22.ふたたび蔵へ(11)
「たのみ……ですか?」
「そうじゃ。現在わが蔵はたいへんな危機にある。若さまはああおっしゃっておられるが、正直われら日本人形の力だけでガリガリどもの攻撃を防ぐのは、もはや不可能じゃ。かと言って、たしかにミイさまに力をかりるのははばかられる。あの方はガリガリ以上にあやうい方じゃからな」
「じゃあ、どうすれば?」
「ふむ。実はこの屋敷にはこの乾蔵以外に人形がしまわれておる場所がある。巽の物置部屋じゃ。そこにはわれら日本人形とは造りが異なる西洋人形たちがしまわれておる。われらは彼らに協力を願おうかと思っておる。この古い日本人形の乾蔵とちがって、あの物置には舶来の金細工人形……ブリキやら超合金などともうす丈夫な人形たちも多くおるからな。助力をいただければ百人力じゃ」
「それは、若さまもご存じなんですか?」
「いや、若さまはご存じない。なにせ、あの方は蔵のことは自分たちで守りたいという強いこだわりがおありになる。とはいえ、もはやこの蔵は存亡の危機じゃ。同じ人形に助力を願っても恥にはなるまい。わらわらおつきのものはそれを姫さまによくよく申し上げて、なんとかご承知いただいた」
「姫さまの?」
「そうじゃ。そしてこれが、姫さまが物置部屋の主であるお嬢様人形へご協力をねがった手紙じゃ」
そう言ってふところから小さな書状を出した。
おそらく、姫さまがひな道具にあった小さな筆でさらさらと書きしたためたのだろう。
「もともとお嬢様人形と姫さまは親しい間柄。共同でガリガリとたたかう申し入れをして、否とはおしゃるまい。ガリガリどもが脅威であるのは西洋人形にとってもかわりないのでな。
……しかし、そこで問題となるのがこの手紙をどのように巽の物置部屋まで届けるかじゃ。なにせ、いまこの蔵のまわりにはガリガリどもがひしめいておる。その囲みにつかまらないように手紙を届けるのは至難のことじゃ」
「はぁ……」
なんだろう、いやな予感がする。
「実は、この蔵と巽のあいだにはこの蔵の人形たちですらほとんど知らぬ秘密の抜け道がある。そこを通っていけば、ガリガリに見つからず物置部屋にたどり着くことが可能じゃ。
ただし、その道はとても細く、並の人形ではつっかえてしまう。それこそ、紙細工のような細長い体のものにしか通りぬけることができぬ」
カナコは、つばをゴクンとのんだ。
「ぜひおぬしに使者に立ってほしい。さもなくば、われわれはミイさまにあれをささげて助力を願うしかなくなってしまう」
八重がちらと目をやったつづらを、カナコはじっと見た。
——自分が行かないと、ユウジがささげられてしまう。
こわくてしかたないけど、選択肢はほかにないようだ。




