28.ミイさま(2)
蔵の天井も暗かった。
ただ、わずかなすきまから月の光らしきものが差しこんでいて、ほこりが舞っているのが見える。もう、すっかり夜なのだ。
しばらく進むと、すきまあかりがちょうど当たるところにつづらが置かれてあった。
あわてて近よると、ふたはもう開けられていて、ユウジに持たせたあのハンカチだけがずたずたに破れて外に落ちていた。
カナコは思わず大声で、さけんだ。
「ユウジ!ねえ、ユウジ!どこかにいるの!?こたえて、おねがい!おねえちゃんよ!」
しかし、反応はない。
まわりを必死に見わたすが、なにもそれらしいものは見あたらず、途方に暮れていると、不意に真上の梁から
「……なんだ、いったい?ひとの家でなにをさわいでいる?」
威厳のある声がした。
先ほどのこわい思いがあるからネズミかと思ったが、どうもちがう。暗いからはっきりとはわからないが、ネズミなどよりずっと大きな影だ。
「——あなたが、ミイさま?」
カナコは、おののきながらたずねた。
「そうよ。今日はどうもさわがしいな。さっきも人形たちが、わしにささげもののつもりか、そのつづらに生けものを入れて持ってきた」
「えっ!?で、今はその生けものはいったいどこに!?」
カナコが恐怖もわすれて必死に問うと
「うん?そいつか?そりゃ喰ったさ。せっかくのささげものだからな」
カナコの頭は真っ白になった。
「……なんてことするの!?あたしの弟をよくも!」
「弟?……はて。折り紙細工のトカゲに弟があるとは知らなんだな」
「折り紙とか関係ない!あの子はあたしの弟よ!あなたがなんだか知らないけど、ニンゲンを食べていいと思ってるの!?」
トカゲのことばに梁の上の影はふしぎそうに
「ニンゲン?なにを言っている。あれはそんなものでは……ん?なんだ、おまえはよく見ると、その皮はニセモノだな。中に入っているのは……ニンゲンか?どうも今日はおもしろいな。折り紙に身をつつんだ人間に会うとは。さては、どこぞのあやかしにでも魅入られたか?」
「取りこまれたのはあたしじゃない、弟よ。人形につかまった弟をあなた、よくも食べたわね!?」




