戦国の悪魔
【殺しの螺旋】
欲望を満たす為に人が人を殺す!
人殺しが奪い合い…
人殺しが略奪を楽しむ!
弱い者は踏みにじられ
親が子を食らい子が親を殺す‼
ここでは善悪の存在は無い…
殺さなければ殺される
狂気の世界!!!
この世の地獄!!
まともな者は生き残れ無い…
戦国と言う名の悪魔に
愛された者だけが生き延びる…
修羅の世界…
それが…
戦・国・時・代
【第六天魔王】
いつもの様に道場で、尾張の虎と呼ばれる武将 織田信秀の怒鳴り声が鳴り響く!
「何度も言わせるなぁー!! 腰が引けてるだろぉー ! 」
バシッ
まだ幼い、息子の織田信長を竹刀で叩く…父の稽古はいつにも増して厳しい。
「さっさと 打ち込んでこい!」
バシッ
手加減してるとは言え 子供には耐え難い竹刀での打ち込み稽古に、たまらずうずくまる信長。
「ヒッヒックヒッ~いたぁいっヒッ~ヒック~ッ」
「いちいち泣くな~!泣き止む迄打ち続けるぞぉ~!」
バシッ
バキッ
「もう …ダメァ~ヒックッヒッヒックヒッゆる…してヒックゥ~」
泣きながら許しをこう信長を見て、自分はいったいどこで この子の育て方を間違えたのかと考える信秀…
しばらくすると、何も言わずに道場を後にした。
誰も居ない道場で、一人泣き続ける信長…
「いたいょ~ なんでぇ… ヒックヒッヒック~ひどいウッウゥ~ 」
尾張の虎と呼ばれ勇猛で知られる武将の嫡男で産まれた信長に父は期待していた。
だか剣術の稽古を始めて何年も経つが信長の腕前は一向に上がらない。
信秀は何とかして信長を強い男に育てたかった、腕前の上がらない信長に自分の指導が悪いのかと焦りから稽古はどんどん厳しくなる、当然信長はついて行けない…
それでも信長は、父の期待に応えようと努力した…幼い信長の手はマメだらけだ、父に認められたい…その一心で手のひらから血が流れても竹刀を振った、認められれば父に愛される…
ただ其だけの為に、親の愛情に飢えた信長は頑張った。
だが信長の腕前は人並み以上にはならない。
人並み以上を求める父!
「こんな事が、何故出来ない‼」
人並みがやっとの息子!
「こんなに頑張ってるのに酷い…」
嫡男に期待していた信秀の落胆は思った以上に大きかった、信秀はだんだん道場に顔を出す機会が減っていき…いつしか顔を出さなくなった。
父に背を向けられた信長は、自分を見棄てた父を怨む様になっていき親子の情は薄れていく…
父と子の間に出来た小さな溝は時と共に広がり、何時しか谷底の様に深くなっていく……
父親に見棄てられ傷ついた子供の信長が母親に甘えたいと思うのは当たり前の事…
弟の信行が母親の土田御前に甘えて楽しそうに話している。だが信長はそれを羨ましそうに眺めているだけで母に近づかない…
信長は母親に嫌われているのを分かっていた、可愛がられる事は無い近寄れば嫌な事を言われ追い払われる…
母親に近づけば、自分が傷付くだけだと知っているからだ。
母親の土田御前は、次男が産まれた頃から嫡男の信長を毛嫌いし兄の分の愛情も弟に注ぐ様に信行を可愛いがった。
嫡男の信長が産まれた時は、涙を流して喜んだ御前…
武将の正室なら何よりも跡継ぎが宝である目に入れても痛くない位 可愛がり大事にしていた…
それだけに信長が傾奇者だと早い時期から気が付いて、信秀様に申し訳ない…会わす顔が無い…と思い悩んでいた。
普通は息子が何であれ愛するのが母親、しかし戦国の世で大名の正室になれば家督を継ぐ嫡男は自分の命より大事、それがよりによってホモセクシャル…
厳格な武家育ちの土田御前にはそれが許せなかった。
信長がクネクネ踊ったり女装が好きなのを見る度に御前は苛立ち…しだいに信長を拒絶し憎む様になる。
父親を怨み、母親の愛情を諦めた幼い信長の心には… 黒くて深い傷が出来た‼ そしてその深い傷の奥で…
悪魔が目を覚ます!!!
信長が元服する頃には、尾張の大うつけと民百姓や家臣にまで陰口を言われる様になっていた…理由はその振るまいと出で立ちだ。
城での生活が息詰まる信長は、鷹狩りに行くと言っては城下町で傾奇者達と遊んでいた、その中には前田利家と言う恋人もいる。
ここでは誰も信長を叱らない、むしろ やりたい放題…
傾奇者の信長は女装に脇差し姿、その周りには厚化粧で信長の様に女装をした男達や大鉈や大槍を持って毛皮を羽織る男装の女達がたむろしてる。信長は町の傾奇者達のカリスマ的存在だ。
信長が城下町に行くと、傾奇者以外にも権力に媚を売る悪党や行き場の無い浪人が群がる、そんな連中と城下町でやりたい放題の信長は自ら心をどす黒く染めていく…
※参考文献
朝尾直弘『天下一統』小学館〈大系 日本の歴史 8〉、1993年。ISBN 978-4096220085。
朝倉治彦 三浦一郎 『世界人物逸話大事典』 角川書店 1996年2月 ISBN 978-4-040-31900-1。
天野忠幸、2014、『三好長慶 諸人之を仰ぐこと北斗泰山』、ミネルヴァ書房〈ミネルヴァ日本評伝選〉 ISBN 978-4-623-07072-5。
天野忠幸、2016a、『三好一族と織田信長』、戒光祥出版〈中世武士選書〉 ISBN 978-4-86403-185-1。
天野忠幸、2016b、「有岡城の戦い」、渡辺大門(編)、日本史史料研究会(監修)『信長軍の合戦史』、吉川弘文館 ISBN 9784642082976。
新井白石、村岡典嗣(校訂)、1936、『読史余論』、岩波書店〈岩波文庫〉 ISBN 9784003021224。
池上裕子、2012、『織田信長』、吉川弘文館〈人物叢書〉 ISBN 9784642052658。
井原今朝男、2014、『室町期廷臣社会論』、塙書房 ISBN 9784827312669。
今井林太郎、1985、「信長の出現と中世的権威の否定」、藤木久志(編)『織田政権の研究』、吉川弘文館〈戦国大名論集17〉 ISBN 4642025979。初出:『岩波講座日本歴史』9近世1、1963年。
臼井進、2015、「室町幕府と織田政権との関係について -足利義昭宛の条書を素材として-」、久野雅司(編)『足利義昭』、戒光祥出版〈シリーズ・室町幕府の研究 第二巻〉 ISBN 978-4-86403-162-2。初出:『史叢』54・55号、1995年。