11.はじめての蔵(11)
「そんな!人間が人形の世界につれていかれちゃったっていうの!そんなばかなことあるわけないでしょ!」
「そのようにおっしゃられても、実際につれていかれてしまったものはどうにもなりませぬ」
カナコはあまりにみょうな事態にあたまが大混乱したが
「う——————っ」
と、さんざんうめいて髪の毛をかきみだしたすえに
「——そうか」
と、なんとか事態を受け入れた。
なんといっても、まわりのオトナのだれもカナコの言うことに耳をかしてくれないなか、まともに話がかみ合うのは、目の前のこの不細工な土人形だけなのだ。どんなにおかしいことを言われても、それを受け入れよう!
そうわりきったのだ。
「どうやったらユウジをつれもどせるの?あの蔵の中のどこかにいるんでしょ?」
「もう、ふつうにあなたが蔵をお探しになっても見つかりますまい。なにともうしても、弟君はもう人の世のものではなくなっておしまいなのだから」
「そんな!じゃあ、いったいどうすれば?」
「方法は一つ。あなた自身が、あの蔵の内裏の世界にもぐりこみ、弟君をさがすのです」
「内裏の世界にもぐりこむって……いったいどうすれば?」
「それはもう。人形になるのが一番よろしいでしょうな」
「ヒトガタって……人形になるってこと?そんなの無理に決まってるじゃない」
「なに。そんなにむずかしいことではおりゃぬ。なにせ、この家には良き皮がたくさんありますのでなぁ。たとえば、ほれ、そこにある細工などようござる」
土人形がゆれながらしめすのは、棚に飾られた古い千代紙製の折り紙細工だ。
奴や鶴といったよくある細工のなか
「やあ、あれなどは、あなたにちょうどよいのではござらぬか?」
と、しめすのは、かわったトカゲの折り紙だ。
「——ほれ。こうやってかぶったみたら、もう……」
と、目の前にいるのは土人形、でも、えっ?あたしより大きくなってる。いったいどういうこと?
自分の体を見わたすと、手も足も鹿子模様……って、えっ?
あたし、折り紙のトカゲになっちゃった!
「そのすがたで、蔵の中に潜入なさいませ。そして弟君をおつれもどしめされよ」




