5.はじめての蔵(5)
垂上家は、間口だけ見るとそんなに大きい家に思わなかったが、実際に中に入って見てまわると意外と広く、部屋数も多い。
座敷や仏間、床の間つきの広い和室、それにむかし人形問屋をしていた時の従業員の泊り部屋だろう、細かい部屋が二階建ての住居の中にいくつもあった。やみくもにまわっていると、迷子になってしまいそうなぐらいだ。
ただ、そんなせっかくたくさんある部屋の大半が今は使われておらず、兄妹が戸を開けても、ほこりとカビのにおいだけがただようさびしいものだった。
調度品もわずかばかりで、生き生きとした感じがどこにもない。木の板、壁一つ一つにこの家の経てきた年月が感じられるだけに、そのうらぶれかたはきわだっていた。
こんな、からんとした大きな家にサナエおばは一人っきりで住んでいるのだ。おそらく、ふだんは仕事部屋や台所など最小限度の生活空間以外の部屋に、立ち入ることもないのだろう。
はじめのうちこそ、ユウジはカナコといっしょに興味しんしんのようすで見てまわっていたが、あまりにどの部屋も同じ殺風景さであることに、とちゅうですっかりあきてしまって
「もういいよ、ぼく中庭にいる。虫つかまえる」
と下りて行った。
「あっ、こら」
かってな弟にカナコはしかたない、と追いかけようとしたのだが、その前に最後、まだ見ていない一階のかどにある部屋が、なんとなく気になった。
ひとりで入ってみると
「あれ?これ……」
その部屋はどうも垂上家のだれかの個室だったのではないかと思う。
むかしふうにレースを敷かれたキャビネットの上に多くの家族写真がかざられていた。どれもカナコがはじめて見るものだ。
写真館で撮ったらしい集合写真……たぶん真ん中に写っている少年が父・コウジだ。そのわきにメガネをかけているのがサナエおばさん、そして、それをかこむ夫婦がおじいさん・おばあさん……
あれ?このおとうさんとおばさんの横にいる女の子はいったいだれだろう?
はじめて見る子だ。顔立ちを見るとおとうさんによく似ている……気になってほかの写真を見ると、ふたりの赤ちゃんがならんだ写真があった。
うらを見ると『ユキエ・コウジ——かわいらしいふたご』とある。
——えっ?コウジ……おとうさんに、ふたごのきょうだいがいたの?そんなこと知らなかった。
ユキエ……おばさん?そんな人のこと、一度も聞いたことが無い。
キャビネットの上をよく見ると、ある時期から垂上家の家族集合写真はとぎれている。そして、それ以降のユキエおばさんの写真は一枚もない。
どういうことなのかは、もう小学五年生になるカナコにはなんとなく予想がつく。
(たぶん、ユキエおばさんは、早くに亡くなったんだ)
知ってはいけない垂上家の秘密を知ってしまったようでカナコはドキドキした。