14.ふたたび蔵へ(3)
するどい声とともにすがたを見せたのは、狩衣・烏帽子をまとった高貴な公達人形だった。
男雛だ。
昼間の箱では見かけなかったけど、封印を解かれた女雛と対をなすものにちがいない。後ろには若者と老人、ふたりの随身人形がついていた。
「これは若さま。また、いかがして、かようなおそいころに外へ?」
藤波が頭を下げて申し上げると
「決まっておるであろう?朝霧丸の探索じゃ。それに見回りもあわせてな。なにぶん、いつガリガリどもが攻めてくるやもしれぬのでな」
——アサギリマルって、なにそれ?おすもうさん?それにガリガリって?アイス?
「若さまみずからのお見回りはお危ないともうしたのですが……」
白髭をなづりながら言う老人随身に
「爺は、気苦労ものじゃ。蔵を守るのは男人形として当然のつとめじゃぞ」
「ははあ」
どうも、男雛はきれいな顔に似あわず血気盛んな人形らしい。
カナコに目をやると
「そのトカゲはどうした?……なんじゃ、奉公?そやつを蔵に入れる気か?ならぬ、ならぬ。そのように見てくれの悪しい、むくつけなものが居っては姫も気疎がられよう」
と、よけいなことを言う。
しかし
「そうではございましょうが、なにせ今はお節句に向けまして雛道具をみがく手が足らぬと、双葉どのも申しております」
藤波のとりなしに
「う——む。そうか、ならばやむをえんか。——そうじゃ、折り紙の体というのはちょうどよい。その身をつかって道具を拭かせればよいではないか。その身が破れるまでつかってやれ」
と、乱暴に言い放った。
いやなもの言いだ。この若さまは気が荒い。
しかし、おかげでなんとかカナコの蔵づとめは認められた。
「ではよいな。余はもう参る。ついてまいれ」
「はは」
と、三体の人形は外に出ていった。
「……おゆるしが出て良うございましたね、では中に入りなさい」
官女につれられて、カナコはふたたび蔵に入った。
弟を助け出すために。




