30.人形蔵(1)
蔵の一階奥部屋では、ネズミたちと日本人形たちとの戦いがつづいていた。
「かじりつくしておしまい!」
到着した御大将みずからの指示にドブネズミたちの士気は高い。
そのガリガリの猛攻に守備にあたる武者人形たちも矢つき、槍おれ、傷だらけになっていた。
「ええいっ!なんとしても、姫はお守りせよ!」
若さま……男雛人形も傷だらけになりながら、おれた槍をふるって、ネズミの攻勢から奥の棚に入った女雛人形たちを守っている。
しかし悲しいかな「衆寡敵せず」(大勢は少ない相手をものともしないとい
うこと)で、人形たちの張った防陣が今にも突き破られようとした、そのとき
ドサリッ!
にわかに天井から、とぐろを巻いた形のまま落ちてきた、長く太いものがある。
それは、まるで金属のように光るすべらかなウロコをもった 口縄……ヘビだった。
この身の丈2メートルはあろうかというヘビ……アオダイショウこそが巳さまだったのだ。
ネズミたちは急にあらわれた自分たちの天敵にあわてふためき逃げまどう。
「ヘビだ!まずい、たべられちゃうぞ!」
しかし、ミイさまの動きはすばやく、目先のネズミにからみつくとギュウギュウギュウとしめつける。
「どうも、わしの家を好き放題に荒してくれたようだな。かってなことをした駄賃ははらってもらうぞ」
と、わらいながらねめつけると、その視線にネズミたちはふるえあがり撤退しようとした。
しかし、ガリガリの御大将は気強く
「おそれるんじゃないよ!いくらヘビでもあたしたちの相手はいっぺんにはできない。人形たちを先にやっつけちまうんだ!逃げるやつはあたしがかみちぎるよ!」
と、逃げまどうネズミたちをふみつけ、おしもどした。
そのいきおいにネズミたちはまた人形たちにとびかかり、蔵のなかは、人形・ネズミ・ヘビの大混戦となった。
そこに上からカナコがあらわれた。そして、ネズミたちともみあっている男雛を見つけると
「若さま、これを!」
投げ入れるようにわたしたのは、一振りの小さな人形用の刀だった。
「まさか!これは?」
「朝霧丸です。ミイさまが持っていました!」
なんと、行方知れずになっていた朝霧丸はミイさまが持っていたのだ。




