7.はじめての蔵(7)
ユウジが点けたのだろう、小さな豆電球の光でなんとなく内部のようすは知れた。
一階にはそなえつけの戸棚、大きな長持ち(衣類などを入れる箱)やつづら、たんすがたくさんあった。
すべてに三ツ輪紋様が入っている。さっきの家族写真でもこの紋があった。垂上家の家紋なのだろう。
そういえば、七五三のときにユウジが着てたこども用の羽織にもこんな紋が入ってたっけ……そんなことを思い出しているうちに
「——あれ?いったい、これなんだろう?」
と、楽しそうな弟の声が上からした。
「あっ、こら!ヘンにさわったらダメだぞ!」
少女があわてて右にそなえつけられたはしご段で二階に上がると、ギョッとした。
いかめしいヒゲづら顔の人形が出むかえたのだ。
どうも「弁慶」らしい。白袈裟で頭をつつんだいかめしい僧形すがたで、なぎなたを持っている。
ほかにもまわりを見わたすと、いつのものかもわからない古そうな武者人形や張り子人形が棚に多数置かれている。
窓が開けられたとはいえ、わずかな明るさの下、ふかい陰影が人形の不気味さのほうをきわだたせていた。
「ユウジ!どこ行った!?」
声を上げながら見わたすと、真ん中に置かれた長持ちのふたが不自然にずれているのに気づいた。
おもわずのぞきこむと
「あっ、おひなさま」
そこには高級そうな内裏人形の女雛が油紙にくるまれて置かれていた。封が破れている。
(まさか、あの子、かってに開けたの?なんと言っておばさんにあやまったらいいかしら?)
いっしゅん女雛の顔がだれかに似ている気がしたが、今はそれどころではない。はやく弟をさがして蔵から出ないといけない。
「ちょっと、ユウジどこ行ったの?やめなさい、悪ふざけは。おねえちゃんおこるよ。ユウジ!ねえユウジ!どこ行ったの!?ねえ、ねえってば!」
ふたたび声を上げるが、反応は一切ない。
階段は一つだけしかないので弟がこの階にいるのはまちがいないが、なにせ、かまってほしたがり屋のいたずらっ子だから、かってにかくれんぼをはじめたことは大いにありうる。
しかたなくカナコは吊り棚や置き棚のまわり、長持ちの中まで探しつづけたが……
どうしたことだろう?二階にいるはずのユウジはどこにも見つからなかった。