24.物置部屋(2)
(いけない。もう蔵はネズミたちにおそわれちゃう)
とはいえ、今カナコが蔵にもどったからと言って何の助けにもならない。それより早く物置部屋に助けをもとめに行ったほうがよいはずだ。
蔵を心配しつつも、前に進むことをカナコはえらんだ。
そうして押絵人形ののこした跡をたよりに暗い細道をひたすらに進んでいると、にわかに広い場所にぬけたのがわかった。
——ここが巽の物置部屋だろうか?
だろうか、というのはまったくのくらやみで、ようすがまったくわからなかったからだ。窓や明かりもない、すっかり閉めきられた空間らしい。昼間、ユウジと屋敷のなかを回ったときも、こんな部屋に気づかなかった。ただ、ここで犬の押絵人形ののこした跡はとぎれている。
どうしたものかと、折り紙細工のトカゲがとまどっていると
「——あら?このようなところにどなたかいらっしゃいまして?」
くらがりのなかから、かぼそく優美な声がした。
カナコはあわてて
「あっ、すいません。かってにおじゃましまして。こちらは巽の物置部屋でしょうか?」
「……ええ。そうですが、あなたは?」
ほっとした。やっと目的の場所にたどりついたのだ。
「失礼しました。あたしは乾蔵からお姫……女雛様からお手紙をあずかってやってきましたカナ……千代紙細工のトカゲです」
「あら、紙細工のトカゲさん?それはごきげんうるわしゅう。あたくしはこの物置部屋の主でございます。乾蔵のお姫さまからお手紙とは、なにかご用かしら?」
すがたは見えないが、その声はうれしげだ。
「はい、実は乾蔵は今ネズ……ガリガリたちに攻めこまれようとしています。それをふせぐために、ぜひ物置部屋の屈強なお人形さま方に支援をお願いしたいというお手紙です」
「あら。蔵ではネズミのことをガリガリというの?言いえて妙ね、うまい言い方だわ。あたしも今度そう呼んでみようかしら」
声はおかしげに言うと、しかし続けて
「……でも、ほんとうにネズミがそんな悪いことをするのかしら?あたくし、それは不審だわ。あのかわいらしいネズミさんたちがそんなひどいことなさるとは思えないの」
カナコはおどろいた。
「かわいい」ですって?このお嬢様人形はいったいなにを言っているんだろう?世間知らずにもほどがある。
ネズミは人形にとってなによりもおそろしいもののはずだ。なにせ、自分たちをかじりこわしてしまう生き物なのだから。
カナコがそのことを伝えると
「う——ん、でもそういうことは、しかたないことじゃないかしら?だってネズミさんはガリガリするのが本能、いわば神様がおあたえになった仕事でしょう。その仕事をただ行っているだけなのだから、だれにもそれを止める権利などないと思うのよね」
「そんな!お仲間の人形がかじられてしまってもかまわないというんですか?この物置部屋だって、いつおそわれるかわからないんですよ!」
思わずカナコが大きく声を上げると、くらがりの声は楽しげに
「あら。そんなことおっしゃられてもこまってしまうわ。だって、この物置部屋にいる人形たちは、もうすでに——かじりつくされてしまっているのだから」
「えっ?」
ぽん、とカナコの前に放り投げられたのは、無残にかみちぎられた人形の足だった。
そして暗がりから、ぬいとすがたをあらわした大きな影は可憐な西洋人形などではなかった。とても体の大きなドブネズミだったのだ。
「きゃあぁぁっ!」




