依頼がようやく終了しました
「ミネガル先生。言いたいことは分かりました。それにアマミちゃんのことを心配してくれて有り難うございます。ただ、一点だけ言わせてください。」
僕は立ち上がる。ミネガル先生も目を開きこっちを見た。
「僕も何度か言っていますがちょっと過激すぎませんか?アマミちゃんの前でウサギの首を飛ばすことだってそうです。その様な教育方法ではアマミちゃんはそのうち心が壊れます!!その度その度誰が苦労するかわかっていますか?」
僕はミネガル先生を睨めつける。
「まあまあ、今回の依頼を受けてミネガルさんの性格も分かっているから。ミズハさんも落ち着いて…な?」
「落ち着いていられません。こうなっちゃうと本当に大変なんですよ?どうしてくれるんですか?」
ミカオさんがフォローしに入ったので僕はそっちに噛みついた。
「ミズハさん…大丈夫です。…有り難う御座います。後、ごめんなさい。」
「アマミちゃん?大丈夫?謝らなくて良いよ?別にアマミちゃんが悪い訳じゃない。」
「皆さんに心配かけました。私はもう大丈夫です。」
アマミちゃんは手で両手をこすりアゲちゃんを拾って立ち上がった。両目は真っ赤である。
「まだ、やらなければならないことがあるんです。ここでくよくよしていたら駄目なんです。」
そう言って、アマミちゃんは異空間から箒を取り出しアゲちゃんを異空間の中にしまった。異空間の中では生命体は生きることが出来ない。即ちアマミちゃんはアゲちゃんが死んだと受け入れたことになる。
「ミズハさん。帽子を有り難う御座います。乗ってください。」
アマミちゃんは僕の頭の上に乗っていた魔女帽子を取り再び被る。アマミちゃんが箒に乗って若干浮かび上がったので、僕も後ろに横座りで座る。
「ミズハ君、アマミ。一応参考程度に伝えておく。メガアゲハは物凄く希少種だ。私が調べた限りでも羽のリンプンを売るだけでかなりの値がつく。ましてや1匹そのものをギルドに売れば相当の見返りがあるだろう。参考にして欲しい。」
「はい。教えて下さり有り難う御座います。」
アマミちゃんはきちんとお礼はしたものの僕自身は何故このタイミングで言うのか全くの疑問であった。また何か試されている感じがする。イライラした自分と頭をフル回転させている自分がせめぎ合っている。
「ミズハさん。捕まっていてください。」
僕が両手で箒を掴むか掴まないかの瀬戸際で一気に飛び始めた件。僕を突き落とすつもり?!まあ、何とか落ちずにすみました。そして眼下では以下のような会話が繰り広げられていたらしい。まあ、厳密にはミネガル先生が何かまだ隠しているんじゃないかと言うことで、ミネガル先生の近傍の音だけ少しの間遠くからでも聞こえるように魔法を使っていたんだけど。所謂遠隔盗聴魔法である。
「はぁ…最後はとっとと飛んでいくのか。全く、いつものことだがよく分からない生徒だ、アマミは。」
「まあミネガルさん。恐らく彼女はああいう子なんだと思います。1週間弱過ごしましたが、息子の言っていたことも分かります。」
「フロウミのことかい?何と言っていたんだい?」
「息子に秘密にするように言われていまして。」
「そうかい。なら無理に聞きやしないさ。…私の教育方法は間違っていたのかねぇ。今までこういう風に教育していても何も言われなかったから些か自信を失っちまったよ。」
「そう言うと言うことはミネガルさんは何かしら間違っていると気付いたのではないのですか?私としてはそれでも充分だと思いますよ。」
「と言うと?」
「頑固者は誰に何と言われても自分を常に正当に扱い他人の意見なんて聞かないものですよ。そう言う先輩や後輩も見てきましたからね。大抵そう言う人は駄目な人ばっかりでしたけど。」
「ハッハッハ。獣人のあんたに言われちゃこっちもお仕舞いだわね。と言うことはあれかい?私はいわゆる駄目な人間じゃないと言うことかい?」
「ええ、そう思います。何せ、飛び去ったミズハさんとアマミさんを見てみてください。この一週間でかなり成長したと思いますよ。ミネガルさんが機転を利かせて色々指導した賜物だと私は思います。特にアマミさんは。」
「そうかい?私は特に何もしていないさ。まあ、強いて言えばあの子達が成長出来る場を作って上げたくらいさ。全く、まさか生徒やその兄に色々学ばされるとはね。つくづく教えるのは大変だと思うわ。」
「教える側も教える側で大変なんですね。」
「だから面白いって言ったもんだい。アマミを教えているとそこが意外と面白い。ミズハ君も冒険者育成学校の生徒として教えてみたいものだ。…いや、一員として教えることになるかもしれないな。」
「それはどう言うことですか?」
「ああ、もしかしたら…と言うかそのうちあの子宛に連絡が行くだろうよ。冒険者育成学校の臨時講師をお願い出来ないかってね。おっと、これは内密の話だったな。ミカオさん?くれぐれも誰にも話しちゃいけないよ?フロウミにもだ。」
「そうか…あの子が教師か…息子も喜びそうだね。」
それ以降、二人の話が聞こえなくなったので、盗聴魔法の範囲外になったかないしは二人の会話が終わったため立ち去ったのかも知れない。盗聴魔法を切った僕は、盗聴したことについて頭を抱えながらアマミちゃんを横目で見るのでした。こうなったの全部君のせいだからね!ところで、今さら間だが商人に呼び止められていた気がする。…まあ良いか。