23.物置部屋(1)
カナコは暗く、細長い梁の上を慎重に歩いていった。
トカゲといってもしょせん中身は人間なので、暗いところを見る目はそんなにすぐれていない。ただ、下に水がたまっているらしいことはわかる。落ちてしまったら紙製の自分はひとたまりもないだろう。おそるおそる足をはこんだ。
今ぬけ出た蔵の漆喰壁と床のあいだにできた細長いすきまは、たしかに折り紙細工のカナコにしか通り抜けられそうにないせまさだった。
今は体が破れてしまってできないが、かつては犬の押絵人形がこの手紙のお使い役をしていたらしい。そのとき通ったあとがホコリの上にうっすらのこっているので、それにしたがってカナコは進んでいた。八重からあずかった姫さまの手紙は、胸の折り目にちゃんとはさんで入れてある。
ただただ暗くカビ臭い空間を歩いていると、たまに小さな虫や蜘蛛に出くわしてびっくりすることもある。それらはカナコをおそれて、ぱっと逃げ出す。
(——もお、あたしは本物のトカゲじゃないから、あんたたちなんて食べないわよ。失礼しちゃう)
気を張りつめて進んでいるから、なにかに出会うたびに胸がきやきやした。
巽の物置部屋にたどり着くための道はとても入り組んでいて、梁や柱、壁のあいだなどを、それこそ迷路をぬけるように進まないといけない。
壁のきわをすすんでいると
がたり。
物音がして、カナコは身をふせた。
すぐ上の梁を通るのは……
(ガリガリだ!それも二匹!)
ドブネズミが二匹、のんきにチュウチュウ話をしながら自分の真上を通っていく。
「——おい、急ぎの招集がかかったな。なんでだ?」
「あん?知らないのか、おまえ?乾蔵にチュウノスケが潜入したという話」
「それなら聞いたぞ。なんでも、うまいこと二階まで上がったっていうじゃないか。女雛のすぐそばにまで近づいたって」
「ああ、男雛に邪魔されておそうことはできなかったらしいが……ただ、おかげで乾蔵の外壁はもうかなり弱くなっているということがわかったんだ。
それで、ついにウチの御大将が乾蔵に一斉攻撃をしかけることにしたのさ。だからみんな集められている」
「へえ、大戦だな」
(一斉攻撃!たいへんだ、はやく人形たちに知らせないと)
「——でも、なんでウチの御大将はあの女雛のことがあんなにきらいなのかな?封が開いて表に出たと聞いたときなんて、腹を立てすぎててまわりの家来をふみちらかしたっていうじゃないか」
「さてな。なにせ女雛をつかまえたら、ずたずたにかみくだいてやると息まいてるな」
「オレはあの男雛のほうがよっぽどいやだけどな。槍とかでついてこられたらたまったもんじゃねえよ」
「たぶん、きれいなものがきらいなんじゃねえか?なんたってウチの御大将のお顔ときたら……」
「おい、それくらいにしておけ。それ以上のことを御大将がお聞きになったら……」
「おうおう。オレたちの方が先にずたずたにされちまうな。ムダ口たたいてないで早く部隊に集合しようぜ」
ネズミたちは、梁を乾蔵の方向にチュウチュウと駆けて行った。




