ゆめの中へ。
「速報です。本日未明、〇〇区〇〇町で交通事故が発生しました。この事故で亡くなったのは、...」
息を呑む。いや、息が出来ないと言った方が正しいか。目には見覚えのある名前が飛び込んできた。僕の記憶に強く印象付けられている名前を聞き逃すはずがない。そして、天井を仰ぎ、こう嘆く。
「全部、夢だといいのに。」
いつもの朝だ。いつもの回転焼き屋にいつもの地域会の旗振りのお姉さん、
「あのお姉さん、今日も可愛いな」
我ながら気持ちが悪いと思っているが、心の中では何を言っても許される。
そう、脳みその中までは誰にも干渉されないのだ。そうこうしているうちに学校に着いた。
僕は西都高校に通う3年。地元では自称進学校というやつだ。最近周りの奴らは受験まっしぐらだが、僕は違う。僕にも一足遅い青い春が来たのだ。そう、3年にして好きな人ができた。
彼女は文系棟3-Dにいる、僕にとっての生きがいである。彼女のどこが好きかって?あのくりくりしたお目目、きゅっとした唇、それにペンギンのようにいそいそしたしぐさが堪らない。今日も生きてて良かった、そう思いながらニヤニヤしている僕に誰かが話しかける。
「どーかしたのか、お前っていつも変な顔してるよな。」
「これが俺の天から授かりしお顔だ。」
それを聞き、真顔でこっちを見ているのは、齊藤光太、僕の中学からの友人だ。
「で?どーなんだ、いつもの天使ちゃんは」
「今日はいつにも増して、、んぁん」
「お前ってどうかしてるよな」
そう言って少し軽蔑した目を向けながらも笑ってくれる、僕の唯一の友達だ。
「あ、次は数学だったな」
今日も僕の大嫌いな授業は始まる。
「そのため、ここにメネラウスが使えて、解が出せるというわけだ。はい、なにか質問ある奴。おう齊藤なんだ?」
「先生。ここがk...」
「私ね、怖いの。いつも自分の大事な何かを失っているみたいで。それを忘れているだけなのかもしれない」
あ、誰だあれ。こんなとこでなにしてんだ。
「おーい、おーい」
彼女はボヤけて薄くなっていく。なんだろう、感じたことの無いこの喪失感は。堕ちていく、暗闇の底へ、光の始まりへ。
「おい、お前聞いてるのか!」
チャイムがうるさく鳴る。
「あ、あぁなんだ、夢か。」




