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転生者は斧を極めます  作者: アーマナイト


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4 友人たち

「よし、魔境へ突撃だ」


 そう、元気よく号令を発するのは、茶色の髪を少年のように短くした少女、アプロア。


 村長の次女で、私が薪割りに熱中するまで仲良く遊んでいた剣スキルを持つ友人のうちの1人。


 難航するかと思った彼女たちとの関係修復は、意外にもあっさりと許された。


 というよりも、咎められなかった。


 それどころか、魔境に行きたいから一緒に行ってくれと頼んだら、すぐに了承してくれた。


 拒絶されるか、話を聞いてもらうだけでも、土下座を披露する必要があると思っていたから、拍子抜けしてしまう。


 現在進行形で、私は戸惑っている。


 昨日から終始、アプロアは嬉しそうに笑顔を浮かべている。


 昨日、アプロアたちと魔境に行く話をして、村長や親たちに許可をもらったり、準備をしているときも、ずっとだ。


 誘いを断り続けた私への負の感情を一切感じない。


 なぜだろう?


 魔境へ行く道中、目を左に向ければ私よりも小柄な緑色の髪の弓を装備した少年、シャード。


 シャードは私と同じ村長が所有する農奴の身分で、弓スキルを持っている。


 寡黙で口数は少ないけど、遊びや他の子供たちとのケンカでも、アプロアの号令で迅速に動く行動力のある私の友人だ。


 昨日、シャードからは「良かった」という言葉を一言だけもらった。


 シャードはアプロアと違って終始笑顔というわけじゃないけど、それでも怒っているとかの負の感情は感じない。


 目を右に向ければ、この4人組の最後の1人、木剣を帯びて黒いおかっぱ頭をした4人のなかで一番の長身で、力もある少年、エピティス。


 エピティスも農奴の身分で、剣スキルを持っている。


 エピティスも口数の多い方じゃないけど、それは温厚でのんびりとした争いを好まない性格をしているからかもしれない。


 昨日、エピティスは私の肩に手を置いて、静かにうなずいてくれたけど、正直なところどういう意味なのか、よくわからないでいる。


 けど、魔境に向かって歩いているときに、3人と話してすぐに負の感情を向けられていない理由を理解できた。


 理解できて、胸が痛い。


 というか、無垢で透明な針で刺されたかのように、老いた錆色の良心が痛む。


 3人は純真な子供で、私は汚れた大人の心をしていたようだ。


 この4人組で、戦闘に使えるスキルを持っていなかったのは、私だけ。


 だから、この4人組で魔境に入ることができなかった。


 実利という点で考えると、子供が魔境に入れるかどうかは重要じゃない。


 私のような年齢の子供が魔境で薬草とかを採取して、行商人に売って小遣いを稼ごうとしても効率がいいとはいえない。


 だから、子供が魔境に入れなくても、普段の生活に影響はない。


 けど、それは魔境を資源や危険地帯と認識する大人の視点だ。


 当然、子供たちにとって魔境は別の意味がある。


 魔境は危険な遊び場所で、そこで行われるのは子供同士の度胸試しや子供特有の通過儀礼。


 いくつかある度胸試しのなかでも代表的なのが、魔境に入って珍しい物を拾って持ってくるというもの。


 珍しいと言っても、大半が変な形の石とか木片で、魔物の骨の欠片を持ってきたら、それだけでそいつは1日限定で子供たちのなかで英雄になれる。


 かつては自分も体験したはずなのに、村の大人の目にはなんの意味があるのか、わからないこだわりで変なイベント。


 でも、子供のコミュニティのなかでは重要な意味がある。


 読み書きができるとか、他のなにかができて優秀でも、これをやっていないと子供たちのなかでは一段下に見られてしまう。


 アプロアたち3人は、私がスキルを持っていなかったから、私に合わせて魔境に行って、このイベントをしていなかった。


 でも、同年代の子供でスキルを持っていないのは珍しくもない。


 だから、4人のなかで私だけが戦闘に使えるスキルを持っていなくても、ことさら劣等感を抱く必要はなかった。


 けど、この通過儀礼を終えている少しだけ年上のフォールという少年を中心とした平民のグループから、バカみたいにマウントを取られることになる。


