25.物置部屋(3)
思わず声を上げるトカゲをゆかいそうに見て、大ネズミは
「まあ、こんな小さな紙細工さんがよくここまでやってこれたわね。
——ごきげんよう、あたしはこのあたりのネズミをまとめているものよ。『御大将』なんてよばれているわ。せっかく遠くからいらっしゃったのは残念だけど、この物置部屋はあたしどもがもう制圧したわ」
そう言われてまわりをよく見わたしてみると、カナコの周囲にはかみちぎられた人形たちの破片が散らばっていた。
白磁器人形の練ガラス製の瞳、レースやフリルのついたドレス、シンバルたたきのお猿さんの手や、ねじ回しじかけのフラフープ人形のカケラ……などが無残に散らかっている。どうやら、ネズミの頑丈な歯はブリキや超合金のロボットたちも容赦なくかみくだいてしまったらしく、ピカピカした金細工の部品もちらばっていた。
まさか、たすけをもとめに来た物置部屋がすでにネズミたちに征服されたあとだったなんて。
(早くみんなに伝えなきゃ!)
あわてて元の穴に逃げ出そうとすると、そこにはすでにシッポをふるわせたネズミのすがたが幾匹かあった。
すでにカナコのまわりは無数の光る眼に取り囲まれていたのだ。
カナコに近づいてきたネズミの御大将は、優美な声とふつりあいな、なんともまがまがしい顔つきをしていた。
(あれ?でも、どこかで見たような顔……)
「お気の毒だけど、行かせるわけにはいかないわ。今あなたに帰られて、あたしたちの情報を蔵の人形どもに伝えられてはこまるもの。あたしはなんとしてでも、あの女雛をガリガリしてやりたいの」
そのことばからは、敵意がにじみ出ていた。
「……なんで、あなたはそんなにお姫さまがにくいの?」
カナコの、ふるえながらの問いに
「なぜって、当然でしょう?ネズミは人形をかじりたいと思う生きものだわ。……あれ?しかし、そういえばおかしいわねぇ。たしかにあたしはどの人形よりもあの女雛が憎い。かじりつくしてやりたいと思っているわ。
なぜかしら?きれいな顔をしているから?色とりどりの十二単を身にまとっているから?かわいい人形たちにかしづかれているから?——いや、ちがうわね」
ガリガリの御大将は自分でもふしぎそうにぶつぶつ言っていたが
「まあ、そんな理由はどうでもいいわ!あたしはただあの女雛を 砕々(つだつだ)にかみくだいてやりたいの!そのために、あなたにもここでいなくなってもらうわ!それ!かじっておやり!」
御大将の指示にしたがってネズミたちがいっせいにちいさな折り紙トカゲにおそいかかる。




