事後処理
「そうだね。僕も仲間のために動かないとね。」
「ミカオさんも無理しないで下さい。左腕が傷だらけです。」
「私は獣人だからね。片腕でも多少ぐらいなら運べるさ。」
「ミカオさんはさっき気づいた感じですか?僕らが到着したときにはミネガルさん以外全滅でしたので。」
「うん?うーん、まあそんなところかな。死んだ振りしている仲間もいたかもしれないけどね。」
と言うことで、ミカオさんは仲間を運ぶために去っていった。
「リネーラさん。相談があります。」
「相談?」
「もしこれから僕が山賊の拠点を尽く全て破壊しに行くと言ったら止めますか?」
「え?そうね…普通に考えて不可能でしょうけど、今は依頼の途中だからそれは流石に無理なんじゃないかしら。」
「分かりました。」
やっぱり、大人の事情で動かないと言う判断らしい。僕的にはどうしたら良いかもう分からない。害虫は始末したい。とはいえ、害虫を始末しようとしたらきりがない。範囲を広めるとまだ多量の拠点があるのがわかる。アマミちゃんじゃないんだしワザワザそこに虐殺するためだけにそこに赴くのはただ単に非効率という感じである。と言うことで、僕やリネーラさんは商人を呼ぶために雑木林の方に向かうことにしました。そして2時間後には生き残った冒険者は全員立ち上がり下山のための準備をしている。山賊らは生きているものは全て縛り上げ荷馬車の一角に詰め込んだ。敵味方問わず生きているものは全員完全回復している。腕や足が取れた人も四足まで完全に元に戻っている。アマミちゃんの治療魔法恐るべし。
「ミズハさん。ミズハさんはお怪我は大丈夫ですか?」
「うん?僕は大丈夫だよ。アマミちゃんこそ大丈夫?あまり言いたくないけど、アマミちゃんも相当攻撃されていたし。」
「はい、大丈夫です。ミズハさんの方こそ血だらけです。」
「これは反り血だから気にしなくて平気だよ?」
「私は清潔の方が好きなので綺麗にします!」
と言うことで、僕自身は最後ではあるが服装を綺麗にして貰った。なお、死体も積んである。厳密に言えば仲間の死体だけだけど。死体は全て綺麗になっており一見全て眠っている感じである。ここら辺もアマミちゃんの魔法である。最も、アマミちゃんの治療魔法は生きている者であれば治癒ではあるが物や死体に関しては修復で分類される。要はバラバラ遺体があって、それを治療した場合綺麗な人形には戻るが生き返ることはしないと言った形である。とかなんとか言っているうちに荷馬車は出発した。最早荷馬車は冒険者や山賊を運ぶための物となり、荷物はほぼ全てアマミちゃん行きである。
「ミカオさん?結局今日は麓の村止まりか?」
「その様にするつもりです。山賊の後始末に少々手間を費やしました。」
ミカオさんとミネガル先生が荷馬車の出入口を挟んで会話している。なお、冒険者の犠牲者は10人ぐらい。半数程度が犠牲になってしまっていた。リーダーこそ全員生き延びたが、パーティー全員が生還したのは僕とアマミちゃんパーティーだけである。各々色んな思いがあるのだろう。そろそろ村まで到着だというのにかなり空気が重い。商人や御者は空気を読み取ってか殆ど何も話をしない。僕とアマミちゃんも荷馬車の中で休憩している。アマミちゃんはアゲちゃんのお世話…まあ見ているだけなんだけれど…をしている。
「それにしても、私は良く生き延びたものだね。鈍器のようなもので殴られたような覚えがあるんだがね。」
「それ言ったら、ミネガルさんは生徒に頭上がらなくなっちまうな。」
「どう言うことだい?」
「本来ならばミネガルさんは死んでたはずだぜ?アマミがミネガルさんへの攻撃を殆ど防いでいたからな。感謝だな。」
「うん?詳しく聞かせなさい。」
山賊の襲撃後あまりに後処理が忙しすぎて生き残った冒険者は簡易的な情報交換だけで具体的なことは殆ど話していない。と言うより、最後まで立っていたのは僕とアマミちゃん、後ロックさんとリネーラさんだけなのでミネガル先生のパーティー内は全滅だった。そのため一番情報が行き渡っていない。
