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夏のホラー企画投稿作品(小説家になろう公式企画)

「かくれんぼ」とは何か

作者: まさかす

 一般的にそれは、2人以上で行われる遊戯の1つである。ルールとしては1人をサーチャー(捜索担当者)とし、それ以外をターゲット(捜索対象者)とし、予め決めたエリア内に身を隠すターゲットをサーチャーが捜索し発見するというゲームである。


 ゲームの準備段階として、まずはサーチャーの視界を封じる事から始まる。基本的にはサーチャー自らが目を瞑る、若しくは壁を向いて目を瞑るというアナログ的な方法で以って視界を封じ、それを合図にターゲットは隠れるポイントの探索を開始する。サーチャーはターゲット側の準備が終了したかどうかの確認を発声で以って適宜行う。その際に使用されるのが「もぅいいかぁい」という言葉であり、それに対しターゲット側は「まぁだだよぉ」という準備中を表す言葉で以って返答しながら時間を稼ぎつつ、自身が隠れるポイントを探す。そして適宜行われるサーチャーからの確認行為に対し、ターゲット側の「もぅいいよぉ」という返答を以ってゲームスタートとなる。


 ゲームスタート後、サーチャーは直ぐにエリア内の捜索を開始する。そしてターゲットを視認した際はターゲットの名前と「見ぃつけたぁ」という言葉を大声でコールする事でターゲット発見の合図となり、全てのターゲットを発見及び同様にコールする事で1ゲーム終了となる。終了後、直ぐに次のゲームが開始されるが、その際のサーチャーは最初に発見されたターゲットが担う事となる。


 ゲームそのものの終了については特段ルールがある訳でも無く、飽きたから疲れたからと、若しくは家に帰る時間だからといった理由で以って、参加者全員の意思疎通によって終了判断が行なわれる。


 また一般的にサーチャーは「鬼」と呼ばれる事が多いが、そこで思い付くのが「鬼ごっこ」という遊戯である。この「鬼ごっこ」と「かくれんぼ」は共に、サーチャーとターゲットという類似する関係性を持つゲームである。この2つのゲームの違いが何かと言えば、隠れるターゲットをサーチャーが捜索し、視認且つ名前をコールした時点で勝敗が決まる「かくれんぼ」に対し、「鬼ごっこ」とは隠れる事無く脚力を以って逃げるターゲットをサーチャーも脚力を以って追い詰め、ターゲットの身体の一部を手でタッチするという接触行為を以って勝敗を決めるというのが大きな違いである。また「かくれんぼ」は全てのターゲットを発見する必要があるが、「鬼ごっこ」は1人のターゲットさえ確保できれば1ゲーム終了となる事も大きな違いである。云わば「かくれんぼ」とは隠れる犯人達を孤独な刑事が追いつめる「刑事ごっこ」であり、「鬼ごっこ」とは常に走り続ける必要がある事からも身体能力を要するゲームであり、例えるならばキーパー不在のサッカーと、そう言えるだろうか。そこで更に思い付くのが「ドロケイ(泥警)」、もしくは「ケイドロ(警泥)」、更には「缶蹴り」という遊戯であるが、それらも概ね似たようなルールでもって行われる遊戯である。


 さてさてルールに違いはあれども全てに共通している事がある。それはゲーム当事者らによる意思疎通があってこそ成り立つという事。それによりサーチャーからターゲットへ。またターゲットからサーチャーへと立場が入れ替わりながらゲームが存続してゆくのである。

 だがもしもそれが一方的に行われているゲームだとしたら、それは如何様にして勝敗が決まるのだろうか。どのような結果を以ってして、もしくはどの様なプロセスによって終了とする事が出来るのであろうか……



 ◇



 時刻は午前零時。しんと静まり返った人気の無い町の外れに、そのアパートは建っていた。畳敷き六畳一間というレイアウトの部屋が1階に3部屋、2階に3部屋で構成される古い木造アパート。古いが故、廊下を歩けばミシミシと軋む音が止む事も無い。

 私がそのアパートに入居してからまだ1週間。全6室のアパートに住むのが私一人だけという事もあり、初日の晩は戸惑う程の静寂さに恐怖すら覚えた。たまに音が聞こえたかと思えば、それはアパート裏の森から聞こえる葉が擦れ合う音。それは人の存在を感じさせたり賑やかさを表す音では無く、寂しさを強調する音であり恐怖を助長する音だった。とはいえそんな環境であっても3日も住めば慣れてくるもので、周囲に民家も無い場所での一人暮らしは寂しいと思う事もなくはないが、テレビの音を大きくしても近所迷惑になる事もなく、隣人トラブルもほぼ起きない環境というのはとても魅力的であった。便利か不便かで言えば不便な立地と言えるが、許容出来ない程の不便でもない。何よりも驚愕する程に賃料が安く、それは不便さと相殺してもお釣りがくる程の魅力である。

