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人形蔵ものがたり  作者: みどりりゅう


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29/39

29.ミイさま(3)

 カナコの怒りに影は一瞬きょとんとしたが、そのあとにはたっぷりふるえて

「ハハハッ!これはおかしい。わしも長いこと生きているつもりだったが、あれが人間だとは。人間とはあのようにゲコゲコ鳴くものか?」


 ——えっ?ゲコゲコ?どうも、おかしい。

「あなたが食べたのって……」


「あれはどう見てもカエルだったな。とはいえ、実のところわしはあれを食べておらん。こどものころならよろこんで食べたが、わしももうよいオトナじゃし、べつにいま腹もすいてなかったのでな。食わずに逃がしてやった」


 つづらに入っていたのがカエル?ということは、ユウジはいったいどこに?

 わからないことだらけだ。カナコは頭が混乱したが

(いや、いまはそれより……)

 ユウジが食べられていないのなら、このミイさまにたのみたいことがある。


「今、蔵の一階二階にはガリガリ……ネズミたちが攻めてきています。知っていますか?」


「ああ、なんだかかしましいな。しかし、わしの知ったことではない」


「人形たちがこまっているの。助けてくれませんか?そのために彼らはささげものを持ってきたんです」


 しかし影はつれなく

「いやだね。第一、わしはそのささげものを受け取っておらん。カエルはもう逃げおった。たしかにわしはネズミを食すこともあるが、いまはそんな気分ではない。さっき屋根の上で小鳥を一羽とらえて喰ったとこなのでな。腹など減っておらんし、大勢のネズミどもを相手にするなどおっくうだ。正直、年なのでな。下まで降りるのもめんどうよ」


「そんな……そんなこと言わずに助けてあげてよ」


 必死にたのむ人間をおかしく思ったのか、影は

「……まあ、動いてやらんということもないがな。タダとはいかぬ。おまえは中身が人間なのだろう?ならば、それ相応のものをいただかねば取引は成り立たぬ。手助けするなら、その代償にわしが求めるものは、とてつもなく大きいものだ。それがおまえにはらいきれるかな?」

挿絵(By みてみん)


 影の奥からちら見える赤い光に、折り紙細工のトカゲは息を止めて向きあった。


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