「まあ色々あったのよ。お話しましょう。」
リネーラさんが山賊に襲われてから何があったか事細かに説明していく。冒険者のメンバーが激減したため、外にはミカオさん含む数名だけ残し後は全て荷馬車の中である。敢えて少なく見せることにより荷馬車に大量の冒険者が潜んでいるのではないかと思わせる作戦らしい。話が終わるとミネガル先生は呆然とアマミちゃんを見ていた。
「アマミ?ちょっと話がある。着いてきてくれ。」
「…?分かりました。」
ミネガル先生とアマミちゃんは荷馬車から降りて隣の荷馬車に入っていった。
「どうしたのでしょうか?」
「まあ、先生の立場としては生徒に危ない事をするんじゃないと注意するつもりなのでしょう。ただ、生徒が命懸けで自分を助けたわけだし…ミネガル先生も複雑なんじゃないかしら?」
リネーラさんの偏見である。個人的に教師って大変なんだなといった感想だね。そう言えばアマミちゃんが独断と偏見で僕を冒険者育成学校の教師にしようと署名運動をしているんだっけ?変なフラグがたたなければいいけど…。それから暫くしてアマミちゃんが帰ってきたけど…何か複雑な顔していたけどこう言うときは放っといてあげるのが僕なりの配慮である。何か注意されたときは大体がその事象について整理していることが多いからね。ここで、何かしら声をかけると却って爆発する。なおアマミちゃんは誰にも目を会わせずアゲちゃんの世話をしていた。僕は暇なので外に出る。と言うより、村までの護衛は残り全部シフト上外だし。アマミちゃんも同じなんだけどまあ落ち込んでいるし良いか。
「全く、ミズハ君。君もアマミと同罪だよ。多勢に無勢で突っ込んでいくやつがあるかい。」
後ろを見るとミネガル先生がいた。
「ミネガル先生はまだ休憩では?」
「アマミが予想以上に落ち込んじゃってね。代わりさ。」
「あまりアマミちゃんを虐めないで頂けませんか?確かにアマミちゃんが一番頑張ったとは思いますが、その分一番ダメージも多いはずですよ?」
「予めだが、アマミよりも低いダメージで死んでいった仲間もいるんだ。全く、アマミのトンデモ行動には今後も悩まれそうで頭が痛いわ。」
「あまりダメなら僕が残りを教えますので学校から連れ帰っても良いですよ。互いに苦しい人間関係は互いに良くないと思います。」
「うーん、私の意見としてだが少しずつではあるがアマミも学校で落ち着きつつある。経過を見ても良い気がするね。」
「話が変わっていますよ?ミネガル先生らしくないです。」
「それはお互い様だね。何せ私のパーティーからも犠牲が出てしまった。リーダーとして何か出来なかったかずっと考えていてね。」
「充分仕事していたと思いますよ。まあ、僕はアマミちゃんの先生という目線でしか見ていませんけどね。」
それから僕らは無言のまま護衛を続けた。現状僕の頭の中に死んだ冒険者のことなど一ミリも入っていない。死んだら終わり。これが僕の概念である。そんなことより、アマミちゃんの行方の方が気になる。山賊共はおそらく間違えなく狙いは商人の荷物ではなくアマミちゃんだった。しかもどうやら懸賞金もついているらしい。原因は殆ど間違いなく魔女だから…である。異空間魔法という可能性も否定出来ないけどだったら捕まえるのがメインであり殺そうとは思わないと思うからね。魔女は人間には懸念されている種族。魔女を連れ去るために関係ない人間を皆殺しにしようとする思考回路は終わってるとは思うが、僕がこれからアマミちゃんに付き添うということは嫌でもそう言った正義に苦しめられることになる。最悪アマミちゃんもその正義によって孤立する可能性もある。今回は余りにも目に余ったので半殺しにしたが今後もこれで本当に良いのか疑問である。とりわけ相手が本当に正義を持って襲ってきた場合は。どうか魔女だとしてもこの世界で幸せに暮らせますように。そんなことを思いながら残りの護衛を続けていた。