004 西の町ウルエボ
新たな登場人物等
西の町ウルエボ:シンシアの母国 (ヒルデンブルグ王国) 最西部の町。隣国リベルナ王国との交易でも栄えている。
アリス:12才。知る人ぞ知る隠れ家的な宿の従業員。
004 西の町ウルエボ
馬車の上から見える景色は、のどかな田舎の風景が続いていた。
進んでいることを忘れるような何の変化もない風景だ。
シンシアとアルミナは、運よく隣国リベルナ王国へ向かう商隊の馬車に便乗していた。
商人たちは、便乗料金だけではなくこれから起こる戦後の貴族とのコネを約束することで、便乗を了承してくれた。
シンシアは、商人たちは本当に貴族のコネを欲しているわけではなく、多くの便乗希望者の中で美少女たちと旅をする理由づけとして、
また、盗賊に襲われた時に差し出す供物として、貴族の二人を優先してくれたことを知っていた。
シンシアは、アルミナが心配すると思い供物の話は内緒にしていた。
(少女二人旅は危険だわ。選択肢はこれしかありませんわ。たぶん。)
シンシアは、馬車の中で商人たちとの話相手にもなり、積極的に情報を引き出したのは言うまでもない。
シンシア達を乗せた商隊は、盗賊に襲われることもなく、王都を脱出してから5日目のところまで進んでいた。
シンシアは、馬車に揺られてうつらうつらしていた。いや、体を前後に傾けながらものすごい動きで船を漕いでいた。
「もうすぐ、西の町ウルエボに入ります。」
シンシアは、馭者からの声で船を漕ぐのをやめて、隣にアルミナがいる事を確認する。
(思いっきり船を漕いでいたような気がしますわ。たぶん。)
「ウルエボは、ヒルデンブルグ王国の最西部の街ですわ。
隣国リベルナ王国との交易でも栄えているそうです。
便乗の契約はここまでなので、宿を探さないとだめですね。
ハンターギルドもあるので、後で情報収集にいってみましょう。
商人たちは、馬たちも休ませるため、宿に泊まるそうです。
ぜひ一緒にと言われましたが、丁重に断っておきました。
商人たちは、明日、王国の珍しいものを買い付けて、ハンターギルドで護衛も頼み、
明後日、荷物を満載にして出発するそうです。
『しばらくヒルデンブルグ王国産の物資は手に入りづらくなるので、安く仕入れられれば大儲けできそうす。』
などと言っていましたわ。」
シンシアは、商人から得たウルエボについての情報をドヤ顔でアルミナに披露した。
シンシアとアルミナは、今日のおすすめの宿を聞こうという事で、ハンターギルドへ来ていた。
二人はハンターギルドへ入り、中を見回したが、それほど大きくはなかった。
ハンターギルドは入り口を入ると、左右に8人がけのテーブルが2つづつ、つまり4つあった。
ハンターギルドの入り口から真っ直ぐに進むと、奥に受付、その左右に掲示板という室内だ。
西の町ウルエボのハンターギルドは、一般的なシンプルな支部だった。
王都のギルド支部は、飲食スペースまであったので大きな違いだ。
二人は、入り口右側のテーブル席に小さな女の子が一人座っているのが気になったが、
左右のテーブルからのハンターたちの熱視線を感じながら、真っ直ぐに受付のところまで進んだ。
受付嬢は、王都のハンターギルドのような殺気立った雰囲気は微塵もなく、ごく普通だった。
「当支部へは初めてですね。ようこそウルエボ支部へ。
さて、どうされましたか?」
「おすすめの宿を紹介していただきたいのですが?」
アルミナは、受付嬢におすすめ宿の紹介をお願いした。
シンシアとアルミナは、馬車での移動中、役割分担について相談していた。
シンシアはパーティーリーダーでもあるので大切な交渉を担当し、それ以外はアルミナが担当と決めていた。
アルミナは、今回の対応は自分と判断した。シンシアはアルミナの側でじっとしていた。
「でしたら。大通りに面した。。。。」
「あたしんとこ泊まってよ。サービスするからさ。」
横槍を入れたのは、入り口で見かけた小さな女の子だ。
本来ならギルド支部内で、客引きは問題あると思うが、小さな女の子だからと目溢しされているのだろう。
アルミナは、小さな女の子を見て、そして受付嬢を見たところ受付嬢は小さく頷いた。問題ないというサインだ。
「ちょ、ちょ、待って逃げないから。」
アルミナは、いきなり手を引かれそうになったが、それを静止しながら、受付嬢に会釈して受付から離れた。
シンシアとアルミナ、小さな女の子は、空いているテーブルで話をする事にした。
「あたし、アリス。
こう見えても12才よ。
小さな宿屋なんだけど、今日はお客様が少ないので・・・」
小さな女の子はアリスと名乗り12才であることを勝ち誇るように告げて、宿屋のことを色々話てくれた。
アリス曰く、知る人ぞ知る隠れ家的な宿だそうだ。
「私は、アルミナ。よろしくね。」
「私は、シンシア。
私たちは、隣国リベルナ王国を目指して旅の途中で・・・」
シンシアは、簡単な説明だけをした。
アリスは、シンシアから説明を受けたことで、どちらが主なのかを理解した。実に目敏い子どもだ。
表通りから一筋下がった裏通りに宿はあった。
確かに、知る人ぞ知る隠れ家だった。
大きくはないが薄汚れたところもなく、ちゃんとした宿だった。
シンシアとアルミナは、ベッドも2つあるということなので、二人で1室を借りた。
料金も1泊夜朝の2食、二人でも銀貨1枚だったので確かに良い宿だ。
アリスは、他の宿だったら内乱の足元見て銀貨2枚でも足りないという。たぶん本当なのだろう。
シンシアが目を覚ますと、すでに朝だった。
昨日は、部屋に案内されるやいなや二人ともベッドに転がり込んで、そのまま寝てしまったようだ。
(昨日の晩ごはんを食い逃しましたわ。)
シンシアは朝食を逃すまいと考えると、急に元気が出てきた。
一緒に朝食をと思いアルミナのベッドを確認したが、アルミナの気配は既になかった。
(アルミナったら、先にひとりで朝食なんて卑怯ですわ。)
ぷんぷんと怒りながら、シンシアは朝の身支度を整えた。
身支度を整えたちょうどその時、アルミナが戻ってきた。
「おはようございます。
馬車での旅でしたので、少し朝の鍛錬をしてきました。
シンシアさ、シンシアは、先に朝食に行かれますか?
私は、少し体を拭いてから向かいます。」
アルミナは、まだ敬語が混じった変な言葉をしゃべっていた。
「おはようございます。アルミナ。
一緒に朝食に行きましょう。私たちおんなじパーティーでしょ。
何なら、私が体を拭いてあげるわよ。」
(ひさびさに、アルミナの沐浴を拝めますわ。たぶん。)
シンシアはアルミナの変な挨拶はスルーして、一緒に朝食に行くことと、
ついでにアルミナの沐浴を手伝うことを提案した。
「だ、大丈夫です。すぐに支度しますね。」
アルミナは電光石火のスピードで身支度を整えた。
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