プロローグ
短編版を改稿しながら投稿します♪
ラウロ聖国、神聖で大陸中の信仰を集める小さな国だ。
大陸に囲まれた小さな国は、大陸全土が信仰する女神が降臨した聖地として永く栄えてきた。
ラウロ聖国には16歳になる王太子と15歳になる姉王女、12歳の妹王女、そして3歳の弟王子がいる。
(守護)の力を持つ王太子はそのスキルを使い、国を守っている。
姉王女は(緑の手)、植物の育成を促したり、治癒能力を高めたりする。
妹王女は(知識)のスキル、一度読んだ本は全て頭の中に入り、膨大な知識を持つことができる。
弟王子は(祝福)、人に幸運をもたらすスキルと言われている。
聖国は女神信仰の聖地であり、王族はその血を引いているとされ、それぞれスキルを持って生まれる。
これは魔法とは別のものだ。
すでに兄王子と姉王女は学園に通っている。
13歳から18歳までの6年間、貴族と優秀な庶民たちが通い、最後の3年間は専攻する科を決めて、就職に備える。
姉王女も来年の専攻を決め、薬草学を学びたいと考えていた。
王女の名はフローラル。
5歳の時、流行りの病にかかり、高熱を出して床に伏した。
10日後、熱も下がり、歩けるようになると、大人しかった王女が庭を駆け回り、飛び跳ねる様子を見て母である王妃は驚愕し、何かまた別の病に罹ったのではと心配したが、父である国王は
「我が娘は子ウサギのように可愛らしい」
と褒め、周囲の人間も『確かに』と同意した。
それから王女は(子ウサギ姫)と呼ばれるようになった。
成長した姫の愛らしさは変わらず、美しさは磨きがかかり、白金のふわふわした髪を緩く束ね、ローズピンクの瞳はキラキラと輝き、白く透き通るような肌は陶器のように滑らかだ。
それでいて、相手に緊張感を与えず、どこか庶民のような気安い空気で接してくるので、王女の周りはいつも保護者のような見守る会ができあがっている。
学園でも、子ウサギ姫を見守る会が創立され、貴族だけではなく、庶民たちの多くが入会していた。
「お姉様、明日は学園はお休みでしょう?一緒にお茶でもいかかですか?」
「エメライン、もちろんいいわよ!帝国語の勉強も兼ねて、帝国作法のお茶会をしましょう!」
妹姫のエメラインは幼い頃より体が弱く、フローラルはいつもエメラインの健康のために野菜やハーブを育て、体質改善に努めた。エメラインの知識のスキルも活用して2人で健康に良い食材や調理方法を調べ、10歳を過ぎるころにはかなり健康になった。
元々エメラインのスキルが知識だったこともあり、王女教育は焦ることなく、ゆっくり進めているので、大陸の共通語の帝国語の勉強は最近始めたのだった。
「では明日、お昼過ぎに部屋に行くわね」
「行ってらっしゃいませ。お姉様」
仲の良い姉妹は城で働く者にとって癒しでもある。
2人の王女が並ぶとまるで空気が神聖なものに変わるかのような錯覚に陥るため、祈りを捧げだす者が続出するのである。それも城の日常で、毎日平和な一日が流れていた。
学園に行っても子うさぎ姫は見守る会の会員たちに見守られ、安全安心な学園生活を送っている。
「ラル!今日も可愛いわね!」
「アリッサ様、おはようございます」
仲の良い公爵令嬢のアリッサは兄王子の婚約者で未来の義姉になる。
会うたびに豊かな胸でぎゅっとフローラルを抱きしめる。
その光景に男性陣は癒されているが、顔には出さない。
「アリッサ、妹が潰れてしまうよ・・・」
羨ましいと言いたいところをグッと堪えて兄王子のクリスハルト王子がやってくる。
フローラルより少し濃い白金の髪はまっすぐとサラサラ流れ、少し釣り上がった目元にサファイアの瞳が涼やかだ。
守護のスキルを持つ王子は近くにいるものを守り、広範囲の結界を張ることもできる。
彼が生まれてから王都での魔獣被害は皆無だ。
「クリス様、でも今日もラル様はこんなにもお可愛いのですもの!」
「子うさぎ姫だからね」
「まあ、お兄様までわたくしを揶揄ってますのね!」
決して揶揄っていないのだが、フローラルは自分の容姿に無頓着だ。
『そこもイイ!』
見守る会会員は王族たちの会話を間近で聞きながら、心の中で咽び泣いている。
学園での平和な日常の一コマだ。
翌日、フローラルは妹のエメラインとお茶会をしていた。
『帝国では紅茶は少し薄く、温めに入れるのが通常よ』
『やはり気候が暖かいからかしら』
『そうね、あとはお招きする方の国に合わせてお出しするそうよ。北方は濃いめで温度も高めとか』
『ラウロみたいに小さな1つの国ではないから、それぞれの国に合わせるのは大変そうね』
『いくつもの国の集合体ですもの。最近はそれぞれの国の王子や王女を留学生をとして集めているそうよ』
『どうして留学させるのかしら?』
『支配下にある国の王子たちに帝国の教育を施して、裏切らないようにするのでしょう』
『支配下にない国からも最近は留学生を集めているそうよ。人質としてね』
『どこまで国を広げるおつもりなのかしら、現在の帝王様は』
『かなり求心力のある方には間違いないわね。帝王と言っても、好き勝手にできるわけではないもの。それぞれの国の代表の意見を聞き、まとめあげ、自分の意思を通していらっしゃるのだから』
『私、これからもっと歴史書を読んで勉強しますわ!そしてお兄様をお助けするの!』
『エメラインなら絶対できるわ。でも焦らないでね。貴女も来年から学園に入るのだから、まずは体調第一よ』
『はい!お姉様』
帝国語で交わされる内容も侍女たちや護衛たちもしっかり聞き取っている。
そして今日も姉妹の会話に癒されている。
実際緑の手のスキルはフローラルがそこにいるだけで、草花たちは生き生きとし、空気は澄んでいく。
フローラルは聖国の癒し姫でもあった。
そんなほのぼのとした平和なラウロ聖国に激震が走ったのは学園の期末試験が終わり、長期休みに入ろうかというところだった。
帝国から使節団が書簡も持ってやってきたのだ。
長々した文章を要約すると、王女を留学生という名の人質に寄越せという内容だ。
早速、話し合いの場は設けられた。
外務大臣や宰相、騎士団長など国の重鎮が顔を揃え、国王と、王妃が悲痛な顔をして座る。
長男であるクリストハルト王太子、そしてフローラル、エメラインは向かいに座った。
まだ幼い末の王子マーティスの参加は見送られた。
重苦しい場で口を開いたのは、子うさぎ姫のフローラルだ。
「私が人質で参りましょう。エメラインはまだ弱く、他国に1人で暮らすことは無理ですわ。帝国語も私なら習得済みです」
書状には侍女などの付き添いは不要と記されている。
名目上は留学生として帝国に受け入れだ。
誰しもフローラルが適任だと考えていたが、誰もが口にすることができなかった。
「帝国で薬草学をしっかり学んできます」
「私の可愛い子うさぎ姫、留学期間などの記載はないのだ。何年で帰ってこられるのか、情勢次第となるだろう。
ただ、聖国の姫を無碍に扱えば、女神信仰をする大陸中の人たちから非難をあびることは間違いない。表立って粗雑に扱われることはないはずだ。・・・・行ってくれるか?」
国王であるバシハルが苦しげに口を開いた。
「はい、お父様。立派に務めを果たして見せます」
こうしてラウロ聖国の癒し姫は帝国へ人質として留学することになった。