魔女の悲鳴
「先生!ミネガル先生!た、大変なんです!すぐ治療するんです!」
そして、アマミちゃんは自分より相手を優先してしまう癖がある。直ぐ様ミネガル先生の側まで走っていき魔法を展開して先生を治療し始めた。
「あ、アマミちゃん?!勝手に走っていかないで!」
「おやおや?あんた達を先に行かすわけには行かないよ?」
気付くと、僕らが3人は10人ほどの山賊に囲まれている。
「ッチ、気付かなかったぜ。おい、退けや!」
ロックさんが槍を振りながら威嚇するものの相手は数が多い。
「ロックさん!後ろです!」
「うぬ?!ック、厄介だぜ。」
「不味いわ。完全に不利よ?」
どうやら隙を付くハズだったんだけど逆に隙をつかれたらしい。うーん、かなり気配を消して動いていたんだけどどうしてばれた?念のため、力を解放して辺り全体を捜索してみる。うん?崖の上の方に一人だけの気配があるぞ?そっちの方を振り向くと何もない。ただ、僕の力だって生半端なものじゃない。相手が動いたことが分かった。即ち、誰かに付けられていたことになる。相手の方が一枚上手だったか?とは言え、個人的だけどこんなに気配を消すことが出来る山賊なんているのかな?僕は力を検知すると言うとんでも能力を持っているけどそれを持っていなかったら絶対感知出来ないぞ?第六感って言うレベルじゃない。
「大変なんです!頭蓋骨が陥没しているんです!治療魔法を強化するんです!」
アマミちゃんの下には半径2m位の魔法陣が展開されている。丁度、ミネガル先生が倒れている所の回りである。
「おうおうなんだクソガキ?お、てめえが彼奴が言っていたターゲットか?」
その瞬間物凄い鈍い音が鳴った。アマミちゃんが吹っ飛ばされる。山賊の一人に強く蹴り飛ばされていた。
「う…ウワーン!痛いんです!何するんですか!治療中なんです!」
「ハッハッハ!こりゃ飛んで火に入る夏の虫じゃねえか!おい、こいつを取り抑えな!なんなら殺しても構わねえぜ?生きていようが死んでいようがこいつを売り飛ばせば2500万Gの金にならあ!」
は?!何?何その懸賞金みたいなの?!どう言うこと?…いや、疑問に持つのも馬鹿らしい。アマミちゃんは魔女。何処かで絶対漏洩した可能性がある。魔女は人間に毛嫌いされている上、恐ろしいほど利便性がある種族。狙われていても、懸賞金が投下されていてもおかしくない。マジーラさんの警告がいよいよ現実味を帯始めてしまった!
「な、何するんですか!は、話すんです!」
「おら大人しくしやがれ!」
山賊の一人がアマミちゃんを持ち上げそのまま倒れているミネガル先生に叩き付けた。ミネガル先生は完全に気を失っているらしく全く動かない。ただ、魔法陣によって回復を促されているだけである。
「ウワーン!痛いんです!何するんですか!酷いんです!お姉ちゃんに訴えるんです!」
「うっせー、静かにしろや!」
そう言って、山賊の一人がアマミちゃんとミネガル先生に向かって鉄の棒を降り下げた。
「だ、駄目なんです!先生を虐めちゃ駄目なんです!」
アマミちゃんが先生に覆い被さる形でミネガル先生を守った。アマミちゃんの背中に山賊が振り上げた鉄の棒が勢い良くぶつかる。
「ウワーン!痛いん…です!ウワーン!」
他の山賊も、剣の鞘や鞭、木刀なんかで二人に殴りかかる。アマミちゃんはそれに全て耐えようとする。ミネガル先生を庇うために…アマミちゃんの泣き声が絶叫レベルで木霊していく。最早見ていられる状況でない。
「ろ、ロック…さん!!アマミち…ゃんをた…」
自分自身怒りで何を言っているのか分からなくなる。
「ぐは…こいつら…強いぜ…」
こっちの戦況としては、ロックさんが完全前衛で僕はロックさんの背後に来そうな敵を辛うじてあしらっている程度。実質怒りが凄すぎて逆に思うように動けない。リネーラさんも魔法を使ってあしらっているものの敵に完全に囲まれている以上、後衛として安定していない。
「リネーラさん!左です!」
僕はそう言って、リネーラさんの方に飛んでいった弓を叩き落とす。最早僕の仕事は敵を倒すと言うより二人のピンチを守る形に変わっている。何せこのメンバーの中で一番素早いのが僕であるがゆえそうでもしないと誰かが倒れる。
ドスッ!
その時、絶対聞きたくなかった音が聞こえた。振り返ると山賊の一人がいよいよアマミちゃんの頭を金属バットっぽいものでぶん殴ったらしい。アマミちゃんは手で頭を押さえながらもまだミネガル先生を守っている。山賊連中は本格的にアマミちゃんの頭を狙い始めた。僕自身アマミちゃんは魔女のため自己防衛に特化していることは知っている。そのため、山賊の物理攻撃がアマミちゃんにそう簡単には刺さらないことを知っている。ただ、山賊連中は予想よりしぶとく抵抗するアマミちゃんに対しいよいよ頭を武器で殴ると言う最終手段を放ち始めていた。アマミちゃんの絶叫もとんでもないことになっている。最早ここまで行ってしまったがゆえに…あまりの怒りに…僕自身も理性が壊れ始めた。そしていよいよ、今まで辛うじての理性で制御していた「手加減」が出来なくなってしまった。
章が長すぎるので一度切ることにします。クライマックスも近いかな。