 そんな古いアパートにはクローゼットと呼ぶような洒落た収納場所は無く、襖で閉じる押入れが唯一の収納場所。上下2段式の押し入れの上段には寝具が収まり、下段には引き出し式の衣類ダンスが半分以上のスペースを占め、残りの空間も細々とした物で隙間なく詰め込まれ、これ以上物が増えたとしたら、直接畳の上に置くしか無い状況である。その押入れは高さで言えば凡そ2メートル。その押入れの襖が、少しだけ開いていた。


「……」


 ちゃぶ台と呼ばれる焦げ茶色した丸い机。6畳の真ん中に置かれたその机の前で、私はあぐらをかいて座り、風呂上りの一杯を飲んでいた。その私の横に少しだけ襖が開いた押入れがあり、その開いた隙間には飴玉程の大きさの白くて丸い物が、凡そ5㎝程の間隔でもって上から下へと綺麗に並んでいた…………いや、正しくは押し入れの中の沢山の目が私をジっと見つめていたと、そう言った方が正解だろうか。

 それは「何で探しに来ないんだよ」と、若しくは「早く探しに来いよ」と、「かくれんぼ」なのに探しに来ない私に対する子供達の苛立ちの目と、そんな所だろうか。ならば参加した記憶の無い「かくれんぼ」ではあるが、ここは襖を開けて「見ぃつけたぁ」と、そう言うべきだろうか。だが私は子供達の誰一人として名前を知らない。それに金縛りにあったかのようにして体が一切動かず声も出ず、唯一動かせるのは眼球のみ。


「!」


 突然フッと天井の照明が消え、周囲に街灯といった光源1つ無い部屋の中は瞬時にして真っ暗闇となり、何も見えなくなった。だが耳は聞こえていた。周囲に何も無いが故に耳が痛い程の静けさの中、その耳がスッと何か擦るような音を捉えた。恐らくそれは襖が開いた音。そして暗闇に対し徐々に慣れ始めた私の目には薄っすらと、押入れから音も無く這い出る子供達の姿、素足で以って足音1つ立てずヒタヒタと近付いてくる子供達の姿、アパート裏の森で転げるようにして遊んでたのだろうかと、そう思う程に全身が汚れている子供達の姿が見えた。


 子供達は私の背後に並んだ……いや、私をとり囲むようにしてズラリと並んだ。そして無言のまま見下ろすようにして、私をジッと見つめた。そんな子供達の少しだけ上がった口角が、一体何を意味するかは分からない。

 私は子供達と目が合わぬよう視線を下げた。すると机の下から覗く子供と目があった。青白い顔した子供は視線を逸らす事無く、ジッと私を見つめ続ける。その視線に耐えきれず瞼を閉じようとするも、動くのは眼球だけで瞼は動かない。さてさて何処に視線を送れば良いかキョロキョロしていると、その視線を遮るかのようにして、数人の子供達が私の顔近くへと群がった。そして「睨めっこ」をするかの如く、皆が私の目をジッと見つめた。


 何時始まったのか分からない「かくれんぼ」。暗闇とはいえ全員が姿を現した「かくれんぼ」。もはや誰が鬼かも分からぬ「かくれんぼ」。隠れていたのが子供達であった事からも、必然鬼は私という事になるのだろうが、その鬼に対し反旗を翻すかのようにして一斉に現れた子供達は、一体何を意味するのだろうか。この「かくれんぼ」は一体何を以ってして終わるのだろうか。その終わりとは何を意味するのだろうか。そもそも「かくれんぼ」では見つけたら名前を呼ぶ必要があるが、いまここにいる子供達の誰一人として私は名前を知らない。


 ふと幾つもの青白い小さな手が、私に向かって伸びてきた。ここで私はようやく思い至る。これは「かくれんぼ」では無く「鬼ごっこ」だったのだと。ただ皆で一斉に私を捕まえようとしている事からも、これは私が子供の頃にやっていた鬼役が入れ替わるルールの「鬼ごっこ」ではなく、全ての人を鬼に変えてゆくルールの「鬼ごっこ」のようだ。そして恐らく私は最後の生き残りであり、その私の確保を以ってこのゲームは終わりを迎えると、だから子供達の顔には笑みが浮かんでいたと、つまりはそういう事なのだろうと、私は最期にふと思った。


2021年08月01日 初版

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