能力が高いだけで、素材としては普通の竹炭でしかない。


 だから、弓には竹炭じゃなくて、普通の虹竹を素材にする。


 虹竹以外にも、トレント化したイチイの木を使う。


 イチイの木を選んだのは、手元にあるトレント化した木の素材のなかで一番弓に適しているからだ。


 このトレント化したイチイの木には特徴がある。


 普通のイチイの木材がそこまで赤の強くない赤褐色なのに対して、トレント化すると少し暗めの赤色になるのだ。


 まあ、それだけで、樹液が特殊とか、変な性質があったりはしない。


 弓に適しているだけの赤い木材。


 それと、作る弓にはオーガの角も使う。


 素材の格というか、レアリティのようなもので他の2つの比べると、オーガの角は見劣りするかもしれない。


 別に、貴重なワイバーンとかそういう魔物の角、牙、爪、骨も、ハイラムの伝手で入手はできる。


 けど、今回は使わない。


 これは気持ち悪いと言ったハルルフェントに含むところがあるからとかじゃない。


 ただ、単純にそれらが弓の素材に適していないというだけだ。


 他の武器を作るなら、選ぶかもしれないけど、虹竹とトレント化したイチイの木と合せて弓を作るならオーガの角が適切だといえる。


 それに、トレント化したイチイの木に関しても、今回はあえて芯材を使っていないけど、それも最高の弓を作るためだ。


 構造としては、弓胎弓のように虹竹で作った竹ヒゴを並べて芯として、イチイの木を側木として両サイドに置き、虹竹の内竹と外竹で前後で挟むことを考えていた。


 けど、虹竹やイチイの木を加工しながら触れているうちに、よりよい構造が脳裏に浮かんできたので修正した。


 虹竹の竹ヒゴを並べて芯にするのは変わらずに、前後を薄い板状に伸ばしたオーガの角で挟み、四方をイチイの木で囲む。


 素材の加工は難しくはない。


 けど、そこから微調整が難しかった。


 それぞれの素材の形状をミリ単位の精度で調整する。


 素材の形状や厚みが少し変わるだけで、素材の性質が干渉しあって弓として成立しない。


 でも、目指すべき弓の完成形は干渉しないようにすることじゃなくて、それぞれの素材の性質が相乗効果によって最大限発揮されること。


 弓の大きさや構造は1日で決まったけど、素材の大きさや厚みなどの細かい調整に1週間かかってしまった。


 でも、これで完成じゃない。


 以前なら、これで完成で良かったんだけど、愚者の腕輪で錬金術が使えるから、弓の内部の魔力の流れを二重螺旋に整える。


 これは弓で、杖じゃないから不要な工程だけど、やらないことは妥協に思えたから実行した。


 けど、すぐに、後悔することになる。


 それぞれの素材の魔力の流れを整えるのは、簡単とはいわないけど時間をかければ問題のない作業だけど、複数の素材を合わせた弓は別格だった。


 複数の素材の毛細血管のように存在する不要な魔力の通り道を閉鎖して、あるいは統合して二重螺旋を描くけど、素材と素材をまたぐときに手ごたえが急激に変わるから歪みそうになる。


 集中を切らすことなく針に糸を通し続けるような精密作業を開始して3日、不眠不休で続けることで弓の内部に納得のいく二重螺旋を描けた。


 それは見た目だけなら、特徴のない赤い木製の短弓。


 けど、不思議な存在感と美しさがある。


 この弓なら大丈夫だと自信を持って安心はできないけど、現状の自分にこれ以上の物は作れないと確信しているのも事実だ。


 ともかく、弓が完成したから、自分へのご褒美に新作のお菓子を用意して口にした。


 それは、ピンポン玉くらいの大きさの黒くて粉っぽいお菓子。


 使われているのは2つの食材。


 トレントシロップと焙煎した虹竹の葉の粉末だ。


 ハイラムから渡された虹竹には、幹と同じように白くて七色の光沢を放つ葉がついていたので、黒竹のように焙煎すればコーヒーモドキになるかと思ったんだけど、そうはならなかった。


