表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人形蔵ものがたり  作者: みどりりゅう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/39

17.ふたたび蔵へ(6)

 しばらくすると、そんな自分をじっと見つめる人形が一体あるのに気づいた。


 赤い腹掛けのみの裸稚児人形だ。仕事をすることもなく、ふくふくとした顔ですわって、新参ものの折り紙人形を興味ぶかそうに見つめている。

 カナコと目が合うと、にっことして立ち上がり近づこうとしたが


「あら」


 うまく立ち上がることができずに、すてんと転んだ。

 おもわずカナコが駆けよって抱きかかえると

「おや?」


 どうも、関節部分にほこりがたまってうまく動かないようだ。


「かわいそうに」

 ぬぐってやろうとしたが、紙屑では関節の中に入らない。


 しかたないのでカナコは自分のトカゲのしっぽの先の方、千代紙が山折りにとがっているところをつかむと、稚児人形の関節にあてサササッとつまったほこりをかきだした。


「どう?」


 ためすと、稚児人形はとどこおりなく立てるようになって、とてもよろこんだ。


「ふうふうふうふう」

 と、ほおをカナコにすりよせてくる。


「やだ。そんなにされたら、あたしの紙がすり切れちゃうよ」


 二体のようすに、まわりの人形たちはすっかりおどろいていた。

 そして、おそるおそる「おれの関節もふいてくれないか?」と言ってきた首ふり人形の首のごみをカナコが取ってあげると、ペコペコ頭を下げられてよろこばれた。

 どうも、箱の中に入れられず、ただ蔵の棚に置かれていた人形たちは、みんなすっかりほこりがたまって動きがわるくなっているらしい。

挿絵(By みてみん)

 そのあとは大変で、ほこりのつまった人形たちが、われわれもとばかりにカナコの前にならんだ。

 けっきょくカナコは十体ほどの人形の関節にあったほこりをすべてとりのぞき、おかげでそのシッポはすっかり真っ黒に汚れてすり切れてしまった。


 そんなトカゲ折り紙に、お多福人形は

「あんさんは奇特な人形どすなぁ」

 と、あきれていた。


 どうやら人形たちにとって、ほかのもののために自分のシッポがよごれいたむことをいとわないカナコの行動はおどろくべきことであったらしい。

 カナコにしてみれば、この折り紙のすがたは一時の借り物にしかすぎず、人間であることがばれなければいいのだから、気にするようなことではなかったのだが、人形にしてみればたった一つしかなく代わりのきかない自分の体をそんなことでよごすことは考えられないことだった。


 とにかく、おかげで人形たちのカナコに対する印象はぐんとよくなった。


「トカゲちゃん。そんな暗いところじゃなくて、明るいところにおいでよ」

 と、一番良いところに席をゆずられるほどだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