8.はじめての蔵(8)
(……あれ?ヘンだ)
ユウジはいたずらっ子だけどあきっぽく、またさびしがり屋でもある。
こんなに長いこと自分からかくれたままなんて、たえきれないはずだ。
——不意に、カナコはみぞおちのあたりがサアッと冷たくなる思いがした。
なんだかわからないけど急に、弟が自分には手の届かない世界に行ってしまったような、そんな感じがしたのだ。
(まさか、そんなことはあり得ない。ユウジはこの蔵の中にいるはずだ)
カナコは気を取り直して、あたりをもう一度探しなおしたが、やはりどうしても弟のすがたは見当たらなかった。
……もしかしたら、とっぴな考えかもしれないが、この蔵には秘密のかくし扉でもあって、ユウジはそこにあやまって入って出られなくなっているのかもしれない。こんなに古い家ならそんなしかけもあるかもしれない。
もし、そうだとしたら少女の手にはおえない。なにせ日は、もうだいぶん暮れかけている。
カナコはあきらめておばの力を頼ることにした。入ってはいけないと言われた蔵の中に入って怒られるのはわかっているが、いまはもうそんなことを言っていられる状況ではなかった。
カナコは覚悟を決めて蔵を出るとおばの仕事部屋に向かった。部屋の戸をたたくと、細かい作業で目が充血ぎみのサナエが出てきた。
「——えっ?蔵の中に入ったの?あそこは散らかってるから、ものが落ちてきたりしてあぶないのよ」
怒るというわけではないが、めんどくさそうにメガネをずり上げるとおばは言った。
部屋の壁には、おばがつくった奇妙な切り紙細工(御幣というらしい)が一面にかざられている。
カナコは恐縮しながら
「ごめんなさい。でも、かってにユウジが入ってしまって、それでしかたなくあたしも……」
カナコのことばに、おばはけげんな表情で
「——ユウジ?だれそれ?」
と言った。
カナコはあきれた。このおばは、甥っ子の名前も覚えてないのだろうか?
「ほら、だからあたしの弟の……」
「弟?なに言ってるの?あなたはひとりっ子でしょ?ここには一人で来た」
少女は、あたまがまっしろになった。