 でも、無駄というわけでもない。


 虹竹の葉を焙煎して粉末にした物を口にして思った感想は「ココアだ」というものだった。


 正確には無糖の甘くないピュアココアという物。


 味にしても、前世のココアよりも酸味が強い気がするけど嫌な感じはしない。


 これを適量のトレントシロップと混ぜると、口のなかで複雑な風味が広がり、後味としてさわやかな酸味を残していくビターな生チョコのような物になる。


 この生チョコモドキを食べると一時的に体内の魔力が活性化して、状態異常にかかりにくくなり魔法防御力も上昇する効果があった。


 その他にも、色々と効果があるらしいけど、持続時間が短いので実用的とは言い難い。


 まあ、そんな効果なくても、この生チョコモドキは私にとって嗜好品として十分に価値がある。


 そんな生チョコモドキを口にすれば、しっかりとしたグミのような弾力のある食感だけど、次の瞬間には弾けるように溶けて消えていく。


 そして後には、甘すぎたりくどすぎたりしない心地よい苦味と酸味をまとった甘味が、弓作りで疲れた心身に染みわたっていく。


 ハイラムの話だと、試しにこの生チョコモドキをエルフたちに出したら、大変喜んでくれたそうだ。


 事前の説明で、エルフは食に関して面倒だと聞かされていたので安心したのを覚えている。


 もっとも、エルフの食の面倒さは、肉、魚、卵、乳が一切食べられないという面倒さらしいけど。


 アレルギーというわけじゃないらしいけど、出汁や調味料で少量使用しただけでも、口にしたら反射的に戻してしまうほどダメで、無理して食べると体調を崩してしまうらしい。


 前世のアレルギーのような症状じゃないけど、エルフにとってはそれぐらいダメなようだ。


 だから、エルフは同じような食事を毎日食べるらしい。


 そんなエルフに生チョコモドキが受け入れられたのは良かった。


 これで、少しでも私の印象がよくなればいいんだけど。


 称号による影響で、エルフからの好感度がマイナススタートだけど、実際に魔境でイビルトレントを伐採しているところを見せることになっているから、関係が少しでも改善できればと願っている。


 そして、王国にきているエルフたちだけど、実はエルフの国基準だと成人前らしい。


 意味がわからない。


 成人前の子供たちが一国の外交を担っている?


 王族とか、特別な血筋の者だというなら少しは納得もできるけど、そういうわけじゃないらしい。


 これにはエルフの国というか、エルフという種族の特徴が関わっている。


 それに、ここにきたエルフたちは成人前といったけど、年齢でいえば全員が80歳以上らしい。


 80年以上生きているのに、成人前。


 ここが異世界で、エルフとは違う種族なんだって強く理解させられる。


 エルフの成人はおおよそ100歳前後で、遅いと120歳くらいまで続くそうだ。


 なにが続くのかといえば、思春期だ。


 エルフの思春期は50歳から100歳ぐらいまで続くらしい。


 50歳まで子供というのもよくわからないけど、エルフとはそういうものだと言われたら納得するしかない。


 一応、エルフも体だけなら、15歳から20歳くらいで大人と同じような見た目になる。


 けど、中身は無邪気で落ち着きがなく警戒心がないから、50歳をすぎるまではエルフの国から出ることはまずない。


 というか、色々と危険なので、周囲の大人が出さないようにしている。


 50歳をすぎると落ち着きと警戒心を覚えるようになるけど、同時に成人したエルフと比べると段違いの行動力を持つようになるらしい。


 そして、100歳になると成人として認められる。


 ……なら、成人のエルフが外交をしろよと思うけど、これも難しいらしい。


 成人を迎えたエルフというのは、精神的に常時賢者タイムで何事にも消極的になってしまう。


 なにもしないわけじゃないし、ことなかれ主義でもないらしいけど、どんな問題もいずれ時が解決するというように、積極的に自ら動いて解決しようとしないそうだ。


 それに対して、思春期のエルフはやる気と行動力に満ちている。


 思慮が浅かったり、経験不足だったりするけど、やる気があるなら大きな失敗をしない限り成人前の若者に外交を任せようというのがエルフの国らしい。


 ……面倒だから、体よく行動力のある若者に、大人たちが雑事を押し付けているように思えるのは気のせいだろうか?


 まあ、思春期のエルフといっても、精神が円熟していないというだけで、知識などで劣っているわけじゃないから侮れない。


 もっとも、思春期特有の過激で極端な思想に走りやすく、エルフこそ最も優秀な種族だと考えるのも少なからずいるそうだ。


 けど、ハイラムによれば、それも差別的な思想に傾くというよりも、中二病的なミステリアスでダークな雰囲気に憧れるノリに近いらしい。


 だから、ハイラムから、思春期のエルフの極端な発言を良くも悪くも真に受けるなと言われている。


 面倒だけど、事前に理解していれば、付き合い方も難しくはないだろう。


 ただ、私の自然破壊者という称号が、エルフたちとの関係を構築する上でどれくらい影響するか気にはなる。


 けど、これは自然破壊者という称号を獲得している前例がいないので、自分で確かめるしかない。


 魔境でイビルトレントを伐採するときに、ハイラムとチャルネトはエルフたちに同行しないことになっている。


 2人は称号を獲得できるのか、獲得できるなら、その効果はエンドレスインフィニットクロニクルとどれくらい違うのか検証するそうだ。


 魔境に同行して欲しいと思うけど、ハイラムにとっても貴重な息抜きだから、邪魔をするのも野暮だろう。


 こちらとしても、自然破壊者の効果でどれくらいエルフに嫌われていて、それ以降の心証の上下にも影響するのか検証するつもりでいたほうがいいかもしれない。


 ……まあ、強がりなんだけど。


 印象がマイナススタートなのはともかく、その後なにをしても上昇しないのだとしたら泣きたくなる。


 それに、嫌われている理屈を理解していても、なにをしてもエルフに嫌われたままだったら、自分が情けなくなるだろう。


 ……なにか、弓以外にもエルフの心証がよくなるもの提案できたほうがいいかもしれない。

次回の投稿は6月6日金曜日1時を予定しています。

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