27.ミイさま(1)
カナコが必死の思いで秘密のぬけ道をとおって乾蔵の二階にもどると、どうしたことだろう、人形たちの影が一つもなかった。
姫さまもおつきの人形たちもみないない。ユウジの入っているつづらも見当たらなかった。
ただ、一階から、いろいろなものがぶつかり合う音がした。
よく聞くと、そのなかにはあの「チュウチュウ」という鳴き声が……と、階段をかけあがってきたのは、またも一匹のドブネズミだ。
ケガをしているのか、血走った凶悪な目になっている。
「ひぃっ!」
しかし、今にもカナコにおそいかかってきそうな、その後ろから
「いえいっ!」
刀を投げつけて追っぱらってくれた人形がある。
門番の弁慶人形だ。見るともう、右腕だけでなく左足まで失っている。
「ああ、弁慶さん、ありがとうございます……だいじょうぶですか?」
「ううむ、トカゲか。いや、しくじった。足まで取られてしまったわ。弁慶の泣きどころごと持っていかれるとははずかしい」
なぎなたを松葉づえがわりに、なんとか立っていた。
「お姫さまやみんなはいったいどこに?」
「実はガリガリどもが不意をついて、二階と一階のあいだの壁から攻めて来よってな。やむを得ず、姫さまたちには二階から下りて、一階奥のかくし部屋にご避難いただいた。いまは、そのまわりを若さまがたが必死になって食いとどめておられるところじゃ。しかし、その守りもいつまでもつか?なにせ壁が弱くなっておるからな」
そうか、もうガリガリは攻めてきたんだ。
せっかく、はやく知らせようとがんばったのに間に合わなかった——いや、しかし、いまはそんなことはどうでもいい。
「つづらは?どうしたんですか?」
「つづら?ああ、あの生けもののことか?……なに、この非常事態に若さまも納得されてのう。うまくいくかどうかはわからぬが、ミイさまのお力にすがってみようということになった。
あのつづらごと天井裏に持っていったのじゃ。しかし、今のところ反応がまったくない。やはり、ご助力は得られなかったのかのう、せっかくささげた生けものが食われ損じゃ……あっ、おぬし、いったいどこへ行く?上にひとりで行っては命があぶないぞ!」
みなまで聞くまえに、カナコは天井裏にかけだしていた。