 特に、魔境に行けない原因になっている私は集中的にバカにされた。


 3人に引け目を感じて、3人だけで魔境に行ってくれと言ったこともあったけど、行くなら4人一緒だとアプロアに笑顔で一蹴されてしまう。


 多分、3人が終えているのに、私だけが終えていないと、平民の少年グループに私がより強くバカにされると、アプロアは警戒したのかもしれない。


 結局、3人は私に合わせて魔境に行くことなく、平民の少年たちにバカにされながらも待ってくれていた。


 そんな3人の視点だと、私の最近の薪割りに熱中している行動は、4人で魔境に行くために頑張っているように見えたようだ。


 3人と話して思い出したけど、斧スキルを習得できた日。


 前世を思い出す前は、斧スキルを成長させることにハマっていたわけじゃないのに、父親に薪割りの手伝いを任されていたとはいえ、どうして黙々と薪割りをしていたのかと言えば3人に追いつくため。


 もっと言えば、3人がこれ以上、私が原因でバカにされたくないから、斧スキルを習得しようと必死に努力した。


 その心を、完全に、完璧に、忘れていた。


 まあ、前世を思い出したり、薬草が不味かったり、薪割りにハマっていたから、見事に3人への思いは視界の外に置き去りだ。


 …………白く冷えた心がキリキリと痛む。


 純粋な気持ちで待ってくれていた3人に、前世を思い出した衝撃で、そんな大切な理由をすっぱりと忘れていたなんて言えない。


 どうにも3人のなかで私は、3人に追いつくために3人と遊ぶのを控えて、孤独に薪割りをしていたと思われているみたいだ。


 それとなく、斧スキルを習得してからも、すぐに3人を魔境に誘わないで薪割りしていたことを聞いても、年上の少年グループからバカにされないぐらいに、スキルを成長させるためだと解釈している。


 ……罪悪感で吐きそう。


 まったく、こんな純真で純朴な3人を個人的な理由で魔境に誘ったクズは誰だろう。


 ……まあ、私なんだけどね。


「どうしたんだファイス。もう疲れたのか?」


 先頭を歩いていたアプロアが、罪悪感でうつむいていた私を疲れていると勘違いしたのか、気づかって声をかけてくれたけど、応じる私の笑顔が罪悪感でぎこちなくなるのを自覚してしまう。


「いえ、大丈夫です」


「そっか、でも無理すんなよ。疲れたら、すぐにオレに言うんだぞ」


 アプロアは笑顔で胸を張る。


 気づかいのできる優しい子だ。


 まったく、打算ばかりの汚れた大人な思考をする私とは大違い。


 だからこそ、アプロアの凄さがわかる。


 この村で村長の資産でもある農奴をあからさまに差別して攻撃する奴はいない。


 けど、農奴と平民で目に見えないけど、確実に隔たりが存在する。


 農奴と平民は挨拶もするし、話もする。


 険悪な雰囲気とか、深刻なケンカとかはない。


 けど、農奴と平民で住む場所が明確に違うし、親しい近所づきあいもしない。


 私が近所の農奴の家の薪を割らせてもらうことはできても、近所の平民の家の薪を割らせてくれと頼まない程度には溝がある。


 大人でも、そんな状況なんだから、遠慮のない子供だと農奴と平民の隔たりはより顕著だ。


 それでも大人と同じように、大事になるようなイジメはない。


 その代わり、農奴の子供たちの遊び場所を、平民の子供たちに奪われたり占拠されるぐらいは日常茶飯事だ。


 特に、私、シャード、エピティスの3人は口数が少なくて物静かだったから、よく平民の子供たちにバカにされていた。


 その状況を助けてくれたのがアプロアだ。


 粗末な貫頭衣を着ている私やシャード、エピティスの3人と違って、アプロアは村長の娘だから、この村の平民の大人でも着れないような、派手じゃないけど普通の染色された服を着ている。


 だから、面倒な農奴の私たちに混ざって遊ぶよりも、平民の子供たちと遊ぶ方が自然で、付き合っていくのも楽だと思う。


 けど、アプロアはあえて私たちと仲良くすることで、平民の子供たちからバカにされることを防いでくれた。


 凄いことだ。


 私が同じ立場と状況でも同じ行動ができるとは思えない。


 そして、現在もアプロアは私が個人的な理由で魔境への同行をお願いしたなんて、疑ってもいないのだろう。


 ますます、私の心が罪悪感でキリキリと痛む。

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