37.ひな祭り(2)
カナコとユウジは退院すると、父母といっしょに垂上家にもどった。
もちろんサナエにあやまりと礼を言うためだ。
火事などおこした姪と甥にさぞかし怒っているだろうと思っていたおばは、しかし意外にも
「——いいのよ、そんなこと。あなたたちの体になんともなかったのがよかった。深く考えてなかったあたしの方がわるかったわ。なにせ放ったらかしにしていた蔵だったから、鍵がこわれて開いているなんて知らなかったし、まさか漏電するなんて思ってもなかった」
蔵に入る前の、そっけない感じから表情もずいぶんやわらかいものになっている気がした。
乾蔵を外から見ると、火事自体はかるいボヤですんだのでそれほど何も変わっていないように思えたが、じっさいに中に入ると、箱や棚・壁が真っ黒にすすけて、こげくさいにおいに満ちていた。
「ふしぎだったよ。わたしたちが蔵に入ると、これが上から落ちて、おおいかぶさるようにおまえたちを火から防いでいたんだ」
黒こげになってはいるが、紋がわずかに残ったそれはまちがいなく、あの女雛が封をされて入っていた箱だ。
「中にあった人形は?どうなったの?」
「ああ、あれね。焼けてしまったけど、せっかくだからね」
サナエは、そうちょっとほのめかすように言うと母屋の部屋にこどもたちをつれていった。
——そこには、なんということだろう!
けざやかな緋毛氈が敷かれ、その上に、あのよく見知ったひな人形たちが並べられていた。
みな火事の影響で黒くすすけてしまってはいるが、その優美さはちっとも変わらない。
まんなかには、あの女雛と男雛がかざられていた。女雛はすっかり黒こげてしまっているが、おもかげはのこっている。男雛には、ほのかに泥がついていた。




