6.はじめての蔵(6)
(おとうさんやサナエおばさんに、他にきょうだいがいただなんて……)
このことを自分ひとりの胸にしまっておくのはいやだけど、おとうさんがだまっていることを、自分がかってにユウジに言っていいものかどうかもわからな……あっ。
そういえば弟をほったらかしにしたままだった。
中庭に行く、と言ってはいたが、なにせ、落ちついてない子だから、あきたからと、かってに家の外に出たりしていたらたいへんだ。
少女は部屋を出て中庭に向かった。
その植え込みも前庭とおなじく草木が荒れ放題にのびていた。冷蔵庫の中もスカスカだったし、おばの生活はそんなにラクじゃないのかもしれない。
そして、やっぱり、そこに弟のすがたはなかった。
「ユウジ!いったいどこにいるの?」
おもわず大きい声を出して見わたすと
「やあ!おねえちゃん、ここだよ!」
ななめ上から声がした。
なんと、入ってはいけないと言われた乾蔵の二階の窓から、弟がゴキゲンな顔を出して手をふっている。
「あっ、こら!あんた、なんでそんなところに?!」
「へっへ……扉の鍵が開いてたんだよ。ねえ、ここいろいろあっておもしろいよ」
「蔵には入ったらダメだと言われたでしょ!あぶないからって!」
「いいじゃん、なにもあぶなくないよ。電気つくもん」
ユウジはカナコの声を無視して、窓からはなれた。
「あっ、こら!言うこと聞きなさい、出て来い!」
言いつつもカナコは、こうなったら自分が蔵の中に入らないとおさまりがつかないとわかっていた。
弟は気ままで、そのくせかまってほしたがり屋の甘えんぼうなのだ。
(つれもどすためにしかたないんです、ごめんなさい)
おばに心の中であやまりつつ、姉は弟を追って、古く重そうな観音開きの扉をぬけて蔵の中に入った。