収束
「アトハ…」
既に僕は仲間の力を全員把握している。即ち僕が理解していない力は全て山賊である。要は隠れていても無駄である。僕が剣を一振りすると目の前の木々が吹っ飛ぶ。一緒に土も浮かび上がる。そのなかにある人間の気配を浮遊魔法で強引にこっちへ飛ばす。
「「ギャー!」」
「ノコリ2」
「た、頼みます!!命だけは!!た、宝はいくらでも…」
ドカーン!!
そのうちの一人が青白い雷に打たれて倒れた。
「た、助けてくれーー!!」
最後の一人は土下座をしてまで命乞いをしている。下らない。僕はこれからこいつらの拠点をぶっ潰しに行かなければならない。ここから半径数キロないに所々人間が集まっている所がある。害虫は全て皆殺しにすることが正しいはず。僕は残りの一人に向けて剣を振り下ろす…
「駄目です!ミズハさん!止めるんです!もう十分なはずです!」
そこにアマミちゃんが割り込んできた件。山賊と僕の間に入り両手を広げて僕の前に立ちふさがっている。アゲちゃんはロックさんのところにいるものの、魔女の帽子はしっかり被っている。僕は寸止めで剣を止める。
「アマミちゃん?奴等は君を半殺し…いや、本来であれば君は数十回は死んでいるはずなんだよ?何でそんな奴等に慈悲があるの?」
「何でもです!ミズハさんは悪い人間じゃないはずなんです!悪人を殺しても悪人になるだけです!自ら手を汚さないで下さい!」
僕はアマミちゃんを見る。アマミちゃんも僕を見る。アマミちゃんの目には僕の顔が映る。僕の顔は予想以上に酷いことになっていた。目は白目黒目関係なく完全に水色に光輝いており眼球そのものが水色の光球になっている感じである。顔には誰かをぶったぎった際に受けたであろう反り血がベットリついている。この雰囲気ならばと、服を見ればやはり反り血をもろに受けていた。僕はアマミちゃんを見ながら完全に硬直してしまった。僕自身何度も化け物と言われてきた経緯がある。勿論、理由はただ誰かから能力を奪えると言ったものだけが原因。しかしその惨事が結局今の僕を作り出し僕自身を化け物にしてしまっていた。その現実を叩きつけられて、しかもそれを一番信頼しているアマミちゃん本人に直々に指摘されて…絶望なんてものじゃない。アマミちゃんに嫌われたかもしれない。もう一緒に過ごせないかもしれない。様々な恐怖が責めぎ合い、気付いたら涙が流れていた。
「み、ミズハさん?だ、大丈夫…」
その瞬間、アマミちゃんは後ろを振り向く。アマミちゃんの背中にはナイフが刺さって…あー、いや厳密には刺さろうとしていた。
「な、なぜ刺さらない!」
命乞いをしていた山賊が隙を見てアマミちゃんに攻撃を仕掛けていた。僕は再び剣を握りなお…いや、それよりアマミちゃんが山賊の方に振り向く方が早かった。
「そちらも止めるんです!まだわからないんですか!ミズハさんは自分が悪人になってでも…その結果皆さんから追放されることを知っていても…それでも良いから本気で戦ってくれたんです!しかも、既に本来であれば貴方達山賊なんて一瞬で全員で山の藻屑になるはずなのにそうならないように一生懸命頑張って止めてくれたんです!だから、ミズハさんは化け物なんかじゃないんです!だから私の声を聞いてくれて待ってくれていたんです!それすらも踏みにじるつもりですか!!!」
その瞬間、右の方で狼の遠吠えがしたと思ったら2m級の狼がこっちに突っ込んできた。その巨体は山賊に当たり最後の一人の山賊はそのまま左の方向へ吹っ飛んだ。
「え?」
アマミちゃんからはとぼけた声が聞こえた。こちらからは分からないが涙声のような気がする。僕自身は、アマミちゃんが僕を化け物認定しなかったこと…いやむしろ僕が化け物か否かについて完全否定してくれたこと、山賊の方を向いて僕を守ってくれるこのような行動、僕の行動すらも受け入れてくれた態度…色々なものが僕自身に責めぎ合い気付いたら僕は剣を落としてしゃがみこんで大泣きしていた。そしてまた気付いたらしゃがみこんだ僕に前からそのままアマミちゃんが抱き付いてくれた。アマミちゃん自身も良くわからないけど大泣きしていた。おそらく僕が無事だったからなのかもしれない。その様子を、山賊を吹っ飛ばした大きな狼はじっと見続けるのであった。